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本編
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しおりを挟むその後の移動教室の記憶は、とてもおぼろげだ。
結局、車両トラブルは一時間ほどで解消され、私たちは無事に京都に到着し、観光を楽しんだ。
私も体調に問題なく、八つ橋を食べたり舞妓さん体験をしたり、清水寺で写真を撮ったり竹林を歩いたりと楽しんだ――はずだ。
でも、ほとんど記憶にない。
強烈に覚えているのは、あのときの夢、マイアとして生きていた前世の記憶と、溢れるほどの懐かしさ、愛おしさだけだ。
ちょっともったいないなと思うけど、仕方がない。
そのまま学校は夏休みに入った。
私は宿題をしたり、両親のいる実家に戻ったり、友子とプールに遊びに行ったり、紘ちゃんとデートをしたりして過ごした。
時々、爽君のことを思い出し、そのたびに胸は痛むけれど――あの「ディエス・イレが近い」という声は聞くことはなかった。
『オリンピックまであと一年を切りました。東京都では、会場となる新国立競技場の建設を急ピッチで進めています』
そんなニュースが流れ、夏休みが明けた頃、クラスに教育実習生がやってきた。
【青柳由記】
クラスはざわついていた。何というか、独特の騒ぎ方だった。
「男?女?」
「はーい、こんにちはっ★」
マクロスFのランカ・リーのごとく、右目の真横で横にしたピースサインを「きらっ」とさせて、その人は明るいトーンで言った。
明るいとはいえ、立派な男性の声である。
「青柳由記です。ゆっきって呼んでね?」
品のいい黒のリクルートスーツに深緑色のネクタイ、ぴかぴかに磨かれた靴。
だが小柄で、男性とは思えないほど可愛らしい童顔と、立ち居振る舞いを見ていると――。
「先生、オネエですか~?」
男子生徒の一人が突っ込み、どっと笑いが起こる。
「ちょっと、やめなさい。失礼でしょう」
ゆっき先生の隣に立っていた浅見先生が眉を寄せる。
「全然~」
ゆっき先生は指を振り、IKKOさんの「どんだけ~」と同じテンションで言った。
(一体、何者?)
次々と繰り出されるクセ強めのリアクションに、私は目を白黒させる。
「マジレスするとオネエじゃないよ。これは『ゆっき』っていうキャラ。このキャラで教育実習やってみようと思って」
きゃぴっとした雰囲気を消し、真顔で、普通のトーンでゆっき先生は言う。
そうしてみると、意外に知的な印象だった。
不思議な世界観に一気に引き込まれたのか、みんなが興味津々で見入っている。
私も彼を見ていると、不意にぱちっと目が合った。
「よろしくね」
ゆっき先生は微笑んで、首を傾けてみせる。
その瞳に、どこか懐かしいものを感じて、私は戸惑いつつも頷いた。
(あれ……何でだろう。初めて会ったはずなのに)
心のどこかで、私はこの人を知っている。そんな気がした。
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