赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

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第2章 新人探索者

8.思い描く先

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 ザインは『銀の風見鶏亭』に戻り、宿屋の主人に夕食の代金を支払うと、すぐさま出て来た料理をペロリと平らげる。
 食堂にはザインしかおらず、他の宿泊客達は既に部屋で休んでいるのだと主人が言っていた。

「ごちそうさまでした!」

 テーブルの上に並ぶ、空になった白い皿。
 スープやメインの料理を合わせて四品も用意してくれたのは、今夜がザインにとって特別なものである事を、主人がよく理解してくれているからであった。

「おそまつさんでしたーっと。いやぁ、良い食いっぷりだなぁ兄ちゃん! そんだけ綺麗に完食してもらえんなら、こっちも作りがいがあるってモンよ!」

 皿を片付けに来た主人に、ザインはコップの水をぐいっと飲み干してから笑顔で答える。

「何だかんだで昼食抜きになってたんで、めちゃくちゃお腹が空いちゃってて……。それにご主人の作る料理がこれまた絶品だったから、食べる手が止まりませんでしたよ!」
「そう言ってもらえると、例え世辞でも嬉しいねぇ」
「お世辞なんかじゃないですよ! 明日の朝も美味しい料理が食べられるのかと思うと、今からワクワクしちゃいます!」
「へへっ、ありがとよ!」

 言いながら、主人は厨房へと皿を運んでいく。
 そうしてそろそろ二階で休もうかと、ザインが席を立ったその時だった。

「兄ちゃん!」

 厨房の方から、ひょっこりと厳つい笑顔を覗かせる主人に呼び止められた。
 彼はぐっと親指を立てながら言う。

「探索者の試験、合格おめでとさん! これからもこの『銀の風見鶏亭』を宜しくな‼︎」
「はい! こちらこそ、ジル共々お世話になります!」

 そんな言葉を贈り合い、両者は満面の笑みでその場を後にした。
 王都周辺での探索が、この先どの程度続くかは分からない。
 けれど、この宿を拠点とする事が出来て本当に良かったと、ザインは心底実感していた。
 二階への階段を登りながら、ぽつりと呟くザイン。

「ご主人が合格祝いでサービスしてくれた肉の炒め物、また今度作ってもらえるかなぁ……」




 その日の夜、ザインは明日の予定を立てる事にした。
 部屋に備え付けられたテーブルに地図を広げ、王都の周辺に記されたマークを数件チェックしていく。
 それは『そこにダンジョンがある』事を示す記号である。
 このマークが付いた場所こそが、探索者達があらゆるアイテムの獲得に向かう財宝の山なのだ。

「王都からすぐ行ける場所となると、今日行ったポポイアの森と、昔母さんがよく行ってたディルの泉。それから──スズランの花園だよな」

 スズランの花園というダンジョンは、その名から受ける印象では初心者向けのように思えるが……その実態は、複数人での攻略を推奨される中級者向けのダンジョンだと言われている。
 ガラッシアからよくその話を耳にしていたザインならまだしも、並みの探索者であれば、情報収集の有無が生死を左右する危険地帯。
 ここに関しては、出来ればザインもジル以外の戦力を獲得したいと考えていた。

「でもなぁ……。そう簡単に仲間が見付かるようには思えないんだよな……」

 ザインの脳裏に蘇るのは、今朝の研修で出会った探索者見習いの面々。
 誰もがどこか憂鬱そうな目をしており、とてもザインとは気が合うようには思えない、やる気の無いメンバー達という印象だった。
 全ての探索者が皆そうなのだとは思いたくないが、少なくとも王都のギルドに集う探索者達への印象は、あまり良いものではなく……。

「……毎朝少しだけ仲間になれそうな人を探してみて、無理そうならジルと行けるダンジョンに向かうのが良いかもな」

 そうすれば、ザインのようにやる気に満ち溢れた探索者に出会えるかもしれないし、必要以上に時間を浪費しなくて済む。
 ならば──と、ザインは更に今後の予定を頭の中で組み立てていく。

「後はやっぱり……魔力量の強化と、これからの生活資金の調達か。ひとまず俺のスキルは自傷系じゃないみたいだし、安定して使えるようになれば、何かしら役に立つかもしれないし」

 こうしている間にも、先に探索者を夢見て旅立った兄は更なる成長を遂げているはず。
 人付き合いも良い方だと思うし、既にパーティーを組んで様々なダンジョンを攻略しているかも──と想像を巡らせるだけで、自分ももっと頑張らなくてはと奮い立たされるのだ。

「スキルは使えば使う程、レベルが上がる。レベルが上がれば、一度の消費魔力も軽減されるし、スキルの効果だってアップしていく。そうなると……」

 これから必要となるであろう、スキル練習用の魔力ポーションの確保。
 スキルを効率良く使用するには、単純にスキルの使用回数を重ねていき身体に覚えさせる事と、あと二つ。

 一つ目は、『倒せば魔力量が増加する魔物』を倒していく事。
 二つ目が、魔法の使用回数によって能力段階を引き上げる事である。

 前者に関しては、『魔法適性や魔力量の高い魔物』を倒す事によって得られる『魂の成長』の恩恵だ。
 そもそも、魔力というのは魂から生み出されるエネルギーである。敵対する魔物から得意能力の欠片を回収する事で、少しずつ己の能力を高めていく事が可能なのだ。

 そして後者は、もっとシンプルな話になる。
 自身の適性属性の魔法、もしくは無属性と言われる基本魔法を何度も発動する事により、より効率的に魔力をコントロールする術を学ぶ事。
 これによって能力段階が上昇すれば、自然と扱える魔力量にも変化が現れるのだ。
 この件に関して、ザインの場合は風神の弓の使用によって、風属性の能力が鍛えられていると考えられる。
 風神の弓のように、特定の属性を付与された武器の使用にも持ち主の魔力が消費される為、魔法の使用の一部としてカウントされるからだ。
 ただし──

「いくら俺が風神の弓を使っていたところで、全属性の能力段階がオール1だったんだよなぁ……。それがどこまで上昇したのか、神殿に行かないと確認出来ないし」

 当時十歳のザインは、火・水・風・地・光・闇の全ての段階値が最低である『1』を叩き出した。その事を、ザインは今もなお気にしていた。
 どんな魔法も使いこなせる土壌はあるものの、その芽を出させるには、かなりの訓練や魔物の討伐が必要になるからである。
 魔法の能力段階においても、その属性を持つ魔物を倒せば多少のプラス効果が得られる。それが強大な魔物であればある程、その恩恵も期待出来るものになるのだ。
 すると、ザインはテーブルの端に置かれた蝋燭に手をかざした。

「風神の弓の効果でかなり盛られてるけど、俺の素の能力じゃ……」

 掌から魔力を流し出すイメージで、蝋燭の火に向けて魔法を発動するザイン。
 彼の風魔法は、チロチロと燃える蝋燭に向かって放たれ──少しだけ炎を揺らめかせた程度で、蝋燭は元通りに燃え続けていた。

(こんな小さな炎すら満足に消せないってのに、どうして六属性も適性があるんだか……)

 姉のエイルの献身的な指導によって、簡単な魔法だけなら属性毎に使う事が出来るようになっていた。
 それでも、今回のようにいまいちな結果に終わる事が多く、年齢を重ねても大きな変化はほとんど見られない。
 多少は魔力量も増えてきたようではあるものの、それをコントロール出来ないのであれば、魔法の使い手として貢献するのは極めて困難だと言える。

(それに、スキルですらまともに使えないのに……)

 ポポイアの森で、八年越しのチャレンジに失敗してしまった。
 スキルは上手く発動せず、結果として不発に終わった。

「──でも、これで諦めたらダメだ。俺の夢は、生きる伝説の探索者……母さんを超えて、もっと凄い探索者になる事なんだから……!」

 ザインはそっと、胸に輝くバッジを包み込むようにして、きゅうっと握り締める。

「何度だって挑戦して、何度転んだって立ち上がる。ここから前進しなくちゃ、自分の思い描いた未来なんて掴めやしないんだ!」

 夢への第一歩は、既に踏み出された。
 ここから先の道を切り拓くのは、他でもない自分自身。

 ザインはもう一度蝋燭へと手を伸ばし、全神経を研ぎ澄ませて魔力を練り上げる。

「俺は絶対に、諦めたりするもんか……‼︎」

 そうして思い切り解き放った彼の魔力は、ぶわりと炎を揺らし──


 ──部屋は、夜の闇に包まれていった。
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