女子高生占い師の事件簿

凪子

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【2】リロケーション

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「あーあ。いい男が台なしじゃない」

「……お前ら。揃いも揃って同じこと言うな」

比呂に肩を貸してもらいながら、律が恵果の店を訪れたのは、亜子が帰ってから数時間後だった。

「今日は帰って休めって言ったのにね。まあ人の言うことを聞かなくて」

比呂は苦笑しながらソファーに腰を下ろし、煙草を吸って一服する。

「りっちゃんらしいわ」

恵果は呆れたように笑った。

律は咳払いして言う。

「えー、あー……まあ、ありがとな。お前のおかげで命拾いしたわ」

恵果はきょとんと小動物のように目を丸くした。

それから、ふんわりと微笑む。

「どういたしまして」

てっきり嫌味を言われるのかと思っていたので、素直な返事に律は拍子抜けした。

比呂もテーブルに頬づえをつき、驚いたように二人を見つめている。

「何だよ。お前がそんなだと、気持ち悪ぃな」

「りっちゃんが無事でよかったわ。逆恨みって、恐ろしいから」

恵果の労うような言葉と、そっと置かれたカルピスに、律の胸は疼いた。

どうしてかこの女には、強がりも虚勢も通用しない。

「いや、実は、逆恨みとは言い切れなくてさ。俺とツトム、仲よかったし。確かに詞を見せてもらったことはないけど、よく話はしてたからな。構想とか、イメージとか、好きな曲風とか」

あのときは怒りに我を忘れて、完全な濡れ衣だと言い返したけれど、本当は怖かった。

自分の作品が無意識にツトムをパクっていて、それが評価されたのではないかと。

そんな律の後ろめたさを払拭するように、比呂は穏やかに諭した。

「お前の書いた詞は、お前のものだよ。お前の作品だ」

他の誰も生み出すことが叶わない、唯一無二のオリジナル。

律は比呂がかけ値なしの本音を言っているのを感じて、律はうつむいた。

「……そうだな」
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