女子高生占い師の事件簿

【２】リロケーション

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律は、その不自然な動きを見逃さなかった。

「亜子、お前ちょっと手ぇ見せてみな」

「あの、でも」

「いいから」

有無を言わせぬ口調で手のひらを引きはがされる。

白い手首に浮かんだ跡を認めると、律は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……悪い。痛かったろ」

「平気……です」

律は立ち上がって、台所から救急箱をとってきて、湿布を巻いてやった。

亜子は深く息をついてから言った。

「……実は私、しばらく前からお付き合いしている人がいるんです」

「へえ」

律の返事に、亜子は落胆の表情を見せた。

「驚かないんですか？」

「驚かないよ。お前が吉本新喜劇に入ったっていうんなら驚くけど」

けれど――律は首をひねった。何かが引っかかる。

「学校は許してくれんの？男女交際とか、目を吊り上げそうなもんだけど」

清く正しく美しく。女の園の定番だ。

「学校には知られてませんから。……ネットで知り合ったし」

すぼまった語尾をとらえ、律は瞠目した。

「は？アプリ？ってことは、出会い系？」

亜子と出会い系。ナイチンゲールと殺人鬼くらいかけ離れた組み合わせだ。

「そういうのじゃないです。面白いブログを書いている方がいて、コメントに書き込みをしていたら、ラインをするようになったんです。それでこの間、一度会って、そのときにお付き合いを申し込まれて」

「ちょっと待て。初回で付き合う？」

ヤリモクだろうが、という悪態はかろうじて胸の内にしまいこむ。

自分の愚かさも無防備さも気づいていない亜子がうとましかった。

「私も、もう少し会ってからにしたいって言ったんですけど……押し切られる形で、オーケーしてしまって。それから、彼の様子がちょっとおかしくて。一分おきにラインがきたり、一日に何十回も電話をかけてきたり、この間は学校の前で待ち伏せされてて」

たどたどしい話し方と愚にもつかない内容に、いらだちがピークに達した律は、身を乗り出してじろっと亜子を睨んだ。

案の定、亜子はびくりと反応した。胸の前で構えた手が硬く握られる。