105 / 138
【4】トランジット
105
しおりを挟む
ぎこちない空気が流れる。
いつもなら、恵果はすぐに気を取り直して笑う。
だが、今日はじっとうつむいたままだった。
「あの、」
言いかけた律の言葉に重なって、恵果が決然と言った。
「私、しばらくお店畳もうかと思うの」
「へ?店って……」
「ここじゃなくて、占いのこと」
律は目を皿のようにして、まじまじと恵果を見つめた。
「……嘘だろ?」
「嘘じゃないよ」
「何か言われたのか?何か嫌な目に遭ったのか?そうなんだな?」
律はだしぬけに恵果の両肩をつかんで揺すぶった。
「言えよ、恵果」
声を荒げる律とは対照的に、恵果は冷静そのものだった。
「いいえ」
「じゃあ何で」
息がかかるくらいの至近距離で、恵果の視線が律の目を射た。
「ここに迷惑をかけたくないから」
穏やかな声だった。
律は怒りの矛先を失って、沈黙した。
「……どういうことだよ。何でそんな急に」
「急じゃないの。前々から考えてた。だから、そんな顔しないでよ」
恵果は律の頬を両手で挟み、にっこりした。そして立ち上がる。
「さ、今日はもう閉めるから。帰った帰った」
律の背中を押して明るく言い、扉の前へ押しやる。
抵抗するように律が口を開くのを、柔らかく制して言った。
「今日は本当にありがとう」
「恵果」
恵果は嘘のない笑顔を浮かべて手を振った。
「さよなら」
【第4章・終わり】
いつもなら、恵果はすぐに気を取り直して笑う。
だが、今日はじっとうつむいたままだった。
「あの、」
言いかけた律の言葉に重なって、恵果が決然と言った。
「私、しばらくお店畳もうかと思うの」
「へ?店って……」
「ここじゃなくて、占いのこと」
律は目を皿のようにして、まじまじと恵果を見つめた。
「……嘘だろ?」
「嘘じゃないよ」
「何か言われたのか?何か嫌な目に遭ったのか?そうなんだな?」
律はだしぬけに恵果の両肩をつかんで揺すぶった。
「言えよ、恵果」
声を荒げる律とは対照的に、恵果は冷静そのものだった。
「いいえ」
「じゃあ何で」
息がかかるくらいの至近距離で、恵果の視線が律の目を射た。
「ここに迷惑をかけたくないから」
穏やかな声だった。
律は怒りの矛先を失って、沈黙した。
「……どういうことだよ。何でそんな急に」
「急じゃないの。前々から考えてた。だから、そんな顔しないでよ」
恵果は律の頬を両手で挟み、にっこりした。そして立ち上がる。
「さ、今日はもう閉めるから。帰った帰った」
律の背中を押して明るく言い、扉の前へ押しやる。
抵抗するように律が口を開くのを、柔らかく制して言った。
「今日は本当にありがとう」
「恵果」
恵果は嘘のない笑顔を浮かべて手を振った。
「さよなら」
【第4章・終わり】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる