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第1章 悪役令嬢にはなりません!
6.全て力でねじ伏せるタイプのお得意様
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僕は馬を走らせ続け、遂に奴らが父さん達を運び込んだであろう場所に到着した。
辿り着いたのは、街から少し離れた森の中。
頭上で一声鳴いて飛び去った鳥を見送って、僕は馬を近くの木に繋ぐ。
「しばらくしたら戻るからね。良い子にして待っているんだよ」
ここまで休まず走り続けてくれた馬の身体を一撫でしたタイミングで、ウォルグからピアスを通じて連絡が入る。
『そこからしばらく真っ直ぐに進め。朽ちた小屋が見付かるはずだ。目撃した野ウサギが言うには、そこで奴らが姿を消したらしい』
「姿を消した? それはどういう事なんだい?」
『さあな。見た本人に聞いてくれ』
ウサギと話をしろだなんて、君でなければ無理じゃないか。
そう彼に言ったところで良い返事は返って来ないから、あえて口には出さなかった。
「……分かったよ。ここまでヒントが貰えただけでありがたいさ。これからそこに向かうから、終わったらまた連絡するよ」
『ああ。……今日はとびきり豪華なデザートを用意してやる。俺が食べ尽くす前に戻って来い』
「うん、勿論さ。それに、いつか君のお菓子を食べさせてあげたい子も居るからね。……無事に帰るよ」
皆を助け出して、レティシアとルーファスが待つ商会に戻るんだ。
やってみせるさ。絶対に──
『……おい、誰なんだそれは。俺の菓子は変な奴に食わせる為に作るものじゃないんだぞ。勝手に決めるな』
少し声に怒りが混じっているけれど、彼女がどんな人柄なのか知れば、彼も納得してくれるだろう。
二人がお菓子の話に花を咲かせる様子を想像して、自然と口元が緩んだ。
「僕らの未来の後輩だよ。二年後にセイガフに入学する予定でね。あの子はとても良い子だから、きっと君も気に入るはずだ」
『どうだかな』
そう言って、ウォルグは通信を切ってしまった。
全く……。そんな無愛想な態度を彼女にまでとったら、嫌われてしまうかもしれないよ?
「……さてと、和む時間はここまでだ」
僕はさっきまでの笑みを消し、周囲への警戒をより強めて先へ進む。
奥へ行くにつれ、高く伸びた枝葉によって陽の光が遮られた、何だか不気味で薄暗い方へと向かっているようだった。
小鳥の鳴き声すらもしない、おとぎ話に出て来る魔女の森のような……。そんな気持ち悪さを感じる。
そして、ウォルグの言った通りの小屋を見付けた。
建てられてから、どれだけの時間が経ったのか。それすらも分からないような、劣化の酷い木の小屋だ。
所々腐って壊れていて、その隙間から小屋の中が見えてしまう程だった。
こんな小さな場所に誘拐犯や父さん達が入りきるはずがない。人数的に厳しすぎる。
……やはり内部に何かがあるな。でなければ、人が突然姿を消すはずがない。
転移魔法陣か、移動用の乗り物があったのか……。
僕はいつでも魔法を発動出来るよう準備を済ませ、扉を開けた。
ギィ……と音を立てて開いた扉の奥は、小屋の外見と同じく荒れ果てた内装だった。
屋根から入り込んだであろう雨水で、ちょっと叩けば今にも壊れそうな木製の家具達。
ボロボロになった安物の絨毯に、外から入り込んだであろう小さな虫が、何かに踏み潰されたように引っ付いていた。
虫から飛び出した体液には、まだ湿り気がある。ついさっきまで誰かがこの上を歩いた証拠だ。
何か手掛かりはないかと小屋の中を歩き回っていると、床に違和感のある箇所があった。
その部分を覆っていたのは、さっき見た潰れた虫の絨毯。それを捲れば、地下へと続くであろう隠し扉が見付かった。
「姿が消えた原因は、これだな」
大勢の人間がこの小屋に入る瞬間を目撃したウサギからしてみれば、壁の隙間から中を覗き込むまでの間、この下へ移動していた人間達が一瞬で消えたように感じてもおかしくはない。
隠し扉の金属の持ち手部分を引っ張り上げると、やはり下へと続く梯子があった。
犯人らが父さん達を人質として誘拐したのなら、風魔法でエアークッションを作り出し、怪我の無いようにしてから突き落としでもしたのだろう。きっと、手足は縛られているはずなのだから。
下手な物音を立てないよう、僕は細心の注意を払って梯子を下りる。
土を掘って作られた地下空間は、明るさを取り入れる為に光石が埋め込まれていた。
暗闇でぼんやりと光を放つその石が、等間隔に道を照らしている。
僕は罠に注意しながら、先へ行く。
すると、何やら奥から騒がしい音が聞こえてきた。
「まさか、父さん達が……!?」
犯人達に危害を加えられている可能性があると判断し、大急ぎでその音のする方へと走る。
鍵のかかった鉄格子の扉を風魔法で切り裂く。
そこからレンガで覆われた通路に変わり、その先にまた扉があったので、今度はそれを吹き飛ばした。
「父さん! 皆!」
その先には、やはり父さん達が居た。
しかし──目に飛び込んで来た光景は、僕の想像を超えるものだった。
完全に気絶し、倒れ伏している犯人達。
縄を切られて自由になった父さん達。
そして、何故かそこに居たレティシアと、お得意様のレオンハルト様の姿。
「……な、何がどうなっているんだろうか」
言葉を失うとは、正にこの事を言うのだろう。
すると、僕に気付いたレオンハルト様が振り向いた。
「来たか、ケント」
「ええと……何故、レオンハルト様と彼女がこちらに?」
「俺がそうしたかったからだ。主犯とその手下共は、まだしばらく目を覚まさぬだろう。今の内に憲兵に突き出しておくが良い」
「は、はぁ……」
僕の覚悟は……どうなるのさ。
仕方が無い事なのだろうけれど、確かにこの事件が彼の耳に入ればこうして現場に乗り込み、全て一人で解決してしまうに決まっている。
何と言っても、レオンハルト様は去年までセイガフで生徒会長をされていた方だ。
実力主義の学校内で、抜群の強さと威厳を兼ね備えた彼の事だから、ご贔屓にして下さっているうちの商会の危機に駆け付けてくれてくれたのだろう。
その気持ちは嬉しいけれど、この結末をどうやってウォルグに伝えたものか……。
「あの、ケントさん……。ちょっとお話が……」
こちらへ駆け寄って来たレティシア。
どうやら兄であるレオンハルト様には聞かれたくない話らしい。
彼女は、少し気まずそうに口を開いた。
「ケントさん……。その、貴方が来るよりも先に全てが終わってしまいまして……。私はケントさんの身が危ないと思ってお助けに向かうつもりだったのですけれど、レオンハルトお兄様の転移魔法で、ここまで連れて来られまして……」
「……君の言いたい事は分かっているつもりだよ。僕が手を出さずに全て片付いてしまった事が申し訳ないんだろう?」
「ええ……」
レオンハルト様が居るのならば、きっと犯人達の恐ろしさも説明されているはずだ。
だからこそレティシアは余計に僕の身を心配し、彼に着いて来た。
しかし、僕はまだここに到着していなかった為、敵地に乗り込んだ二人が──主にレオンハルト様が決着をつけてしまったのだ。
本来なら僕が先に父さん達を助けに来るはずだったのだから、事件を勝手に終わらせてしまった事を、彼女は気にしているのだろう。
「レオンハルト様が動かれたのなら、こうなるのは当然だろうね。少し不完全燃焼になってしまったけれど、君も皆も無事ならば、それが一番さ」
「それでも、ケントさんには申し訳ないですわ。確かに、誰も怪我はしておりませんけれど……」
すると、僕らの会話にレオンハルト様が加わった。
「レティの防御結界で、この場での戦闘では全員擦り傷一つ無い。いつの間にここまで高度な魔法を覚えたのだ、レティ?」
数メートル離れたその位置で、小声の会話が聞こえるとは……。彼は随分と聴覚が鋭いな。
「あ、ある日突然使えるようになっていただけですわよ!? そう、全て偶然ですわ!」
「天才的な魔法の才能が目覚めた、という事だな?」
「うーん……まあ、そんな感じだと思って下さって結構です!」
「流石は俺の妹だ。美しく愛らしく、そして魔法の才まで恵まれているとは……素晴らしい」
ううん……。
意外な事に、レオンハルト様はレティシアを溺愛しているらしい。
こんな姿を見せるのは、彼の妹であるレティシアの前でだけなのだろう。
ひとまず僕は疲れきった様子の父さん達の元へ近付いた。
そしてレオンハルト様の言う通り、皆の身体には戦いに巻き込まれたような傷跡は無いようだ。
攫われる時に殴られたであろう形跡はあるけれど、それは充分治療すれば元通りになるだろう。
「父さんも皆も無事だね。攫われた全員がここに揃っているのかい?」
すると、僕の顔を見上げた父さんが、安心したように笑った。
「ああ、全員無事だとも。レオンハルト様とレティシア様のお力に感謝しなければ」
しかし、父さんはすぐに俯いてしまう。
「……何かあったの?」
「実はな……。そこに倒れている者達のほとんどが、うちで雇っていた警備員なんだ」
「えっ?」
父さんがそう言って指差したのは、僕には見覚えがない連中だった。
「つい最近採用してな。お前は顔を知らんだろう」
「うん。……始めから、これが目的だったんだろうね」
「ああ……」
商会内部に入り込んで、父さんを狙っての犯行……。
あの『ガリメヤの星』が引き起こした事件で、死者が出なかったのは幸いだ。
しかし、奴らのボスはまだどこかに潜んでいる。頭を潰さない限り、またこうした犯罪が行われてしまう。
今後も奴らの動きには注意しなくては……。
しばらくすると、屋敷の警備騎士達が到着し、犯人達を連行していった。
僕達も小屋から出て、すっかり日が暮れた頃に屋敷に戻って来た。
あんな事件の後だから、色々と処理をしなくてはならない。
本当だったら夕食をご馳走する予定だったのだけれど、レティシアにはレオンハルト様と一緒に、今日のところは宿に泊まってもらう事になった。
二人にはとても助けられたな。
皆を結界で護ってくれた彼女と、奴らを完膚無きまでに叩きのめした彼に、心からの感謝を──
そして僕は夜には寮に戻り、今日の事件の結末をウォルグに伝える事になった。
意外な展開で幕を閉じた事に驚かれ、同時に呆れられもしたけれど……。
今日のフルーツたっぷりロールケーキは、とびきり美味しかったよ。
辿り着いたのは、街から少し離れた森の中。
頭上で一声鳴いて飛び去った鳥を見送って、僕は馬を近くの木に繋ぐ。
「しばらくしたら戻るからね。良い子にして待っているんだよ」
ここまで休まず走り続けてくれた馬の身体を一撫でしたタイミングで、ウォルグからピアスを通じて連絡が入る。
『そこからしばらく真っ直ぐに進め。朽ちた小屋が見付かるはずだ。目撃した野ウサギが言うには、そこで奴らが姿を消したらしい』
「姿を消した? それはどういう事なんだい?」
『さあな。見た本人に聞いてくれ』
ウサギと話をしろだなんて、君でなければ無理じゃないか。
そう彼に言ったところで良い返事は返って来ないから、あえて口には出さなかった。
「……分かったよ。ここまでヒントが貰えただけでありがたいさ。これからそこに向かうから、終わったらまた連絡するよ」
『ああ。……今日はとびきり豪華なデザートを用意してやる。俺が食べ尽くす前に戻って来い』
「うん、勿論さ。それに、いつか君のお菓子を食べさせてあげたい子も居るからね。……無事に帰るよ」
皆を助け出して、レティシアとルーファスが待つ商会に戻るんだ。
やってみせるさ。絶対に──
『……おい、誰なんだそれは。俺の菓子は変な奴に食わせる為に作るものじゃないんだぞ。勝手に決めるな』
少し声に怒りが混じっているけれど、彼女がどんな人柄なのか知れば、彼も納得してくれるだろう。
二人がお菓子の話に花を咲かせる様子を想像して、自然と口元が緩んだ。
「僕らの未来の後輩だよ。二年後にセイガフに入学する予定でね。あの子はとても良い子だから、きっと君も気に入るはずだ」
『どうだかな』
そう言って、ウォルグは通信を切ってしまった。
全く……。そんな無愛想な態度を彼女にまでとったら、嫌われてしまうかもしれないよ?
「……さてと、和む時間はここまでだ」
僕はさっきまでの笑みを消し、周囲への警戒をより強めて先へ進む。
奥へ行くにつれ、高く伸びた枝葉によって陽の光が遮られた、何だか不気味で薄暗い方へと向かっているようだった。
小鳥の鳴き声すらもしない、おとぎ話に出て来る魔女の森のような……。そんな気持ち悪さを感じる。
そして、ウォルグの言った通りの小屋を見付けた。
建てられてから、どれだけの時間が経ったのか。それすらも分からないような、劣化の酷い木の小屋だ。
所々腐って壊れていて、その隙間から小屋の中が見えてしまう程だった。
こんな小さな場所に誘拐犯や父さん達が入りきるはずがない。人数的に厳しすぎる。
……やはり内部に何かがあるな。でなければ、人が突然姿を消すはずがない。
転移魔法陣か、移動用の乗り物があったのか……。
僕はいつでも魔法を発動出来るよう準備を済ませ、扉を開けた。
ギィ……と音を立てて開いた扉の奥は、小屋の外見と同じく荒れ果てた内装だった。
屋根から入り込んだであろう雨水で、ちょっと叩けば今にも壊れそうな木製の家具達。
ボロボロになった安物の絨毯に、外から入り込んだであろう小さな虫が、何かに踏み潰されたように引っ付いていた。
虫から飛び出した体液には、まだ湿り気がある。ついさっきまで誰かがこの上を歩いた証拠だ。
何か手掛かりはないかと小屋の中を歩き回っていると、床に違和感のある箇所があった。
その部分を覆っていたのは、さっき見た潰れた虫の絨毯。それを捲れば、地下へと続くであろう隠し扉が見付かった。
「姿が消えた原因は、これだな」
大勢の人間がこの小屋に入る瞬間を目撃したウサギからしてみれば、壁の隙間から中を覗き込むまでの間、この下へ移動していた人間達が一瞬で消えたように感じてもおかしくはない。
隠し扉の金属の持ち手部分を引っ張り上げると、やはり下へと続く梯子があった。
犯人らが父さん達を人質として誘拐したのなら、風魔法でエアークッションを作り出し、怪我の無いようにしてから突き落としでもしたのだろう。きっと、手足は縛られているはずなのだから。
下手な物音を立てないよう、僕は細心の注意を払って梯子を下りる。
土を掘って作られた地下空間は、明るさを取り入れる為に光石が埋め込まれていた。
暗闇でぼんやりと光を放つその石が、等間隔に道を照らしている。
僕は罠に注意しながら、先へ行く。
すると、何やら奥から騒がしい音が聞こえてきた。
「まさか、父さん達が……!?」
犯人達に危害を加えられている可能性があると判断し、大急ぎでその音のする方へと走る。
鍵のかかった鉄格子の扉を風魔法で切り裂く。
そこからレンガで覆われた通路に変わり、その先にまた扉があったので、今度はそれを吹き飛ばした。
「父さん! 皆!」
その先には、やはり父さん達が居た。
しかし──目に飛び込んで来た光景は、僕の想像を超えるものだった。
完全に気絶し、倒れ伏している犯人達。
縄を切られて自由になった父さん達。
そして、何故かそこに居たレティシアと、お得意様のレオンハルト様の姿。
「……な、何がどうなっているんだろうか」
言葉を失うとは、正にこの事を言うのだろう。
すると、僕に気付いたレオンハルト様が振り向いた。
「来たか、ケント」
「ええと……何故、レオンハルト様と彼女がこちらに?」
「俺がそうしたかったからだ。主犯とその手下共は、まだしばらく目を覚まさぬだろう。今の内に憲兵に突き出しておくが良い」
「は、はぁ……」
僕の覚悟は……どうなるのさ。
仕方が無い事なのだろうけれど、確かにこの事件が彼の耳に入ればこうして現場に乗り込み、全て一人で解決してしまうに決まっている。
何と言っても、レオンハルト様は去年までセイガフで生徒会長をされていた方だ。
実力主義の学校内で、抜群の強さと威厳を兼ね備えた彼の事だから、ご贔屓にして下さっているうちの商会の危機に駆け付けてくれてくれたのだろう。
その気持ちは嬉しいけれど、この結末をどうやってウォルグに伝えたものか……。
「あの、ケントさん……。ちょっとお話が……」
こちらへ駆け寄って来たレティシア。
どうやら兄であるレオンハルト様には聞かれたくない話らしい。
彼女は、少し気まずそうに口を開いた。
「ケントさん……。その、貴方が来るよりも先に全てが終わってしまいまして……。私はケントさんの身が危ないと思ってお助けに向かうつもりだったのですけれど、レオンハルトお兄様の転移魔法で、ここまで連れて来られまして……」
「……君の言いたい事は分かっているつもりだよ。僕が手を出さずに全て片付いてしまった事が申し訳ないんだろう?」
「ええ……」
レオンハルト様が居るのならば、きっと犯人達の恐ろしさも説明されているはずだ。
だからこそレティシアは余計に僕の身を心配し、彼に着いて来た。
しかし、僕はまだここに到着していなかった為、敵地に乗り込んだ二人が──主にレオンハルト様が決着をつけてしまったのだ。
本来なら僕が先に父さん達を助けに来るはずだったのだから、事件を勝手に終わらせてしまった事を、彼女は気にしているのだろう。
「レオンハルト様が動かれたのなら、こうなるのは当然だろうね。少し不完全燃焼になってしまったけれど、君も皆も無事ならば、それが一番さ」
「それでも、ケントさんには申し訳ないですわ。確かに、誰も怪我はしておりませんけれど……」
すると、僕らの会話にレオンハルト様が加わった。
「レティの防御結界で、この場での戦闘では全員擦り傷一つ無い。いつの間にここまで高度な魔法を覚えたのだ、レティ?」
数メートル離れたその位置で、小声の会話が聞こえるとは……。彼は随分と聴覚が鋭いな。
「あ、ある日突然使えるようになっていただけですわよ!? そう、全て偶然ですわ!」
「天才的な魔法の才能が目覚めた、という事だな?」
「うーん……まあ、そんな感じだと思って下さって結構です!」
「流石は俺の妹だ。美しく愛らしく、そして魔法の才まで恵まれているとは……素晴らしい」
ううん……。
意外な事に、レオンハルト様はレティシアを溺愛しているらしい。
こんな姿を見せるのは、彼の妹であるレティシアの前でだけなのだろう。
ひとまず僕は疲れきった様子の父さん達の元へ近付いた。
そしてレオンハルト様の言う通り、皆の身体には戦いに巻き込まれたような傷跡は無いようだ。
攫われる時に殴られたであろう形跡はあるけれど、それは充分治療すれば元通りになるだろう。
「父さんも皆も無事だね。攫われた全員がここに揃っているのかい?」
すると、僕の顔を見上げた父さんが、安心したように笑った。
「ああ、全員無事だとも。レオンハルト様とレティシア様のお力に感謝しなければ」
しかし、父さんはすぐに俯いてしまう。
「……何かあったの?」
「実はな……。そこに倒れている者達のほとんどが、うちで雇っていた警備員なんだ」
「えっ?」
父さんがそう言って指差したのは、僕には見覚えがない連中だった。
「つい最近採用してな。お前は顔を知らんだろう」
「うん。……始めから、これが目的だったんだろうね」
「ああ……」
商会内部に入り込んで、父さんを狙っての犯行……。
あの『ガリメヤの星』が引き起こした事件で、死者が出なかったのは幸いだ。
しかし、奴らのボスはまだどこかに潜んでいる。頭を潰さない限り、またこうした犯罪が行われてしまう。
今後も奴らの動きには注意しなくては……。
しばらくすると、屋敷の警備騎士達が到着し、犯人達を連行していった。
僕達も小屋から出て、すっかり日が暮れた頃に屋敷に戻って来た。
あんな事件の後だから、色々と処理をしなくてはならない。
本当だったら夕食をご馳走する予定だったのだけれど、レティシアにはレオンハルト様と一緒に、今日のところは宿に泊まってもらう事になった。
二人にはとても助けられたな。
皆を結界で護ってくれた彼女と、奴らを完膚無きまでに叩きのめした彼に、心からの感謝を──
そして僕は夜には寮に戻り、今日の事件の結末をウォルグに伝える事になった。
意外な展開で幕を閉じた事に驚かれ、同時に呆れられもしたけれど……。
今日のフルーツたっぷりロールケーキは、とびきり美味しかったよ。
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