元花乙女は幸せを求めて家出する 〜悪役令嬢みたいな人生なんて、もう結構ですわっ!〜

由岐

文字の大きさ
9 / 47
第2章 セイガフ入学試験

1.いざ新天地へ

しおりを挟む
 今度こそ無事にアレーセルの街へ向かう為、私は一切寄り道をせず、馬車を借りに行く。
 昨日質屋の女性に戴いたショルダーバッグには、アクセサリーを売ったお金や数日分の着替え、手鏡やブラシなどが入っている。

 どうしてそんなに物が入るのか。
 それは、屋敷で荷物を纏めている最中に、空間拡張の魔法をかけたからである。
 女性は、何かと必要な物が多い。
 今までなら、侍女達が遠出に着いてきて、あらゆる物を運んでくれていた。
 けれども私はこれから一人で移動をするのだし、なるべく荷物は一纏めにしてしまいたい。
 だから私は、学院時代に学んだこの魔法をバッグにかけたのだった。


 空間拡張によって本来の五倍はスペースが生まれたので、まだ持ち歩ける余裕は充分。
 そしてこの魔法の何より素晴らしいところは、荷物を入れた際の重さが大幅に軽減される部分にある。
 どれだけワンピースやドレスを詰め込んでも重くならないし、衣服にはシワ防止の魔法もかけてあるから、何とも快適な外出が出来る。
 全く魔法のセンスの無い人には出来ない手段だけれど、これらを全て一人で済ませられる自分の才能に思わず感謝してしまう。
 魔法の効果が切れかけていたら、すぐに自分でかけ直せば良いのだもの。誰かに頼む手間が省けて最高ですわ!
 そんなバッグを肩に掛けて、私は上機嫌で通りを歩いて行く。

 庶民の旅の移動手段には、乗り合い馬車というものがあるのだそうだ。
 全くの他人同士が一台の馬車に乗り、同じ目的地へと向かうもの……らしい。
 そうすれば、乗り合わせた者同士で運賃を出し合え、私のように一人で馬車を借りた時よりも費用の負担を軽く出来る仕組みなのだと、屋敷を出る前にお兄様から説明された。
 けれど、昨日の今日でまた危ない事件が起きるかもしれないから、なるべく他人と密着するような空間は避けたかった。
 なので私は、ケントさんと昨日立ち寄った業者から馬車を借りるようにしたのだ。
 私はまだ十二歳の子供で、そのうえ女性だからと、護衛には評判の良い者達を付けてもらえた。
 ついでに言うなら、私の身なりが平民のそれとは比較にならないレベルだったから、そういう特別扱いを受けたのだろうけれど。



 ──────────



 その日の夕方には、街に到着した。
 ある程度の環境が整っていて、かつ私の所持金で数日分の宿泊費がまかなえる宿を御者に紹介してもらった。
 ケントさんからは、一週間程でお店を通常通り営業させると聞いていたので、それまでは街でスイーツショップ巡りをしたりして日々を過ごす事になる。
 やはり、見た目も味も良い物が揃う店が多くて、少し食べ過ぎてしまったかもしれない。
 幸い私は太りにくい体質だから、気を付けるのは食事の栄養バランスぐらいで大丈夫だろう。




 限り無く自由な七日間を過ごした後、私はミンクレール商会へと足を運ぶ。

「ああ、久し振りだねレティシア。そろそろ来る頃だと思っていたよ」

 そう言ってケントさんは笑顔を浮かべ、私は店の奥へと通された。

「もう営業を再開されたんですのね」
「うん。今朝から通常営業に戻ったんだ。レティシアは、家の方からうちで働くお許しは出してもらえたのかい?」
「ええ、お許し頂けましたわ。今日からでもこちらでお世話になれますわよ」
「それは良かった。それじゃあ早速、父さんの所まで案内させてもらうよ」

 彼の先導でとある部屋に案内され、扉をノックするケントさん。

「入れ」
「失礼します、父さん。レティシアが来てくれました」

 私が連れて来られたのは、会長室のようだった。
 奥のデスクで何かの資料に目を通していたらしい会長が、私の顔を見るなり、ケントさんとそっくりの笑みで迎え入れて下さった。

「おお、レティシア様! よくぞおいで下さいました。先日は誠にありがとうございました」
「恐れ入りますわ、ミンクレール会長様」
「彼女をうちの商会と屋敷でお預かりする件で来てもらったんだ」

 えっ、ミンクレール家のお屋敷で……?
 商会で働かせていただく話はしていたけれど、それは、ここに住み込みで働くという予定だったはず。
 私が戸惑っているのに気付いたケントさんが、その理由をきちんと説明してくれた。


 先日、お兄様がほぼ鎮圧した誘拐グループ、『ガリメヤの星』のメンバー達。
 彼らに厳しい尋問をしたところ、やはり私達の予想通り、身代金目当てで引き起こした事件だったと自白したらしい。
 そして、その中には警備員として雇って間もなかった人も含まれていたという。
 商会内部に潜入し警備に穴を作り、主犯格の大男が騒ぎを起こしてメインフロアで注意を引き、残りのメンバーを裏口から入れたのだとか。
 だからあの搬入口が開いていたんですのね。
 何故そんな危険な輩を雇ってしまったのかを尋ねると、彼はこう言った。

「父さんとしては、お金に困っていた若者を雇ってやりたかったんだってさ。気持ちは分からなくもないけれど、こんな事件が起きてしまった以上、これからはもっと採用基準を厳しくする必要がある」
「まさか、身元もはっきりしない連中を雇ってしまったんですの!?」
「お恥ずかしい限りです……」

 私のストレートすぎる発言に、会長は情けない顔をして言う。

「この商会は、そこいらの店とは品物も客層も格が違うのですから、その格を守る大切な警備員をそんな理由で選ぶのはどうかと思いますわ!」
「ええ、レティシア様の仰る通りで……」
「お客様としていらっしゃる方々は勿論、会長様やルーファス達の命だって護らねばならない重要な役割を与えられた……。そういう自覚を持てる方を、警備として雇わねばなりませんのに」
「レティシア……」

 ……うーん、ちょっと空気が重くなってしまいましたわ。
 でも、私だって会長がその優しさに付け込まれた結果が、あの事件を引き起こす要因となったというのは分かっているのです。

「……偶然、新しい警備員が必要なタイミングだったから、そうしてしまったのかもしれません。もし次にそういった事があれば、ギルドで働く事を勧めて下さいませ」
「ギルドで、ですか……?」
「ええ。ギルドの種類にもよりますけれど、貧民の出身から、魔物討伐ギルドでギルドマスターに成り上がった方もいらっしゃいます。それぞれの得意分野に合ったギルドを紹介すれば、そういった方々の手助けになるかもしれませんわ」

 これは以前の人生で、私が王城騎士のルバートから聞いた話だった。
 それに、身元もよく分からない者が警備する店だなんて、客からの信用を失ってしまいますもの。
 もしかしたら既にそれが噂となっているかもしれないけれど、同じ事を繰り返さない為には必要な対応だと思う。
 私の意見を受けた会長とケントさんは、一度視線を交わし合ってからこう言った。

「……貴女の仰る通りに動くべきだ。我が商会は、レティシア様のご意見に従わせて頂きたいと思います」
「そんな発想は僕らには無かった。いやはや、君が居てくれて本当に助かるよ」
「わ、私はただ……人から聞いた話を、そのままお伝えしただけですわ」

 彼らからの反応にあたふたしていると、ケントさんは真っ直ぐに私を見てこう告げる。

「それでも、君からそれを知る事が出来たのは幸運だった。今、このミンクレール商会は、世間からの信用回復に努めなければならない。その中で、同じ過ちを繰り返さない為に必要な──重要な視点だったんだ」

 ……そんなに真剣な目で言われてしまうと、これ以上謙遜するのも心苦しくなってしまう。

「……お役に立てたのでしたら、良かったですわ」

 ああもうっ、誰かに感謝されるのはいつまで経っても慣れませんわね……!
 それも相手がケントさんだから、そわそわしてしまって落ち着きませんわ!




 ……とまあ、そういった経緯があって。
 今回の事件で捕らえたのは、『ガリメヤの星』のほんの一部だけだった。
 お兄様も仰っていたけれど、残るメンバーが潜伏している危険があるから、ここに住み込みで私を雇うのは心配なのだそうだ。
 商会と屋敷の行き来は警備騎士の護衛が付き、仕事の時だけここに居る状態にする事で、私を護るのだと会長が説明なさった。
 皆さんに迷惑を掛けてしまうのでは……と心配する私とは対照的に、二人は寧ろその方が安心するから、是非受け入れてくれと頼んで来た。
 心配しないでくれと言われても、多少の心苦しさは拭えない。

「そうだなぁ……。そんなに僕らへの負担を気にしているのなら、その分仕事で結果を出してもらえれば良い」
「お仕事で……?」
「うん。君は公爵家のお姫様だからね。ドレスなんかの女性物の衣服に関する仕事をやってみないかい? きっと向いていると思うんだ。良いよね、父さん?」
「ああ、私もそれが良いのではないかと思っていたところだ。如何ですかな?」

 女性の衣服のお仕事……。
 二人の仰る通り、私の経験が活かせそうなのはそれしかないだろう。

「お客様の思い描くドレスやワンピースをご提供して、喜んでいただく……。そういう事なのですわよね?」
「その通りさ。担当者として君の評判が上がれば、君を仲介役として指名して下さる方だって出て来るだろう。そうやってうちに貢献してくれれば、互いに嬉しい結果がもたらされるとは思わないかい?」

 私が女性のお客様に喜んでいただけるような仕事が出来れば、ケントさん達も喜んで下さる。
 そして、ケントさん達は私をここに置いて下さるから、それに対する恩返しにもなる……!

「……分かりましたわ。そうさせていただきます」

 それに、学校がお休みの日にはケントさんもよく顔を出しにいらっしゃるのよね!
 私達がもっと親密な関係になる絶好の機会、逃しませんわよ!!

「精一杯努力させて頂きます。会長様、ケントさん、これからお世話になりますわっ! 宜しくお願い致します!」
「うん、こちらこそ宜しく頼むよレティシア」
「今日から貴女も、我が商会の大切な仲間です」

 そうして私は、この日からミンクレール家でお世話になるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...