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【1】アリオン
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用務員室の前までやってくると、中から人が出てきたので英理はのけぞった。
「何突っ立ってんの、あんた。こんな所で」
清掃員の浅間栄が、相変わらず清々しいほどふてぶてしくこちらを見据えている。
いつもと違うのは、清掃員の制服ではなく私服を着ている点だった。
「あの、これ、良かったら」
心の準備が整う前に会ってしまったことで、英理はしどろもどろになった。
「お土産なんです。俺が行ったんじゃないんですけど」
栄は目を細めて英理とケーキの箱とを見比べた。
居心地の悪い沈黙に浸され、息苦しさに耐えていると、
「……私がもらっていいの」
抑揚のない声が言った。
「あ、はい。もちろん、ぜひ」
栄は英理から箱を受け取ると、中のケーキを見て、穏やかに言った。
「ありがとう。帰って家で食べさせてもらうわ」
――何だ、この人、普通の喋り方できるんだ。
心に失礼な感想が浮かぶ。
「意外だね」
栄がじろりと英理を上から下まで値踏みするような視線で見やった。
「あんたみたいな若い子が、こんなおばさんに親切するなんて」
どう応えていいか分からず、英理は「はあ」と間の抜けた相づちを打った。
「名前は?」
「は?」
「あんたのお名前。何ていうの」
栄は強い語調でせっついた。
「あ、向井です。向井英理っていいます」
「エイリ?女みたいな名前だね」
ぐさりと切れ味のよい刃で刺されて、英理は絶句した。
物心ついてから「エリちゃん」とからかわれ、何百回と言われてきた台詞を、今また聞くことになろうとは。
「じゃあね」
ぶっきらぼうに言い残し、栄はがに股で去っていく。
――何だかなあ。
いい人なんだか、悪い人なんだか良く分からない。
英理は「お疲れさまです」と頭を下げた。
「何突っ立ってんの、あんた。こんな所で」
清掃員の浅間栄が、相変わらず清々しいほどふてぶてしくこちらを見据えている。
いつもと違うのは、清掃員の制服ではなく私服を着ている点だった。
「あの、これ、良かったら」
心の準備が整う前に会ってしまったことで、英理はしどろもどろになった。
「お土産なんです。俺が行ったんじゃないんですけど」
栄は目を細めて英理とケーキの箱とを見比べた。
居心地の悪い沈黙に浸され、息苦しさに耐えていると、
「……私がもらっていいの」
抑揚のない声が言った。
「あ、はい。もちろん、ぜひ」
栄は英理から箱を受け取ると、中のケーキを見て、穏やかに言った。
「ありがとう。帰って家で食べさせてもらうわ」
――何だ、この人、普通の喋り方できるんだ。
心に失礼な感想が浮かぶ。
「意外だね」
栄がじろりと英理を上から下まで値踏みするような視線で見やった。
「あんたみたいな若い子が、こんなおばさんに親切するなんて」
どう応えていいか分からず、英理は「はあ」と間の抜けた相づちを打った。
「名前は?」
「は?」
「あんたのお名前。何ていうの」
栄は強い語調でせっついた。
「あ、向井です。向井英理っていいます」
「エイリ?女みたいな名前だね」
ぐさりと切れ味のよい刃で刺されて、英理は絶句した。
物心ついてから「エリちゃん」とからかわれ、何百回と言われてきた台詞を、今また聞くことになろうとは。
「じゃあね」
ぶっきらぼうに言い残し、栄はがに股で去っていく。
――何だかなあ。
いい人なんだか、悪い人なんだか良く分からない。
英理は「お疲れさまです」と頭を下げた。
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