許された危険

凪子

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【2】ヴェリナス

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父と弥生が寝ているところなど想像がつかないし、したくもないが、夢に見るのは玄関だった。

玄関先に、おもちゃみたいに小さい赤いエナメルの靴が、父の革靴の横に並んで置かれている。

その光景を、何度となく繰り返し夢に見た。

登場人物は一切出てこない。

ただ開かれた玄関に並ぶ、二つの靴が全てを物語っている。

「食欲なさそうだね」

ゴーヤチャンプルーを半分以上残した英理を見て、凜はさり気なく指摘した。

「夏バテ?うなぎでも買ってこようか」

「いいよ」

英理は手を振り、情けない気分でビールを飲み干す。慣れたはずの味が、ひどくまずかった。

今日の凜は警察官の制服をアレンジしたコスチュームを着ている。

紺青を基調とした全体的にかっちりとしたデザインだが、スカートは短く、腕章や胸章は花模様にアレンジされていた。

「ね、これどう?」

両手を広げて一周回り、凜が尋ねる。

「似合ってるよ」

「適当すぎ」

と、凜が英理の頭を軽くはたく。

英理がぼんやりしたままの様子を見て、本棚からアニメ雑誌を持ってきて隣に腰をおろした。

「今度はこんなのしようと思ってるんだー」

凜が自分の趣味の本を見せてくることは珍しく、英理は興味を覚えて誌面を覗き込む。

そこには赤や青や白といった鮮やかな色彩の、ぴっちりとした水着のような素材の服に全身を包んでいる少年少女の姿があった。

「これ全身タイツじゃん」

思わず言うと、憤慨した様子で、

「プラグスーツ!」

と訂正された。

「素材が難しいんだよね。ぴちっとしてて柔軟性があって、でも甲冑も必要だから……」

「まさか作る気?」

「もちろん」

凜は胸を張った。

「出来上がったら、一番最初に英ちゃんに見せてあげるね」

「はあ……。まあ、頑張れよ」

英理は気の抜けた相づちを打った。

少年少女たちの耳あたりについているものを指さして言う。

「これ何?頭にアンテナつけてんの?」

「インターフェイス!」

凜は恐ろしい冒涜を見たような面持ちで叱責する。

「これで接続してるの」

――何とだよ。

思ったが、英理は口に出さないことにした。

これ以上突っ込んで、怒らせるのは得策ではない。

代わりに、おそるおそる忠告した。

「頼むから、それで外を出歩かないでくれよ。捕まるから」

「家の中だけだもん」

凜は小さな鼻を可愛らしく上向けて言った。

「だから英ちゃん、今度の日曜日、生地屋さん行くのついてきて」

「ああ悪い、今週は駄目だ」

英理は片手を立てて断った。

「実家の荷物、整理しに行かなきゃいけないんだよ」

「そっか……新しいお家になるんだっけ」

凜は言うと、英理の首に手を回し、頭を自分の胸元に引き寄せた。

「寂しくなるね」

「……うん」

初めて、素直に頷くことができた。

いい歳して、いい大人なのに、父親の再婚にこれほど傷つくなんて情けない。

自分でも、どうかしてると思う。

なのに、そんな意地を張る気持ちが、温もりと一緒にどこかへ溶けてゆく。
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