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第2章 新人探索者
10.予感
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ハナブショウを撃破し、無事に目当ての薬草を入手したザインとジル。
王都に戻ると、ザインは採取した薬草をとある場所へと持ち込んでいた。
「すみませーん! 持ち込みでポーションを作ってほしいんですが……」
ザインが訪れたのは、王都の中心部から少し離れた薬品店である。
店内はこじんまりとしており、壁一面に並ぶ棚には、綺麗に透き通ったポーションの数々があった。
この店では、薬草を持ち込んで手数料を支払えば、それに合わせたポーションを作製してもらえる。それを事前にガラッシアから聞き及んでいたザインは、こうしてディルの泉で集めた薬草をここへ運んできたのだった。
「はいはい、いらっしゃい! 薬草の持ち込みね?」
ザインの呼び声に、店の奥から明るい少女がやって来た。
肩まで伸びた栗色の髪をちょこんと束ね、吸い込まれるような深緑の瞳を持つ、とても活発そうな子だ。ザインより、彼女の方が少し歳上のように見えた。
彼女はカウンターに籠を置き、笑顔で接客を続ける。
「ここに薬草を入れてちょうだいな。ところで、初めて見る顔だけど新人さんかしら? それとも初めて王都に来た探索者さん? あたし、お客さんの顔と名前は皆覚えてるから、あなたとは初対面で間違い無いと思うんだけど」
「新人です! 昨日バッジを貰ったばかりで……。ああ、子供の頃に王都に来た事はありますよ!」
「となると、神殿で判定を受けに来た時以来とか? ……まあ何はともあれ、ご注文は何かしら?」
「魔力ポーションを出来るだけお願いします」
そう答えれば、少女はザインがポーチから取り出していく薬草へと目を向けた。
それらを一通りチェックした後、彼女はふむふむ……と数度頷く。
「……ええ、確かにこの材料なら作れるわね。ざっと見積もって……下級の魔力ポーションが十本前後は用意出来ると思うわ。それ以外に、何か必要なものはあるかしら?」
「今のところはそれだけで大丈夫です」
「分かったわ。使わない薬草はこっちで買い取っても平気?」
「はい、お願いします」
そう言うと、彼女はポーション作製の代金から薬草の買取分を差し引いた値段──銀貨四枚を請求してきた。
今朝ザインが脚を運んだ店では、下級ポーション一本で銀貨が一枚。それが十本前後の値段で、銀貨四枚で手に入るのだからお得である。
薬草採取のような地味な仕事を嫌う探索者は、こういった薬品類の作製依頼はあまりしない傾向にある。
強力な魔物から採れる素材や、それらが守る宝を売り払えば、多少の出費など痛くも痒くもないからだ。
けれども、王都周辺にはそのようなダンジョンは少なく、そもそもそういった場所はパーティーを組んで向かうのが前提である。金銭面でも戦力面でも、今のザインにはこういった細々とした努力で補っていく必要があった。
ザインは言われた通りに銀貨を支払い、それを受け取った茶髪の少女はにこりと微笑んで言う。
「お代、確かに頂きました! 明日の午後には用意出来るから、そしたらまた来てね!」
薬品店を後にしたザインは、ジルと共に『銀の風見鶏亭』へと戻っていた。
「うーん……」
既に夕食も済んだ後。だがしかし、どうにも妙な感覚がして落ち着かない。
その違和感の正体はよく分からないが、何だか身体の調子が良いような、悪いような……。
ザイン自身にも、この状態が良いものなのか判断に悩んでいた。
「身体が軽いような、重いような……。疲れてるのかなぁ、俺」
ぼふっ、とベッドに腰掛けてから、ごろりと仰向けに寝転がる。
この異変に気付いたのは夕食の時だったのだが、思い返してみれば、今朝から少し疲労感があったように思う。
「でも、昨日も今日もダンジョンに潜ってた訳だし……ただ単に疲れが溜まってるだけって事かもしれないよな」
それなら、今日は早めに寝よう。
きっと明日の朝になれば、すっかり元気になっているはずだ。
そう信じて、ザインはもぞもぞとベッドに潜り込んだのだった。
────────────
朝日が昇り、王都の青空を小鳥達が自由に羽ばたき、楽しそうにさえずる爽やかな日。
やはりここ二日間の疲労が蓄積していたのか、ザインは朝を迎えてもなお、深い眠りに就いていた。
けれども、そんな穏やかな時間は突如として終わりを告げる。
何故なら、何者かがザインの泊まる部屋のドアを何度もノックしてきたからであった。
しつこく叩かれる扉の音に、ザインの意識は否が応でも覚醒してしまう。
「もう、何だよぉ……。宿屋のご主人が起こしに来たのか……?」
眠気に絡み付かれた重い身体を起こし、くっついて離れようとしない目蓋を擦って、やっとの思いでベッドから抜け出していく。
そうして彼が扉を開けると──そこには、見覚えのないピンク色の髪の少女と、水色の髪をした少年が待ち構えているではないか。
「……ど、どちら様ですか?」
突然の来客に、思わず敬語が飛び出したザイン。
すると、身の丈程ある杖を持った少女が口を開く。
「昨日助けて頂いた、新人探索者のエルと申します。この子は弟のフィルです。……ええと、ザインさん……で、間違い無いですよね?」
「……まあ、そうなんですけど」
どうして彼女達は自分の事を知っているのか。
その答えは、隣に並ぶ少年──フィルが差し出してきたものに記されていた。
「あのっ! ザインさんがダンジョンに落し物をしていたようなので、お届けに来ました!」
彼がザインに手渡したのは、ザインのポーチに付いていたはずのネームタグ。
義理の姉であるエイルから誕生日に貰った、世界でただ一つの品に間違い無かった。
彼らも探索者だというからには、昨日訪れたディルの泉か、一昨日試験に向かったポポイアの森辺りで紛失してしまっていたのだろうか。
それなら、この二人がタグを頼りにここまで辿り着いたとしても不思議ではない……のかもしれない。だが、本当にそれだけで人を捜せるものなのだろうか。
(まさかとは思うけど、俺の『スキル』が何か影響してるのか……?)
「ええと……そのっ、ザインさん!」
「は、はい?」
寝起きの頭で考え事をしていると、フィルが澄んだ緑色の瞳をキラキラと輝かせながら、期待に満ちた顔でザインを見上げていた。
自分がまだ幼かった頃、母の目にもこんな少年の姿が映っていたのだろうか……と、そんな思考がぼんやりと浮かんだその時。
「も、もし良かったら……ぼく達を、ザインさんの弟子にしてもらえませんか⁉︎」
「…………ええぇっ⁉︎」
フィルの口から飛び出した予想外の申し出に、ザインは今日一番の大声を出して驚愕する。
目の前で無垢な瞳を向けてくる少年は、激しく戸惑うザインへ更に言葉を畳み掛けた。
「あの時ザインさんに助けてもらってから、ずっとザインさんの背中が目に焼き付いてて……。ぼくもザインさんみたいに、カッコ良く立ち回れたらなぁって……そう思っていたら、そのタグが落ちてるのを見付けたんです!」
興奮して熱く語るフィルに続いて、おずおずと口を開くエル。
「わたし達は、ザインさんに助けて頂けていなかったら……きっと、あのまま魔物達の餌食になっていたと思います。昨日はまともにお礼を言う暇もありませんでしたから、せめてきちんとお話をさせて頂きたいと思っていました」
「……そう、なんですか」
二人の話を聞く限り、この姉弟は嘘を吐いているようには思えない。
それに、エルの持つ杖とフィルの腰にある剣は、その場しのぎで詐欺師が持つにしては妙に使い込まれていた。
日常的に武器を使用している証であるそれは、ガラッシアから長年鍛えられてきたザインの目には明らかだった。
(そもそも、俺を騙すメリットも無いだろうしな……)
ひとまず、彼女達の事は信用しても良いだろう。
少なくとも、ザイン一人でも相手取れるはずだと窺えた。
すると、エルが深々と頭を下げた。フィルも慌てて姉に続く。
「……本当にありがとうございました。あなたは、わたし達の命の恩人です。どれだけ感謝しても足りないぐらい──あの瞬間、ザインさんはわたし達にとって、紛れも無い救世主でしたっ……!」
「あっ、ありがとうございました……!」
「え、ええと……」
真心を込めて感謝されている、というのは間違い無い。
だが──この姉弟を助けた覚えはまるで無かった。
この二日間、ザインと行動を共にしていたのはジルだけだ。
ダンジョン内で他の探索者に遭遇してもいない。けれども、彼女達が嘘を吐いている訳でもないように思う。
(ダンジョンで何かがあったとなると……俺のスキルぐらいしか思い付かない)
そう思い至ったザインは、思い切って二人に問い掛けた。
「あの……このタグって、どこに落ちてました?」
「えっと……ポポイアの森の、最深部寄りの場所です」
(……って事は、一昨日の出来事なんだよな)
一昨日は、探索者認定試験の為にポポイアの森へ行っていた。
そこでジルと一緒にダンジョンへ入り、ゴブリン五体の討伐をしていた。
だが、ザイン達はそこまで奥地には行っていない。ゴブリンはダンジョンの序盤でも遭遇する魔物なので、エルが言うように最深部に近付く必要も無いからである。
しかし、事実としてポーチのネームタグは外れてしまっていた。
そうなると、この姉弟が何か勘違いをしているか──ザイン自身が、ダンジョンの奥まで進んでいたか。
ただ一つだけ、この奇妙な出来事に関係しているかもしれないものがある。
ザインのスキル──『オート周回』によって、何らかの作用をもたらしてしまった可能性が残されているのだ。
ポポイアの森を脱出する直前、ザインはスキルを行使しようとした。
だが、予想以上に魔力を消費してしまい、意識も朦朧として……その後、身体から抜け出た魔力がどうなったのか確認出来ていない。
あの後、もしも『オート周回』がきちんと発動していたましたら……。
「確かめてみる価値はある、よな……」
「ザインさん……?」
「ああっ、いや、何でもない……です」
無意識に漏れていた独り言を聞かれ、ザインは小さく苦笑する。
「そう、ですか……? ええと……今日は本当にお礼に伺っただけですので、弟の話は水に流して頂いて構いません。いきなり弟子にしてくれだなんて、非常識ですものね」
(非常識も何も、多分探索者歴はこの子達の方が長いと思うし……)
……とは思うものの、彼女達にはまだ確かめておきたい事がある。
彼女達を窮地から救ったザインが、本当に自分だったのか。
それに──
「……今すぐ答えを出せる訳じゃないですけど、俺も一緒にパーティーを組んでくれる人を捜してたんです。だから、皆で一度どこかのダンジョンに行ってみませんか?」
「ほ、本当に良いんですか⁉︎」
「でも、その……ご迷惑じゃありませんか? わたし達みたいな未熟者と一緒だなんて……!」
「そんな事無いですよ! 実を言うと、俺も探索者になったのはつい最近なんです」
──この二人となら、パーティーを組んでみたい。
心から、そう思ったからだ。
王都に戻ると、ザインは採取した薬草をとある場所へと持ち込んでいた。
「すみませーん! 持ち込みでポーションを作ってほしいんですが……」
ザインが訪れたのは、王都の中心部から少し離れた薬品店である。
店内はこじんまりとしており、壁一面に並ぶ棚には、綺麗に透き通ったポーションの数々があった。
この店では、薬草を持ち込んで手数料を支払えば、それに合わせたポーションを作製してもらえる。それを事前にガラッシアから聞き及んでいたザインは、こうしてディルの泉で集めた薬草をここへ運んできたのだった。
「はいはい、いらっしゃい! 薬草の持ち込みね?」
ザインの呼び声に、店の奥から明るい少女がやって来た。
肩まで伸びた栗色の髪をちょこんと束ね、吸い込まれるような深緑の瞳を持つ、とても活発そうな子だ。ザインより、彼女の方が少し歳上のように見えた。
彼女はカウンターに籠を置き、笑顔で接客を続ける。
「ここに薬草を入れてちょうだいな。ところで、初めて見る顔だけど新人さんかしら? それとも初めて王都に来た探索者さん? あたし、お客さんの顔と名前は皆覚えてるから、あなたとは初対面で間違い無いと思うんだけど」
「新人です! 昨日バッジを貰ったばかりで……。ああ、子供の頃に王都に来た事はありますよ!」
「となると、神殿で判定を受けに来た時以来とか? ……まあ何はともあれ、ご注文は何かしら?」
「魔力ポーションを出来るだけお願いします」
そう答えれば、少女はザインがポーチから取り出していく薬草へと目を向けた。
それらを一通りチェックした後、彼女はふむふむ……と数度頷く。
「……ええ、確かにこの材料なら作れるわね。ざっと見積もって……下級の魔力ポーションが十本前後は用意出来ると思うわ。それ以外に、何か必要なものはあるかしら?」
「今のところはそれだけで大丈夫です」
「分かったわ。使わない薬草はこっちで買い取っても平気?」
「はい、お願いします」
そう言うと、彼女はポーション作製の代金から薬草の買取分を差し引いた値段──銀貨四枚を請求してきた。
今朝ザインが脚を運んだ店では、下級ポーション一本で銀貨が一枚。それが十本前後の値段で、銀貨四枚で手に入るのだからお得である。
薬草採取のような地味な仕事を嫌う探索者は、こういった薬品類の作製依頼はあまりしない傾向にある。
強力な魔物から採れる素材や、それらが守る宝を売り払えば、多少の出費など痛くも痒くもないからだ。
けれども、王都周辺にはそのようなダンジョンは少なく、そもそもそういった場所はパーティーを組んで向かうのが前提である。金銭面でも戦力面でも、今のザインにはこういった細々とした努力で補っていく必要があった。
ザインは言われた通りに銀貨を支払い、それを受け取った茶髪の少女はにこりと微笑んで言う。
「お代、確かに頂きました! 明日の午後には用意出来るから、そしたらまた来てね!」
薬品店を後にしたザインは、ジルと共に『銀の風見鶏亭』へと戻っていた。
「うーん……」
既に夕食も済んだ後。だがしかし、どうにも妙な感覚がして落ち着かない。
その違和感の正体はよく分からないが、何だか身体の調子が良いような、悪いような……。
ザイン自身にも、この状態が良いものなのか判断に悩んでいた。
「身体が軽いような、重いような……。疲れてるのかなぁ、俺」
ぼふっ、とベッドに腰掛けてから、ごろりと仰向けに寝転がる。
この異変に気付いたのは夕食の時だったのだが、思い返してみれば、今朝から少し疲労感があったように思う。
「でも、昨日も今日もダンジョンに潜ってた訳だし……ただ単に疲れが溜まってるだけって事かもしれないよな」
それなら、今日は早めに寝よう。
きっと明日の朝になれば、すっかり元気になっているはずだ。
そう信じて、ザインはもぞもぞとベッドに潜り込んだのだった。
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朝日が昇り、王都の青空を小鳥達が自由に羽ばたき、楽しそうにさえずる爽やかな日。
やはりここ二日間の疲労が蓄積していたのか、ザインは朝を迎えてもなお、深い眠りに就いていた。
けれども、そんな穏やかな時間は突如として終わりを告げる。
何故なら、何者かがザインの泊まる部屋のドアを何度もノックしてきたからであった。
しつこく叩かれる扉の音に、ザインの意識は否が応でも覚醒してしまう。
「もう、何だよぉ……。宿屋のご主人が起こしに来たのか……?」
眠気に絡み付かれた重い身体を起こし、くっついて離れようとしない目蓋を擦って、やっとの思いでベッドから抜け出していく。
そうして彼が扉を開けると──そこには、見覚えのないピンク色の髪の少女と、水色の髪をした少年が待ち構えているではないか。
「……ど、どちら様ですか?」
突然の来客に、思わず敬語が飛び出したザイン。
すると、身の丈程ある杖を持った少女が口を開く。
「昨日助けて頂いた、新人探索者のエルと申します。この子は弟のフィルです。……ええと、ザインさん……で、間違い無いですよね?」
「……まあ、そうなんですけど」
どうして彼女達は自分の事を知っているのか。
その答えは、隣に並ぶ少年──フィルが差し出してきたものに記されていた。
「あのっ! ザインさんがダンジョンに落し物をしていたようなので、お届けに来ました!」
彼がザインに手渡したのは、ザインのポーチに付いていたはずのネームタグ。
義理の姉であるエイルから誕生日に貰った、世界でただ一つの品に間違い無かった。
彼らも探索者だというからには、昨日訪れたディルの泉か、一昨日試験に向かったポポイアの森辺りで紛失してしまっていたのだろうか。
それなら、この二人がタグを頼りにここまで辿り着いたとしても不思議ではない……のかもしれない。だが、本当にそれだけで人を捜せるものなのだろうか。
(まさかとは思うけど、俺の『スキル』が何か影響してるのか……?)
「ええと……そのっ、ザインさん!」
「は、はい?」
寝起きの頭で考え事をしていると、フィルが澄んだ緑色の瞳をキラキラと輝かせながら、期待に満ちた顔でザインを見上げていた。
自分がまだ幼かった頃、母の目にもこんな少年の姿が映っていたのだろうか……と、そんな思考がぼんやりと浮かんだその時。
「も、もし良かったら……ぼく達を、ザインさんの弟子にしてもらえませんか⁉︎」
「…………ええぇっ⁉︎」
フィルの口から飛び出した予想外の申し出に、ザインは今日一番の大声を出して驚愕する。
目の前で無垢な瞳を向けてくる少年は、激しく戸惑うザインへ更に言葉を畳み掛けた。
「あの時ザインさんに助けてもらってから、ずっとザインさんの背中が目に焼き付いてて……。ぼくもザインさんみたいに、カッコ良く立ち回れたらなぁって……そう思っていたら、そのタグが落ちてるのを見付けたんです!」
興奮して熱く語るフィルに続いて、おずおずと口を開くエル。
「わたし達は、ザインさんに助けて頂けていなかったら……きっと、あのまま魔物達の餌食になっていたと思います。昨日はまともにお礼を言う暇もありませんでしたから、せめてきちんとお話をさせて頂きたいと思っていました」
「……そう、なんですか」
二人の話を聞く限り、この姉弟は嘘を吐いているようには思えない。
それに、エルの持つ杖とフィルの腰にある剣は、その場しのぎで詐欺師が持つにしては妙に使い込まれていた。
日常的に武器を使用している証であるそれは、ガラッシアから長年鍛えられてきたザインの目には明らかだった。
(そもそも、俺を騙すメリットも無いだろうしな……)
ひとまず、彼女達の事は信用しても良いだろう。
少なくとも、ザイン一人でも相手取れるはずだと窺えた。
すると、エルが深々と頭を下げた。フィルも慌てて姉に続く。
「……本当にありがとうございました。あなたは、わたし達の命の恩人です。どれだけ感謝しても足りないぐらい──あの瞬間、ザインさんはわたし達にとって、紛れも無い救世主でしたっ……!」
「あっ、ありがとうございました……!」
「え、ええと……」
真心を込めて感謝されている、というのは間違い無い。
だが──この姉弟を助けた覚えはまるで無かった。
この二日間、ザインと行動を共にしていたのはジルだけだ。
ダンジョン内で他の探索者に遭遇してもいない。けれども、彼女達が嘘を吐いている訳でもないように思う。
(ダンジョンで何かがあったとなると……俺のスキルぐらいしか思い付かない)
そう思い至ったザインは、思い切って二人に問い掛けた。
「あの……このタグって、どこに落ちてました?」
「えっと……ポポイアの森の、最深部寄りの場所です」
(……って事は、一昨日の出来事なんだよな)
一昨日は、探索者認定試験の為にポポイアの森へ行っていた。
そこでジルと一緒にダンジョンへ入り、ゴブリン五体の討伐をしていた。
だが、ザイン達はそこまで奥地には行っていない。ゴブリンはダンジョンの序盤でも遭遇する魔物なので、エルが言うように最深部に近付く必要も無いからである。
しかし、事実としてポーチのネームタグは外れてしまっていた。
そうなると、この姉弟が何か勘違いをしているか──ザイン自身が、ダンジョンの奥まで進んでいたか。
ただ一つだけ、この奇妙な出来事に関係しているかもしれないものがある。
ザインのスキル──『オート周回』によって、何らかの作用をもたらしてしまった可能性が残されているのだ。
ポポイアの森を脱出する直前、ザインはスキルを行使しようとした。
だが、予想以上に魔力を消費してしまい、意識も朦朧として……その後、身体から抜け出た魔力がどうなったのか確認出来ていない。
あの後、もしも『オート周回』がきちんと発動していたましたら……。
「確かめてみる価値はある、よな……」
「ザインさん……?」
「ああっ、いや、何でもない……です」
無意識に漏れていた独り言を聞かれ、ザインは小さく苦笑する。
「そう、ですか……? ええと……今日は本当にお礼に伺っただけですので、弟の話は水に流して頂いて構いません。いきなり弟子にしてくれだなんて、非常識ですものね」
(非常識も何も、多分探索者歴はこの子達の方が長いと思うし……)
……とは思うものの、彼女達にはまだ確かめておきたい事がある。
彼女達を窮地から救ったザインが、本当に自分だったのか。
それに──
「……今すぐ答えを出せる訳じゃないですけど、俺も一緒にパーティーを組んでくれる人を捜してたんです。だから、皆で一度どこかのダンジョンに行ってみませんか?」
「ほ、本当に良いんですか⁉︎」
「でも、その……ご迷惑じゃありませんか? わたし達みたいな未熟者と一緒だなんて……!」
「そんな事無いですよ! 実を言うと、俺も探索者になったのはつい最近なんです」
──この二人となら、パーティーを組んでみたい。
心から、そう思ったからだ。
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