女子高生占い師の事件簿

凪子

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【2】リロケーション

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「調子に乗った私が悪かったんです。こんなに楽して、こんなに簡単にお金が稼げるんだって」

亜子は自分の両手を見つめる。

「私の学校はみんなお金持ちで……こうでもしないと、お金が足りなかったんです。遊んだり、ご飯食べたり、服とかアクセサリーも買えなかった。見捨てられたくなかった。友達と付き合っていくだけのお金が欲しくて」

そうやって秘密にお金を稼いでいることを知ったら、両親が悲しむ。律に知られたら軽蔑される。

分かっていたけれど、亜子には引き返すだけの勇気がなかった。

「りっちゃんなら、私の様子がおかしいと気づいて、ついてきてくれるって思った。私は本気では振り払わなかった。りっちゃんのことより、自分の身のほうがかわいかったんです」

恵果は亜子の懺悔の全てを、否定しなかった。

「お金で買える友達もいるけど、両親は買えないよ?もちろん、りっちゃんもね。あなたを心底愛して、心配してくれる人たちを大切にしようよ」

恵果は微笑んだ。

「学校の友達が離れていってもいいじゃん。これからは、私が亜子ちゃんの友達になるし。言っとくけど、私はお金では買えないよ?」

彼女が試しているのは、もっと心の奥にあるものだ。

亜子は深く頷き、恵果の瞳を見た。もう視線は揺るがない。

「私、もうりっちゃんを好きでいる資格、ないですね」

「あら、好きでいるのに資格なんか要らないでしょ?まあ、でも、あの人と亜子ちゃんじゃ吊り合わないか」

恵果は軽く片目をつむった。

亜子は淋しげに笑って、ゆるくかぶりを振った。

「りっちゃんは、昔から私の憧れそのものだったんです。今もずっと」

律は常に自分ではなく、はるか遠い場所を見つめている。昔も、今も。

その視線が自分と重なることは、きっと生涯ないのだろう。

自分と律は誰よりも近く、遠い場所に立っているのかもしれなかった。

「……あの人は私の気持ちには、ちっとも気づいてくれませんでしたけど」

切なさが胸を襲う。

――その痛みを反芻しながら、亜子は家路についた。
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