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【2】リロケーション
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「あのなあ……今、よくやってるよな?ストーカーとか、ネット殺人とか。簡単に個人情報は渡すなって、学校でもガンガン言われてるはずだよな?危険だって分かりきってるよな?」
「違うの。そういうんじゃ」
「どうせ、ラインじゃさぞ誠意あるメッセージをもらえたんだろうけど、そんなの嘘だからな?」
「……ごめんなさい」
亜子は肩を落とし、蚊の鳴くような声で言った。
律は腹立ちをまぎらわそうとして息をつき、失敗して小さく舌打ちした。
「とにかく切れ。今すぐラインブロックしろ。警察に相談するのもありだし、もし学校の前に来たら、俺呼べ。すぐ行くから。それから、こんな遅い時間に、制服姿でふらふらうろつくな」
亜子はおずおずと頷いた。
律はたたみかける。
「一つ言っとく。下心のない男はいないんだから、自分の身は自分で守れ。何かあってから泣いても遅いぞ」
「……りっちゃんも?」
律は一瞬目を見開いたが、聞こえなかったふりをして黙殺した。
「晩飯食ってないから、そろそろ帰るわ。じゃあな」
ひらひらと後ろ手に手を振って、部屋を出る。
追いかけてくる亜子の唇が何か言いたげに動いた気がしたけれど、律が立ち止まることはなかった。
翌日のストリートライブは、珍しく調子が悪かった。
サビで比呂の声に重ねてハモるとき、二度も音を外した。我ながら大失態だと律は思った。
もちろん原因は分かっていたが、絶対に認めたくなかった。
「何か気になってる、って顔してる」
マンションへ向かう途中、律と比呂に挟まれて歩きながら、恵果はいたずらっ子のように笑った。
「別に」
律はそっぽを向いたが、恵果は鞄から名刺くらいの大きさの封筒を取り出して、律に手渡した。
「はいこれ。かわいい幼馴染に渡しておいて」
「何で亜子のこと知ってるんだよ?!エスパーかよ、お前」
すっとんきょうな声に、比呂は隣で笑い声を上げる。
「中は見ないでね」
それと、と一呼吸置き、恵果は真顔で付け加えた。
「今後一切、地下に潜っちゃ駄目。エレベーターでも洞窟でもマンホールでも。これは忠告じゃなくて、警告だよ」
星が動いた。何かが変わり始めている。
律が何を尋ねても、恵果は空を見つめたまま、答えようとしなかった。
「違うの。そういうんじゃ」
「どうせ、ラインじゃさぞ誠意あるメッセージをもらえたんだろうけど、そんなの嘘だからな?」
「……ごめんなさい」
亜子は肩を落とし、蚊の鳴くような声で言った。
律は腹立ちをまぎらわそうとして息をつき、失敗して小さく舌打ちした。
「とにかく切れ。今すぐラインブロックしろ。警察に相談するのもありだし、もし学校の前に来たら、俺呼べ。すぐ行くから。それから、こんな遅い時間に、制服姿でふらふらうろつくな」
亜子はおずおずと頷いた。
律はたたみかける。
「一つ言っとく。下心のない男はいないんだから、自分の身は自分で守れ。何かあってから泣いても遅いぞ」
「……りっちゃんも?」
律は一瞬目を見開いたが、聞こえなかったふりをして黙殺した。
「晩飯食ってないから、そろそろ帰るわ。じゃあな」
ひらひらと後ろ手に手を振って、部屋を出る。
追いかけてくる亜子の唇が何か言いたげに動いた気がしたけれど、律が立ち止まることはなかった。
翌日のストリートライブは、珍しく調子が悪かった。
サビで比呂の声に重ねてハモるとき、二度も音を外した。我ながら大失態だと律は思った。
もちろん原因は分かっていたが、絶対に認めたくなかった。
「何か気になってる、って顔してる」
マンションへ向かう途中、律と比呂に挟まれて歩きながら、恵果はいたずらっ子のように笑った。
「別に」
律はそっぽを向いたが、恵果は鞄から名刺くらいの大きさの封筒を取り出して、律に手渡した。
「はいこれ。かわいい幼馴染に渡しておいて」
「何で亜子のこと知ってるんだよ?!エスパーかよ、お前」
すっとんきょうな声に、比呂は隣で笑い声を上げる。
「中は見ないでね」
それと、と一呼吸置き、恵果は真顔で付け加えた。
「今後一切、地下に潜っちゃ駄目。エレベーターでも洞窟でもマンホールでも。これは忠告じゃなくて、警告だよ」
星が動いた。何かが変わり始めている。
律が何を尋ねても、恵果は空を見つめたまま、答えようとしなかった。
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