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本編
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しおりを挟む職員室でノートを提出し、人気のない廊下を歩いていると、誰かの声が耳に入った。
「……けど……久松……」
(爽君!?)
びっくりして立ち止まり、思わず廊下の角で聞き耳を立ててしまう。
相手は空き教室で話しているようだった。
「今動くのは危険です。思い出しかけているときに、働きかけてしまっては」
「いいえ、駄目よ。すぐ手を打たなければ、大変なことになる」
「しかし」
「分かってるの? 舞のロゴスは解放されそうになっているのよ」
思いがけないところで自分の名前が出て、私はぎょっとした。
(ロゴス……?)
聞いたこともない単語に眉を寄せる。
「前世を思い出せば思い出すほどに、ロゴスの力は弱まる。完全に解放されれば、『セラ』が発動するわ。鳥籠に封じられて、鍵は意味をなさなくなる」
理知的な声、どこかで聞いたことのある声だった。
(誰……?)
内容は意味不明だが、前世という言葉で確信を得た。
やはり、私のことを話しているのだ。
それに、たしか爽君も別れるとき『鳥籠』と言った。
爽君の面影が浮かび、胸がきゅっと痛くなる。
その瞬間、ガラッと音がして教室の扉が開いた。
私は慌てて身を翻し、階段を一気に駆け降りる。
(何で逃げてるんだろう、私)
分からない。でも、何となく、聞いているのを知らないほうがいい気がした。
(何が起こってるんだろう……)
ロゴス。前世。鳥籠。そして、鍵。
不思議な単語が頭を渦巻いている。
今までは私の夢の中の話だったことが、ここへ来て爽君や、他の誰かの口から同じ言葉を聞いている。
だったら――繰り返し見るあの夢は、私に何かを伝えようとしているのではないだろうか?
――ディエス・イレが近い。
そう頭の中で声がする。
前世の夢とディエス・イレは、きっと密接に関わりがあるはずだ。
(知りたい)
マイアのことを。前世のことを。私は何を忘れているのかを。
そして爽君は私に、本当は何を伝えたかったのかを。
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