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王立魔法学園編Ⅰ
ミリアム商会
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「まずはマリアちゃんに必要な生活品と学園のための制服、それから銀行で口座の開設と住む場所の確保かな」
王都の街並みに感動をしている私の隣でヒックさんはこれからのことを話しながら自分のローブのフードを被る。
口座と住む場所かぁ……。
どちらも身分を証明するものが必要となる。
それを知らなくて口座を作りに銀行へ行った時、身分証明書が必要と言われて門前払いされたことがあった。
でもそれは日本での話。
「そんな簡単に口座が作れたり住む場所って決められるんですか?」
「普通だったら無理だよ。でも今回は大丈夫」
"今回は"とは一体どういうことなのだろうか?
私の頭の上はハテナマークが尽きない。
「まずは銀行から行こうか」
はぐれないように、ヒックさんは私の手を引いて人混みに入っていく。
同じ獣耳と尻尾の人が何人も居るからか私を見ても驚く人は誰もいない。
本当は本物の獣人やエルフなどをまじまじと観察したり触ったりしたいのだが、そんなことをすると怪しまれること間違いなしなので、私は前を見てすれ違う獣人やエルフをそれとなく観察するだけに留めた。
歩き進めること数分、大きな建物の前でヒックさんは立ち止まる。
パルテノン神殿のような外観で、平たい屋根と壁もちゃんとある。
「ここがミリアム商会ハイネ支部。お金の貸し借り、それからちょっとした物の売買なんかをしているんだ」
ミリアム商会……この世界で最大級の規模を誇る商会でグラダラスにも支部を置いている、とルナから聞いたことがある。
なんてことを思い出していると、ルナたちは無事にグラダラスに戻ることは出来たのか心配になってくるね。
「今はお昼時だからそんなに混んでないと思うよ」
と、言いながらヒックさんは先行して商会の中へと入っていく。
私もそれに続いた。
☆
中は銀行のイメージそのまんまで、お堅い感じの色合いの粘土色の床と魔法で攻撃しても壊れなさそうな頑丈なカウンターが目に入った。
後は従業員だろうか、カウンターの前に横に三人距離をとって女の人が並んでいる。
銀行なのに制服は航空会社を彷彿とさせる。
ヒックさんの言う通りお昼時だからか人は疎らですぐにでも口座を作れそう。
それよりお昼時なのを、さっき知ってからお腹が空いてきたね。
「手続きを済ませたらご飯に行こうか」
「はい!」
これが終わったらご飯が食べれる。
私は嬉しくなり、誰も利用していないので堂々と真ん中のカウンターに向かう。
その後をヒックさんが着いてきてくる形になる。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご要件で?」
「えーと、口座を作りたいんですけど」
長髪の茶色い髪と赤い黒縁メガネが印象的なお姉さんが私たちが近づいてくるの気付き、要件を訊ねられる。
「そちらのお客様のでしょうか?」
子供だと思われているからか、私ではなくヒックさんを手で指して訊ねられてしまう。
そりゃそうだよね。この歳で口座を作るだなんて、何処ぞの商人の子供くらいだろう。
でも来年で成人ならそんなこともないのかな?
「ううん、ボクじゃなくてこの子の口座を作りたいんだ」
「身分を証明するものは御座いますでしょうか?」
ヒックさんが否定をして、私の両肩を掴んで一歩前に出される。
そして受付のお姉さんが聞いてきたのは天ぷらじゃなくてテンプレだった。
ほら、きた。日本でも異世界でも身分を証明するものは必要らしい。
「ううん、ないよ」
大丈夫と言ってくれたので圧倒的な信頼をヒックさんに置いていたが、首を左右に振って身分を証明するものは持っていないことを伝えていた。
えっ? ヒックさん???
「それでは……保証人様の身分を証明するものは御座いますでしょうか?」
「これでいいかな?」
どうやら本人確認の身分証明書が無くても、保証人の身分を証明するものがあれば大丈夫なようで、ヒックさんははローブのポケットから黄色の免許証サイズの何か取り出し、受付の人に手渡している。
あれが身分証明書になのかな?
「拝見致します……こ、これは!」
身分証明書を見ている受付のお姉さんは持っている手を震わせ、とても驚いていた。
「た、大変失礼致しました。ヒック様!」
「あ、あんまり大きな声を出さないで貰えるかな?」
右頬をかいて、照れくさそうに大声を出さないよう促していた。
「重ね重ね失礼致しました……と言うことはこちらはヒック様の娘さんですか?」
受付のお姉さんはヒックさんに向かって、深々と頭を下げると気になったのかそんな質問を口にする。
「まだボクに子供なんて作るつもりはないよ。この子はね、ある国のお姫様なんだ。社会経験のために今日王都にやってきて、これから魔法学園に通う予定なんだ」
ニコニコと笑いながら否定をし、ヒックさんは息を吸うように嘘をついた。
王立魔法学園に通うのは間違ってはいないけど、私がお姫様だなんてね。
この前のあれは私を何処ぞのお姫様と言う設定にしたかったから言っていたのかな。
にしてもヒックさんは嘘をついているにも日和らず、改めて道化師のような人だな、と印象付けられる。
「なるほど。把握致しました。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「マリア・スメラギです」
「マリア様ですね。それではこちらをどうぞ」
エルに本名を名乗った時は大変驚かれたけど、受付のお姉さんには驚かれず、そのまま何かに私の名前を書くと、手渡してくれる。
手に取るとそれは赤いカードで真ん中にはミリアム商会をイメージした金貨袋と荷馬車のイラスト、それから黒い文字でマリア・スメラギと右下に書いてあった。
「これは?」
「ミリアム商会共通のカードです。ミリアム商会に加盟しているお店ならそのカードに預けているお金で支払うことが出来るのですよ。本人以外使うことが出来ないよう魔法で加工も施されているんです」
日本で言うところのクレジットカードみたいなものなのかな。
盗まれても勝手に使われる心配もなさそうだし、クレジットカードより便利だね。
「よし、これで口座も作れたしご飯にしようか。今日はボクが奢るよ」
「ありがとうございます」
奢ってくれるなんて嬉しい。
この世で一番美味しいご飯は、誰かが奢ってくれご飯なのである。
「おっと、そうだ。受付のお姉さん、これをマリアちゃんの口座に預けておいてくれ。さて、行こうか朝から何も食べてないからペコペコだよ」
ヒックさんはカウンターにドサッと袋を置くと、私の手を取り何故かその場をすぐにでも後にしたがる。
別に気にすることでもないし、何より私もお腹が空いた。
なので急いで飲食外へと向かった。
「こ、こんなに大量のお金を……!?」
と、受付のお姉さんは驚いていた気がしたけど気の所為だよね。
王都の街並みに感動をしている私の隣でヒックさんはこれからのことを話しながら自分のローブのフードを被る。
口座と住む場所かぁ……。
どちらも身分を証明するものが必要となる。
それを知らなくて口座を作りに銀行へ行った時、身分証明書が必要と言われて門前払いされたことがあった。
でもそれは日本での話。
「そんな簡単に口座が作れたり住む場所って決められるんですか?」
「普通だったら無理だよ。でも今回は大丈夫」
"今回は"とは一体どういうことなのだろうか?
私の頭の上はハテナマークが尽きない。
「まずは銀行から行こうか」
はぐれないように、ヒックさんは私の手を引いて人混みに入っていく。
同じ獣耳と尻尾の人が何人も居るからか私を見ても驚く人は誰もいない。
本当は本物の獣人やエルフなどをまじまじと観察したり触ったりしたいのだが、そんなことをすると怪しまれること間違いなしなので、私は前を見てすれ違う獣人やエルフをそれとなく観察するだけに留めた。
歩き進めること数分、大きな建物の前でヒックさんは立ち止まる。
パルテノン神殿のような外観で、平たい屋根と壁もちゃんとある。
「ここがミリアム商会ハイネ支部。お金の貸し借り、それからちょっとした物の売買なんかをしているんだ」
ミリアム商会……この世界で最大級の規模を誇る商会でグラダラスにも支部を置いている、とルナから聞いたことがある。
なんてことを思い出していると、ルナたちは無事にグラダラスに戻ることは出来たのか心配になってくるね。
「今はお昼時だからそんなに混んでないと思うよ」
と、言いながらヒックさんは先行して商会の中へと入っていく。
私もそれに続いた。
☆
中は銀行のイメージそのまんまで、お堅い感じの色合いの粘土色の床と魔法で攻撃しても壊れなさそうな頑丈なカウンターが目に入った。
後は従業員だろうか、カウンターの前に横に三人距離をとって女の人が並んでいる。
銀行なのに制服は航空会社を彷彿とさせる。
ヒックさんの言う通りお昼時だからか人は疎らですぐにでも口座を作れそう。
それよりお昼時なのを、さっき知ってからお腹が空いてきたね。
「手続きを済ませたらご飯に行こうか」
「はい!」
これが終わったらご飯が食べれる。
私は嬉しくなり、誰も利用していないので堂々と真ん中のカウンターに向かう。
その後をヒックさんが着いてきてくる形になる。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご要件で?」
「えーと、口座を作りたいんですけど」
長髪の茶色い髪と赤い黒縁メガネが印象的なお姉さんが私たちが近づいてくるの気付き、要件を訊ねられる。
「そちらのお客様のでしょうか?」
子供だと思われているからか、私ではなくヒックさんを手で指して訊ねられてしまう。
そりゃそうだよね。この歳で口座を作るだなんて、何処ぞの商人の子供くらいだろう。
でも来年で成人ならそんなこともないのかな?
「ううん、ボクじゃなくてこの子の口座を作りたいんだ」
「身分を証明するものは御座いますでしょうか?」
ヒックさんが否定をして、私の両肩を掴んで一歩前に出される。
そして受付のお姉さんが聞いてきたのは天ぷらじゃなくてテンプレだった。
ほら、きた。日本でも異世界でも身分を証明するものは必要らしい。
「ううん、ないよ」
大丈夫と言ってくれたので圧倒的な信頼をヒックさんに置いていたが、首を左右に振って身分を証明するものは持っていないことを伝えていた。
えっ? ヒックさん???
「それでは……保証人様の身分を証明するものは御座いますでしょうか?」
「これでいいかな?」
どうやら本人確認の身分証明書が無くても、保証人の身分を証明するものがあれば大丈夫なようで、ヒックさんははローブのポケットから黄色の免許証サイズの何か取り出し、受付の人に手渡している。
あれが身分証明書になのかな?
「拝見致します……こ、これは!」
身分証明書を見ている受付のお姉さんは持っている手を震わせ、とても驚いていた。
「た、大変失礼致しました。ヒック様!」
「あ、あんまり大きな声を出さないで貰えるかな?」
右頬をかいて、照れくさそうに大声を出さないよう促していた。
「重ね重ね失礼致しました……と言うことはこちらはヒック様の娘さんですか?」
受付のお姉さんはヒックさんに向かって、深々と頭を下げると気になったのかそんな質問を口にする。
「まだボクに子供なんて作るつもりはないよ。この子はね、ある国のお姫様なんだ。社会経験のために今日王都にやってきて、これから魔法学園に通う予定なんだ」
ニコニコと笑いながら否定をし、ヒックさんは息を吸うように嘘をついた。
王立魔法学園に通うのは間違ってはいないけど、私がお姫様だなんてね。
この前のあれは私を何処ぞのお姫様と言う設定にしたかったから言っていたのかな。
にしてもヒックさんは嘘をついているにも日和らず、改めて道化師のような人だな、と印象付けられる。
「なるほど。把握致しました。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「マリア・スメラギです」
「マリア様ですね。それではこちらをどうぞ」
エルに本名を名乗った時は大変驚かれたけど、受付のお姉さんには驚かれず、そのまま何かに私の名前を書くと、手渡してくれる。
手に取るとそれは赤いカードで真ん中にはミリアム商会をイメージした金貨袋と荷馬車のイラスト、それから黒い文字でマリア・スメラギと右下に書いてあった。
「これは?」
「ミリアム商会共通のカードです。ミリアム商会に加盟しているお店ならそのカードに預けているお金で支払うことが出来るのですよ。本人以外使うことが出来ないよう魔法で加工も施されているんです」
日本で言うところのクレジットカードみたいなものなのかな。
盗まれても勝手に使われる心配もなさそうだし、クレジットカードより便利だね。
「よし、これで口座も作れたしご飯にしようか。今日はボクが奢るよ」
「ありがとうございます」
奢ってくれるなんて嬉しい。
この世で一番美味しいご飯は、誰かが奢ってくれご飯なのである。
「おっと、そうだ。受付のお姉さん、これをマリアちゃんの口座に預けておいてくれ。さて、行こうか朝から何も食べてないからペコペコだよ」
ヒックさんはカウンターにドサッと袋を置くと、私の手を取り何故かその場をすぐにでも後にしたがる。
別に気にすることでもないし、何より私もお腹が空いた。
なので急いで飲食外へと向かった。
「こ、こんなに大量のお金を……!?」
と、受付のお姉さんは驚いていた気がしたけど気の所為だよね。
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