ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

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「ディエス・イレのせいじゃない。俺たちはもう、元には戻れないんだよ。爽兄が帰ってきたあの日、それが分かった」

「爽君に……階段から突き落とされたから?」

紘ちゃんは首を横に振った。

「違う。爽兄も俺も、同じ人を本気で好きになったからだ」

どくん……と心臓が熱く脈打った。

呼吸が止まる。まばたきもできない。紘ちゃんの瞳に射すくめられて。

「好きだよ、舞ちゃん。初めて会ったときから、ずっと好きだった」

逃げ場がなかった。退路は全て断たれていた。紘ちゃんが自らそうしたのだ。

「私も……紘ちゃんが好きだよ」

「そっか。俺たち両想いだね」

冗談っぽく言って、紘ちゃんはくしゃりと笑った。

傍から見れば、バカップルの他愛のないやりとりに見えるに違いない。

でも私は――今にも泣き出しそうだった。

(お互いに好きなのに……こんなに悲しいってこともあるんだね。初めて分かったよ……)

私を好きだからって、紘ちゃんは『鍵』の役目を降りたりはしない。

私もまた、紘ちゃんが好きだからといって、彼がディエス・イレを起こすのを見守ろうとは、やっぱり思えない。

「変なの。嬉しいのに、すごく寂しい。ここにいるのに、紘ちゃんがすごく遠く感じる。私たち、きっと何千年も、こんなふうにすれ違ってきたんだね……」

胸が軋む。涙で目の前がぼやける。

でも、この思いはどうすることもできない。

「じゃあね、舞ちゃん」

と言って、紘ちゃんは立ち上がった。

その仕草を見て、私は悟った。

もう二度と、会わないつもりだと。

(紘ちゃんが行っちゃう)

背中で別れを告げながら、紘ちゃんはカフェテリアを横切っていく。

私は馬鹿みたいに、ただ突っ立ったまま、彼の後姿を見送ることしかできない。

ごめんね。ありがとう。さようなら。

どんな言葉も、頭を素通りして消えていく。

(紘ちゃん……)

残されたのは、握り締めていた爪が手のひらに食い込んだ痛みと、赤い痕だけだった。











































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