許された危険

凪子

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【2】ヴェリナス

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「式は挙げないの?」

入籍の予定を話すと、凜は素朴にそう問うた。

英理は首を振って、

「初婚じゃないんだし、今さらだよ。もう顔合わせもすんでるし」

「でも、江本さんだっけ。女の人のほうは初婚でしょ?」

「それはそうなんだけどな」

と言って、英理はかいつまんで事情を話すことにした。

「江本さんは孤児なんだよ。中学の時に両親を亡くして、二人とも一人っ子で両親も他界してたから、親戚づきあいが薄かったらしく、父親と親しくしていた人の家に引き取られたんだそうだ。
成人してからは、その後見人の家を出て一人で暮らしてたらしいから、結婚費用を貯めるどころじゃなかった。
それで本人も、式はいいって言ってるそうだ」

「ふうん。でも、それっておかしくない?」

凜は人差し指を立てて、小鼻に皺を寄せている。

「いくら金銭的な事情があっても、女の子が一生に一度の結婚式を挙げなくていいって、そんなに簡単に踏ん切りがつくものかな」

英理は苦笑気味に頷いた。

「普通はそうだろうけど、彼女の場合、そういうのに頓着なさそうだったから。それに、もし式を挙げることになったら、当然うちの親父が費用を出すことになるだろ。そしたら後見人をしてくれてた人も、気を使ってお金を出そうとするかもしれない。どっちかというと、彼女はそっちに気を使ったような気がする」

「よく分かるんだね、彼女のこと」

嫌味ではなく、半ば感心したように凜は言った。

英理は内臓が引きつったような感覚になる。

「じゃ、新婚旅行とかもなし?」

「来週の金曜に籍入れて、土曜から親父の田舎のほうに挨拶がてら行くってさ。じいさんもばあさんもお墓に入ってるから、報告というか、墓参りを兼ねてだけど」

「どこなの?」

「鹿児島」

「へえ……」

と、これもまた凜は残念そうだった。

「新婚旅行なんだから、海外ぐらい行ったらいいのに」

とかく結婚式やそれに付随する華やかなものに夢を見がちなのが女性だとしたら、凜の反応が普通で、弥生のほうが異常なのかもしれない。

決定したことを父から知らされたときは、それが特に変とも思わなかったし、考える余裕もなかった。

将来的に凜と結婚することは考えているし、もう少し蓄えも増えて経済的な基盤が整ってからとは思っているが、どうやら結婚式も新婚旅行もとてつもなく費用がかかりそうだ。

正直いろいろと面倒くさいし、今から先が思いやられる。

それでも、貯めておかないとな――と思う。

一生に一度の結婚式、夢が叶った彼女の喜ぶ姿が見たい。

――父は、そうは思わなかったのだろうか。

式を挙げて、そこで誰を呼ぶかと考えたときに、来てくれる人の顔が思い浮かばなかったのだろうか。

だとすれば、少しは負い目を感じているということになりはしないか。

周囲に祝福されない結婚でも、幸せになることはできる。

だが父はともかく、弥生はそもそも、幸せになりたいと望んでいるのだろうか。

それが分からない、こうしたいという願いをはっきりと手のひらに感じられないことが、いつまでも英理の胸を不安で疼かせる要因なのかもしれなかった。




































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