出会って五秒で合体!?~半人半獣になってしまった私は獣人に間違えられ殺されそうになりました~(仮)

ぽりんここりんこぷりぷりのえび

文字の大きさ
7 / 66
始まり

野太い人!

しおりを挟む
 腹部に何とも形容し難い痛みを覚え、私は目が覚める。
 上半身だけ起き上がり辺りを見渡すと、薄暗い牢獄の中ではなく、白く暖かな印象を与える広々とした空間だった。
 私の寝ていた隣には小さなテーブルがあり、水と白い皿には赤々としたいた丸い食べ物らしき物が置いてある。

 お腹が減っていた私はその赤々としたのもを摘んだ。
 ちょうど人差し指と親指で円を作ったくらいの大きさのそれは何やら甘い香りがしている。

「食べても大丈夫そうかな?」

 訝しげに赤々とした物を睨み、匂いを嗅ぐと更に甘い香りが私の鼻を通して身体全体に広がっていくのが分かる。

 我慢が出来ず一口で頬張る。

「美味しい……」

 イチゴとブドウのいい所を合わせたような味がして、無我夢中にパクパクと続けて食べ、気付けば皿に入っていた赤々とした物は全て無くなっていた。

 それと同時に手足に着いていた枷は外されているのに気付き、服も薄汚れた布きれではなく、綺麗な白いワンピースに着替えさせられていた。
 首元にはワンポイントで黄色いお花があしらわれている。
 オマケにベッドは前世では味わったことのないほどのフカフカ。
 まるで雲に乗っていると錯覚するくらい柔らかいのだ。

 まぁ、雲に乗ったことなんてないんだけど。

「一命を取り留めた……ってことなのかな」

 遅れてやってきた上に刺されてしまったが、エルに命を救われたようだ。
 私の思考を遮るかのようにノックの音が響く。

「邪魔するぞ」

 中に入ってきたのは見知らぬ黒髪オールバック、赤目のオッサンだった。
 くそパーマ男が着ていた鎧と似ているが青色をしてまるでサファイアのように光り輝いていた。

 この声……聞いたことがある。

「野太い人!」

 私は目を丸くさせ、彼を見つめた。

「野太っ…………まあいい。それだけ元気ならエル坊も助けた甲斐があっただろう。お前、名前は?」

 私の反応に驚きを見せたと思えば小さい溜息を吐き、諦めにも感じる言葉を発した後に名前を訊ねられる。

「マリア・スメラギ、です……」
「エル坊から聞いてはいたが、本当にマリアと名乗るのだな」

 咄嗟に自分の名前をそのまま名乗ってしまい、偽名を使えばよかったかな? なんて思っていたがエルから話を聞いているのなら変に嘘をつかないで正解だった。
 彼は私の名前に驚いて見せたが、エルほど驚きはしていない。

 これが大人の余裕というやつなのだろうか。

「エル……王子にも驚かれました。名前くらいしか覚えてなくて……」

 なんて感心しながらもこの世界では名前くらいしか覚えてないことを伝えた。
 前世の名前なので今世の名前かどうかも怪しいけどね。
 他に覚えていることと言えば、エルの名前とプリティラビットくらいだったし。

「そうか。俺の名前はゴルデスマンだ。よろしくな、マリア嬢ちゃん」
「はぁ、どうも」

 彼は右手を私には差し出してきたので、私も右手を出し握手を交わす。
 その瞬間、彼は私をにこやかに見つめ何やら値踏みをされている気分だった。

「今、エル坊を呼んでくる。待ってな」

 そう言うと彼は踵を返し、部屋を後にした。
 くそパーマ男と違ってゴルデスマンさんはいい人なのだろう。
 でも野太い声を結構気にしていたのかな?
 これからは言わないようにしないとね。

 上半身を起こすだけでも今は結構しんどかったので横になって待っていると、すぐにノックの音がした。

「はーい。どうぞ」

 上半身だけ起こし、声を掛けるとゆっくりと扉が開き、エル……ではない人がそこには居た。
 髪色なんかは似ているけど、少し……ううん、かなりぽっちゃりとしていて別人。誰この人。
 下はベージュ色の短パン、上は白いワイシャツに、その上からベージュのベスト。
 そのどちらもはち切れんばかりだ。

「き、キミが噂の獣人ちゃん?」

 鼻息が荒く、手は何かを揉んでいるように何度もうねうねと動かし、ゆっくりと近付いてくる。

「わ、私、人間の耳もありますし、獣人ではないですよー?」

 咄嗟のことで私は時々声を裏返しながら自分の耳を見せ、否定することしか出来ない。

「何を言ってるんだ。ど、どう見たって君は獣人だ。ハァハァ……ねぇ、エルは、エルは一体キミを何秒触ったんだい? ハァハァ、何処まで、一体何処まで触ったんだい?」

 鼻息が更に増して私の元へと近付いてくる。
 穢らわしい手が私の肩を触ろうとしていた。
 その姿はまるで痴漢魔。初めて味わう恐怖に、声が出せず身体も身震いを始めた。

「い、いや。別に……そこまで触られてませんよ」
「そこまで!? 何処までなんだ!!!」

 私の話し方が悪かったようで、くそぽっちゃりは興奮気味に訊ねてくる。
 鼻息なんて私の手に当たるほどだし。

「ねぇ、オイラはエルの兄なんだからエルの倍は触っていいよね。ハァハァ……いいや、それ以上触る権利がある! 何たってオイラは偉いんだから。さぁさぁ──!」
「兄さん!!!」

 くそぽっちゃりが私の頬に触れそうになった瞬間。

 バンッ、とドアが開き、私に触ろうとしていた、くそぽっちゃりを睨みつけるエルの姿がそこにはあった。

「た、たちゅけて……」

 私はエルに向かって泣きながらそう懇願することしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...