元花乙女は幸せを求めて家出する 〜悪役令嬢みたいな人生なんて、もう結構ですわっ!〜

由岐

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第3章 学校生活は薔薇色ですか?

1.輝く未来の為に

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「荷物は全て送ったし、制服もちゃんと揃っている……。準備は整いましたわ!」

 いよいよ入学式を明日に控えた私は、ミンクレールのお屋敷にある私の部屋で支度を整えていた。
 今年でいよいよ十五の誕生日を迎える私は、見事合格したセイガフ魔法武術学校の生徒として、寮生活をする事になる。
 ベッドや勉強机などの家具類は備え付けだそうだから、ここで暮らし始める際に持って来た服や小物類を寮に送っておいた。

 寮は男子と女子に別れて用意されていて、一部屋を二人で一緒に使うらしい。
 ルディエル学院では一人一部屋で使っていたから、知らない誰かと共同生活をするのはこれが初めてだ。
 明日は制服に着替えて初登校だ。
 セイガフの女子制服は、紺色のブレザーに臙脂えんじ色のリボン、そして白のスカートというシンプルで可愛らしいデザインのものだった。
 胸元のリボンは学年によって色が違うようで、ざっくり言うと一年生は赤、二年生は緑、三年生は水色、四年生はオレンジ系の色を取り入れたデザインになっているのだとケントさんが言っていた。
 今年からケントさんは三年生になり、来年になれば最高学年となる。
 私もセイガフでの四年間で様々な事を学び、そして素敵な旦那様となる人を選びたいと強く思う。



 ────────────



 そして、翌朝──

「会長様、今日までお世話になりました。本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。貴女と共に過ごした二年間は、とても実りあるものでした」

 朝食を済ませ真新しい制服に身を包んだ私は、会長を含む屋敷の方々に挨拶をする。
 ここで過ごし、商会で働いたこの二年は、長いようで短かった。
 けれど、以前の私では一生経験出来なかったであろう日々を過ごす事が出来た。
 少しずつ信用を取り戻しているミンクレール商会は、今でも一部のお客様からは不安に思われている部分もある。
 けれど、あの事件の直後に比べれば評判は随分良くなった。
 私も会長も、そしてルーファスやマルコさんといった従業員が一丸となって、一歩一歩取り戻していったものなのだ。
 皆で一つのものを守っていく事の大切さ。
 私はここで、それを深く学んだのだと思う。

「学校で何か困る事があれば、是非うちの息子を頼ってやって下さい。必ずや力になってくれる事でしょう」
「はい、勿論です。皆さんも、どうかお元気で」

 私は皆に笑顔で見送られながら屋敷を出た。
 新たな門出を祝うような雲一つ無い青空の下、私は気を引き締めてセイガフへと歩き出す。


 歩き慣れたアレーセルの街には、私のような新入生であろう若者達が、同じ方へと歩いていた。
 ピシッとした制服を着ると、何だか初々しい気持ちが蘇ってくる。
 昔もこうして新品の制服を纏い、学院で生活していた。
 婚約者だったセグが居て、学院で初めてマリアンヌに出会った。後から花乙女になったエリミヤも入学してきて、他の花乙女達も、どんどん彼の周りに集まって……。

 しかし、今は全く違う日々を過ごせている。
 セイガフにはケントさんが居て、彼の友人のウォルグさんも居る。
 同級生にはリアンさんとウィリアムさんが居て、合格発表の後に届いたミーチャからの手紙で彼女の合格も知った。
 私はもうセグの花乙女に戻るつもりは無い。
 彼からの婚約話はきっぱりと断り、可能な限り接触を避ける道を選んだ。
 だからこそ私は、ケントさん達との出会いを大切にしていきたい。


 以前と同じ場所を選んでも、何も変われないかもしれない。
 違う行動を起こしたからこそ、私はケントさんに救われた。
 リアンさんを護りきれなかった、不甲斐ない自分が許せなかった。
 そして、こんな私と仲良くなってくれたミーチャと、何故か熱心に慕ってくれるウィリアムさん──他にも沢山の出会いが、このたったの二年で何度もあったのだ。
 アルドゴール家の屋敷を飛び出したあの日から、私の世界は大きく広がった。
 あの時あの選択をしていなければ、彼らと出会う事も無かっただろう。

「今度こそは……間違えない」

 もっと優しく、もっと強く。
 この世のどんな女性にも負けないような、魅力溢れる輝きを手に入れたい。
 意地悪で卑怯な悪役令嬢なんて、もういらない。
 私は私の信じる自分になって、私だけの恋物語のヒロインになってやりましょう。

 自信を持って、背筋を伸ばして。
 未来はきっと、変えられる──!


 ******


 今日はレティシアの入学式の日だ。
 僕は今年で三年になるから、明日の始業式まではまだ春休み。
 それでも今日から彼女もこの学校に来るのだと思うと、楽しみすぎて心が落ち着かなかった。

「さっきから何なんだ。そんなに気になるなら外に行ってくれば良いだろう」

 朝からケーキの仕込みをするウォルグにキッチンから叱られ、僕は苦笑いで答える。

「でもそれじゃあ格好が付かないだろう? 気になるのは確かなのだけれどね」
「……レティシア、とかいったな。そいつ、強いのか?」

 女の子に興味の無いウォルグが、彼女の話題に喰い付くだなんて。
 けれど、それが外見や中身の話ではないというのが彼らしいか。
 僕は、淹れたての紅茶で喉を潤しながら言う。

「試験二日目の模擬戦で、結界の古代魔法を使ってみせたらしい。何だか大変な試合だったそうだけど、勝ったのは彼女のチームだったよ」
「古代魔法……そんなものを、学校に通う前の女が……?」
「戸惑う気持ちは僕も同じさ。流石にそこまで高難度の魔法が使えるなんて、彼女と頻繁に会っていた僕ですら知らなかったのだからね」

 詳しい話はアレク先生から聞いたけれど、それにしても今年の新入生は化け物揃いだな。
 彼女と戦ったウィリアムという少年も、並外れた魔力操作の才能を持っているらしいしね。
 そして、レティシアのパートナーだったリアンという子も、何やら特別な家系の出身だそうだし……。

「筆記、模擬戦、面接でもほぼパーフェクトの成績で合格したから、そのうち新入生代表として、全校集会で挨拶するんじゃないかな?」
「ほう……そうか」

 さて、今年は僕ら三年生が忙しくなる年だ。
 セイガフでは生徒一人に先輩が一人付き、学校内外での活動を共にするパートナー制度がある。
 それの予行演習も兼ねているのが、入学試験での模擬戦だ。
 一年生は三年と、二年生は四年の生徒とパートナーになる決まりで、僕とウィリアムも前年度まで先輩のお世話になっていた。
 一年の時に決めた先輩パートナーは持ち上がり式で、二年間を共に過ごす事になる。
 先輩、後輩、どちらからでもパートナーの申請が可能だから、僕はレティシアを選ぼうかなと思っていたりするのだけれど……。
 どうやらウォルグも彼女が……いや、彼女の力に興味があるようだから、ちょっと悩んでいる。

「そいつの家名は?」
「アルドゴール。公爵家のご令嬢だよ」

 彼女に貰った手紙に、いつもフルネームで名前が書いてあったと思うけど……。

「レティシア・アルドゴール……」
「……もしかして、彼女をパートナーにしたいのかい?」
「俺の戦闘スタイルとバランスが取れそうだからな。クラス発表の後、そいつの所まで案内しろ」

 ……まあ、彼女の戦闘力にしか興味が無いのなら大丈夫かな?
 ウォルグも女の子をどうこうしてやろう、なんて考えるタイプじゃないからね。曲がりなりにも僕の親友と言っても過言ではない関係なのだし。
 何だかんだで彼も紳士的な面を持った男だから、彼女を任せても良いのかもしれない。
 勿論、僕が完全にレティシアから目を離す訳ではない。
 彼女が僕を頼れば力になる。そうでなくても、何かあれば駆け付けるつもりだ。

「分かったよ。それじゃあクラス発表の後、彼女を探しに行こうか。ついでに午後のお茶会のお誘いも、ね?」
「……まあ、許してやるか」

 彼女の手紙でお菓子の味も出来栄えも絶賛されて、本当は物凄く嬉しいくせに。
 全く、いつになったら素直になれるんだか。

「そういえば、あいつらの件はどうなった?」
「ああ……昨日、隣町で強盗殺人があったらしい。また奴らの仕業だろうね」

 父さん達が誘拐されて、もう二年。
 あれから未だに『ガリメヤの星』は壊滅出来ておらず、悲惨な事件が続いていた。
 僕やウォルグのように、戦闘に特化した授業を選択した生徒達の間で、こういった情報交換がよく行われている。
 魔物の討伐に向かった先で殺人事件に遭遇しただとか、立ち寄った町で既に事件が起きた後だったとか、色々と。
 そうした情報は学校に報告し、学校を離れる生徒の安全の為に、危険な地域には向かわないように注意されるのだ。
 これらの情報はレオンハルト様の元へ届き、問題解決に向けて動いてもらっている。
 しかし、どれだけ事件を追っていても、奴らの本拠地は掴めていないのが現状だ。

「不愉快な話だな」
「全くだよ。最近はまた過激な事件が増えてきたから、討伐遠征に行く時は充分に警戒しないといけないね」
「アレーセルだってどうなるかな。現にお前の親父さんは、あいつらに攫われてただろう。大きな街が常に安全であるとは限らない」
「……正論だね。常に警戒しておくよ」

 僕らはもう、三年生。
 いつまでも下級生気分ではいられない。
 これから僕達は、パートナーとなる後輩を護り導く立場になるのだ。

「……今年は、どんな一年になるのだろうね」

 卒業までに学びたい事は、山ほどある。
 限られた時間の中で成長し、その後の人生で僕に何が出来るだろうか。
 願わくば、愛するもの全てを護れるような……そんな大人になりたいものだ。
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