ディエス・イレ ～運命の時～

本編

23

（何だかなあ）

私は混乱していた。

さっきまで結婚だ何だ言っていたわりに、全然恋愛っぽい雰囲気じゃない。

私も再会したばかりでそんな気分にはなれないし、爽君もずっと、それどころじゃないって顔をしている。

「ねえ、爽君」

「何だ？」

「何があったか見てきてくれない？　私、ここにいるから」

爽君は渋い顔をしたので、両手を振ってみせる。

「大丈夫。私、絶対ここを離れないから。ほら、紘ちゃんのことも待ってなきゃだし」

そう口にして、そういえばと思い当たる。

紘ちゃんはどこにいるのだろう。

トイレに行ったきり、随分長いこと帰ってこない。

「……分かった。見てくるから動くなよ」

爽君は立ち上がったが、それよりウェイターの人が近づいてくるほうが早かった。

（お会計かな？）

私は思ったが、彼の表情のあまりの険しさにたじろいだ。

強いて抑えた低い声で、爽君に何かを耳打ちする。

そのとき、確かに爽君は私を見た――ほんのわずかな一瞬、奇妙に無表情な目で。

ぞっとした。