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第一話
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後悔しなかったことなんてない。いつだって自分の選択に後悔してきた。やり直せたら、なんて都合の良い言葉は嫌いで、もしやり直せると言われても素直に頷きはしないだろう。それでも後悔しつづける自分はずっと、矛盾を抱えている。
なんてことはない、ある日の夜。仕事が終わらなくて残業していたらどっぷりと日は沈んでいた。今日は金曜日、他の同僚たちは花金だとさっさと帰っていった。
「帰んのはいいけど人に押し付けてくなよ、くそっ…」
小さくつく悪態は、自分一人の薄暗いこのオフィスでは誰にも届かない。
「あーあ、仕事選び間違えたかなぁ」
なんて、ぼやいてみても誰もたすけてはくれなくて。自分でした選択を自らの手で否定するのは虚しいことで。
「……かえろ」
なんだか私は少し疲れているみたいだ。家に帰ってゆっくり風呂にでも浸かろう。そうして悲しいほど静かなオフィスを後にした。
コツコツと、静寂に包まれた夜の世界に自分の足音だけがこだまする。就職祝いで初めて自力で買ったこのパンプスも、今や汚れてボロボロになっていた。
「買った当初は、きれいに使おうと思ってたのにな…」
毎日手入れして、履く度にうきうきして、そんな気持ちは数ヵ月で落ちてしまった。今は見るだけでむなしくなる呪いのパンプスだ。汚れは頑張った証、だなんて前向きなことは言えない。
下を向くと虚しいからと見上げた夜空は、都会にしてはそこそこ綺麗だ。まぁこの辺りは街灯もあまりない寂れたところだから、綺麗に見えるのだろう。疲れて会社をでる度に、駅から遠いこの家を安いからといって選んだ自分を恨んでいたが、今日ばかりはなんだか救われた気がした。
ふと、この閑散とした世界に光が差し込み、目を前に向ける。そこには小さな古びた店があった。
「こんな夜遅くに……」
店から漏れ出す明かりは、闇に包まれたこの辺りでは異色の輝きを放つ。変わらない道を来たのだが、いつのまにこんな店があったのだろうか。ここまで目立つ店があったことにも気づかないくらい、私は疲弊していたのだろうか。
いつもなら気にしない。疲れているからとスルーするはずだ。だが今日は違った。なんだか違うことがしてみたくなった。当たり前に疲れる毎日を変えたくなったのだろうか、ふらふらと、まるで導かれるかのように、私はその店へと入っていった。
カランカランカラン…━━━。入店を告げる音と共に店内へ足を踏み入れる。
「すご………」
モノが溢れる店内は、ごちゃごちゃとしているようでしっかりと整頓されている。天井近くまで積み上げられている商品に、思わず声を漏らした。
変わった形の商品たちに目を奪われ、あちこち店内を物色していると店の奥から声が聞こえた。
「いらっしゃい。お客さんかな?」
その声にはっとして商品から目を上げる。そこには30代程の長髪の男性が立っていた。
「え、あ、あの、すみません…勝手に色々とみて…」
男性の顔は薄暗い店内でもはっきりとわかるほど整っている。その綺麗な顔に気圧されたのか、思わずでた謝罪の言葉が尻すぼみになっていった。
「あぁ、いや、いいんだ。好きに見てくれ。といっても、そんな面白いものはないんだがね。」
いや、面白いものばかりだろ。と内心突っ込みをいれるくらい、用途のわからないモノばかりが並ぶ店内。いたたまれず早々と帰ろうとするが、ゆっくりと見ていってくれ、と引き留められる。
どうしたものかと店内をぐるりと見渡した。ふと、モノで溢れかえるこの店内で目につくものがあった。
「これは…万華鏡…?」
手を伸ばしその商品を手に取ると、男が近寄ってきた。
「そう…これは思い出万華鏡さ」
目を細目ながらそう呟いた男は、私の手から万華鏡を受けとると、中を覗いて見せた。
「君も覗いてごらん」
そう促され、万華鏡を手渡される。思わずたじろぐが、さぁ、と再度促され恐る恐るその万華鏡を覗き込んだ。
「………なんも見えませんけど」
「そうさ、だって君はまだ、なにを見たいか、いつを見たいか決めていないだろう?」
真っ暗でなにも見えない万華鏡から顔を離し、訝しげに男性を見る。
「それはいったいどういう…?」
「さっき言っただろう、これは思い出万華鏡だと。この万華鏡はその人が戻りたい過去の、一日を見せてくれるんだ」
「は…?」
なにを言っているんだと言わんばかりに男を見る。当たり前のように言ってのけるこの男を不気味に感じ、万華鏡を男に返すと足早に店を去ろうとした。
「よくわかんないですけど…失礼します」
「君は、何かに後悔をしてここに来たんだろう?」
その言葉で、店から出ようとドアに掛けていた手が思わずとまった。しかしそれは一瞬で、
「……意味がよくわからないです」
振り返ること無くそう呟き、私はこの古びた店を後にした。
なんてことはない、ある日の夜。仕事が終わらなくて残業していたらどっぷりと日は沈んでいた。今日は金曜日、他の同僚たちは花金だとさっさと帰っていった。
「帰んのはいいけど人に押し付けてくなよ、くそっ…」
小さくつく悪態は、自分一人の薄暗いこのオフィスでは誰にも届かない。
「あーあ、仕事選び間違えたかなぁ」
なんて、ぼやいてみても誰もたすけてはくれなくて。自分でした選択を自らの手で否定するのは虚しいことで。
「……かえろ」
なんだか私は少し疲れているみたいだ。家に帰ってゆっくり風呂にでも浸かろう。そうして悲しいほど静かなオフィスを後にした。
コツコツと、静寂に包まれた夜の世界に自分の足音だけがこだまする。就職祝いで初めて自力で買ったこのパンプスも、今や汚れてボロボロになっていた。
「買った当初は、きれいに使おうと思ってたのにな…」
毎日手入れして、履く度にうきうきして、そんな気持ちは数ヵ月で落ちてしまった。今は見るだけでむなしくなる呪いのパンプスだ。汚れは頑張った証、だなんて前向きなことは言えない。
下を向くと虚しいからと見上げた夜空は、都会にしてはそこそこ綺麗だ。まぁこの辺りは街灯もあまりない寂れたところだから、綺麗に見えるのだろう。疲れて会社をでる度に、駅から遠いこの家を安いからといって選んだ自分を恨んでいたが、今日ばかりはなんだか救われた気がした。
ふと、この閑散とした世界に光が差し込み、目を前に向ける。そこには小さな古びた店があった。
「こんな夜遅くに……」
店から漏れ出す明かりは、闇に包まれたこの辺りでは異色の輝きを放つ。変わらない道を来たのだが、いつのまにこんな店があったのだろうか。ここまで目立つ店があったことにも気づかないくらい、私は疲弊していたのだろうか。
いつもなら気にしない。疲れているからとスルーするはずだ。だが今日は違った。なんだか違うことがしてみたくなった。当たり前に疲れる毎日を変えたくなったのだろうか、ふらふらと、まるで導かれるかのように、私はその店へと入っていった。
カランカランカラン…━━━。入店を告げる音と共に店内へ足を踏み入れる。
「すご………」
モノが溢れる店内は、ごちゃごちゃとしているようでしっかりと整頓されている。天井近くまで積み上げられている商品に、思わず声を漏らした。
変わった形の商品たちに目を奪われ、あちこち店内を物色していると店の奥から声が聞こえた。
「いらっしゃい。お客さんかな?」
その声にはっとして商品から目を上げる。そこには30代程の長髪の男性が立っていた。
「え、あ、あの、すみません…勝手に色々とみて…」
男性の顔は薄暗い店内でもはっきりとわかるほど整っている。その綺麗な顔に気圧されたのか、思わずでた謝罪の言葉が尻すぼみになっていった。
「あぁ、いや、いいんだ。好きに見てくれ。といっても、そんな面白いものはないんだがね。」
いや、面白いものばかりだろ。と内心突っ込みをいれるくらい、用途のわからないモノばかりが並ぶ店内。いたたまれず早々と帰ろうとするが、ゆっくりと見ていってくれ、と引き留められる。
どうしたものかと店内をぐるりと見渡した。ふと、モノで溢れかえるこの店内で目につくものがあった。
「これは…万華鏡…?」
手を伸ばしその商品を手に取ると、男が近寄ってきた。
「そう…これは思い出万華鏡さ」
目を細目ながらそう呟いた男は、私の手から万華鏡を受けとると、中を覗いて見せた。
「君も覗いてごらん」
そう促され、万華鏡を手渡される。思わずたじろぐが、さぁ、と再度促され恐る恐るその万華鏡を覗き込んだ。
「………なんも見えませんけど」
「そうさ、だって君はまだ、なにを見たいか、いつを見たいか決めていないだろう?」
真っ暗でなにも見えない万華鏡から顔を離し、訝しげに男性を見る。
「それはいったいどういう…?」
「さっき言っただろう、これは思い出万華鏡だと。この万華鏡はその人が戻りたい過去の、一日を見せてくれるんだ」
「は…?」
なにを言っているんだと言わんばかりに男を見る。当たり前のように言ってのけるこの男を不気味に感じ、万華鏡を男に返すと足早に店を去ろうとした。
「よくわかんないですけど…失礼します」
「君は、何かに後悔をしてここに来たんだろう?」
その言葉で、店から出ようとドアに掛けていた手が思わずとまった。しかしそれは一瞬で、
「……意味がよくわからないです」
振り返ること無くそう呟き、私はこの古びた店を後にした。
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