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第3章 封印の少女
1.現し身であれど
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ザインが生まれ持ったスキル──『オート周回』。
その力は、偶然とも運命とも言える奇跡によって、エルとフィルという二人の仲間の命を救っていた。
使用者の魔力で構成された肉体を持つコピー体。
ザインの善悪の区別や、所持する持ち物や戦い方を基にして行動する彼は、楽しそうに笑い合うザイン達を静かに眺めていた。
「……なんだか、ふしぎなきもちに、なりますね」
会話がぎこちない以外は、ザインとほぼ何も変わらない。
コピー体である彼からしてみても、自分と同じ姿形をした人間が目の前に居るというのは、何だか奇妙に感じるのだ。
けれどその感覚は、決して不快なものではなく。
胸の中心が、どこかポカポカと暖かくなっていくような──
「きみが、たのしそうにしていると……おれも、すこしだけ……」
「おーい! そういえばお前、この後どうするんだ?」
──そんなザインからの呼び掛けに、コピー体は思考を切り替えて答える。
「……きみがのぞむのであれば、このままだんじょんでのたんさくを、くりかえします。それが、おれのやくわりなので」
もう少しで何かを掴めたように思うけれど、彼が今ザインに必要とされているのは、己の持つ周回能力なのだ。
そう結論を出したコピー体は、そのまま話を続ける。
「おれのからだは、まりょくがつきるまで、やすみなく……なんどもだんじょんを、しゅうかいします。そのあいだにあつめたもの、たたかったけいけんは……きみにひきつがれます」
「俺に、引き継ぐ……」
コピー体の言葉に、ザインは一つ思い当たる節があった。
ここ数日感じていた身体の違和感。
何故だか身体が軽くなったような、妙に体調が良いような──些細な違和感ではあれど、今ならばその事象にも説明がつく。
魔物を倒すと、それに応じた能力が上昇する。
筋力、体力、魔力など、少しずつではあるが変化が起きるのは有名な話だ。
ただこれは、武器や魔法、スキルによって魔物を討ち果たした本人にのみ発生するもの。
ザイン本人は認定試験で五頭のゴブリンしか倒していないはずだが、彼のスキル『オート周回』によって、ザインのコピー体がそれ以上の数の魔物を倒している。
スキルで生まれたコピー体が得た経験は、そっくりそのままザインの元へ受け継がれる──それが、事実であるのなら。
(俺が何もしていなくても、自動的に強くなっていくって事か……‼︎)
「それから……ぽーちを、かくにんしてみてください」
促されるままに、ザインは自身の腰元のポーチを確認した。
すると、その中にはかなりの量の薬草や木の実、魔物から得たであろう牙などが追加されているではないか。
「まさか、これもお前が……?」
「はい。これまでてにいれたあいてむを、きみのぽーちにてんそうしました」
たった今ザインが確認するまで、これだけのアイテムが詰め込まれているなどあり得ないはずだった。
しかし、アイテム収集や経験の引き継ぎが『オート周回』の基本技能なのだとすれば……。
(これって、使い方によってはかなり有能なスキルなんじゃないか……?)
考え込み始めたザインに、コピー体が更に説明を続ける。
「きみは、このだんじょんをこうりゃくしました。なので、じかいからは、さいしんぶまでのしゅうかいがかのうです」
「……いやいや、待ってくれ! それだと今度からお前一人でダンジョンマスターと戦う事になるんじゃないか⁉︎」
「い、いくらザインさんの分身でも、流石にそれは危険なのではないでしょうか……?」
予想外の発言が飛び出し、ザインは慌てて身を乗り出した。
ザインのコピーと言えども、一人だけでダンジョンマスターを相手にするのは自殺行為だ。ザイン自身ですら、エル達と会うまでは常にジルと行動を共にしていたのだから。
けれどもコピー体は、至って冷静に切り返してくる。
「きみからえたじょうほうで、このだんしょんのまもの……せんとうのたちまわりは、はあくできました。すぺっくてきにも、とくにもんだいはありません」
「そ、そうは言ってもなぁ……」
だが、コピー体の発言は的外れなものではない。
ザインと同じ実力を発揮するのであれば、弱点を知っている魔樹ポポイア相手なら、一人でもどうにかなってしまうだろう。
それを可能にしてしまうのが、母ガラッシアから譲り受けた風神の弓。
この武器すらもコピーされているのだから、並みの新人探索者を遥かに凌ぐ戦闘力を発揮するのは当然だった。
しかし、そうした油断が時に命取りとなる事をザインは知っている。
ザインは軽く溜息を吐き、コピー体へ目を向けて言う。
「……危なくなったら、すぐ撤退する事。それだけは約束してくれ」
「どうして、ですか……? おれは、もしもたおされてしまっても、なんどでもよびだせるものなのに……」
きょとん、とするコピー体。
ザインはそんな彼の両肩に手を置いて、改めて告げる。
「違うよ、お前はモノなんかじゃない! こうして話が出来る、れっきとした命なんだ!」
「いの、ち……?」
「少なくとも俺は……そう思ってる。だから、約束してくれ!」
真剣な表情で念押しされたコピー体は、数秒の沈黙の後、口を開いた。
「……わかり、ました。やくそくします」
「ああ、そうしてくれ。……自分と同じ顔をした奴が消えるだなんて、母さんも悲しむだろうしな」
それから、コピー体としばらく話をして。
今日のところは彼とはここで別れ、無理のない範囲でポポイアの森を周回してもらう事になった。
勿論、ザインと交わした約束──もしもの時は撤退するように頼んである。
『オート周回』については、これからもコピー体が周回を続けていればレベルが上がり、やれる事が増えていくとの説明を受けた。
具体的な内容は彼にもまだ分からないらしいが、実際にレベルアップすれば、自然と理解出来るようになるという。
「ひとまず、今日はここでお別れだな」
「コピーさん、また今度お会い出来る日を楽しみにしていますね」
「怪我には気を付けて下さいね!」
「ワフッ!」
「はい。ありがとうございます」
ザインが胸の探索者バッジに触れると、三人とジルの身体を光が包み込んでいく。
次の瞬間、光と共に彼らの姿が消え──ポポイアの森入り口へと転送されていった。
その力は、偶然とも運命とも言える奇跡によって、エルとフィルという二人の仲間の命を救っていた。
使用者の魔力で構成された肉体を持つコピー体。
ザインの善悪の区別や、所持する持ち物や戦い方を基にして行動する彼は、楽しそうに笑い合うザイン達を静かに眺めていた。
「……なんだか、ふしぎなきもちに、なりますね」
会話がぎこちない以外は、ザインとほぼ何も変わらない。
コピー体である彼からしてみても、自分と同じ姿形をした人間が目の前に居るというのは、何だか奇妙に感じるのだ。
けれどその感覚は、決して不快なものではなく。
胸の中心が、どこかポカポカと暖かくなっていくような──
「きみが、たのしそうにしていると……おれも、すこしだけ……」
「おーい! そういえばお前、この後どうするんだ?」
──そんなザインからの呼び掛けに、コピー体は思考を切り替えて答える。
「……きみがのぞむのであれば、このままだんじょんでのたんさくを、くりかえします。それが、おれのやくわりなので」
もう少しで何かを掴めたように思うけれど、彼が今ザインに必要とされているのは、己の持つ周回能力なのだ。
そう結論を出したコピー体は、そのまま話を続ける。
「おれのからだは、まりょくがつきるまで、やすみなく……なんどもだんじょんを、しゅうかいします。そのあいだにあつめたもの、たたかったけいけんは……きみにひきつがれます」
「俺に、引き継ぐ……」
コピー体の言葉に、ザインは一つ思い当たる節があった。
ここ数日感じていた身体の違和感。
何故だか身体が軽くなったような、妙に体調が良いような──些細な違和感ではあれど、今ならばその事象にも説明がつく。
魔物を倒すと、それに応じた能力が上昇する。
筋力、体力、魔力など、少しずつではあるが変化が起きるのは有名な話だ。
ただこれは、武器や魔法、スキルによって魔物を討ち果たした本人にのみ発生するもの。
ザイン本人は認定試験で五頭のゴブリンしか倒していないはずだが、彼のスキル『オート周回』によって、ザインのコピー体がそれ以上の数の魔物を倒している。
スキルで生まれたコピー体が得た経験は、そっくりそのままザインの元へ受け継がれる──それが、事実であるのなら。
(俺が何もしていなくても、自動的に強くなっていくって事か……‼︎)
「それから……ぽーちを、かくにんしてみてください」
促されるままに、ザインは自身の腰元のポーチを確認した。
すると、その中にはかなりの量の薬草や木の実、魔物から得たであろう牙などが追加されているではないか。
「まさか、これもお前が……?」
「はい。これまでてにいれたあいてむを、きみのぽーちにてんそうしました」
たった今ザインが確認するまで、これだけのアイテムが詰め込まれているなどあり得ないはずだった。
しかし、アイテム収集や経験の引き継ぎが『オート周回』の基本技能なのだとすれば……。
(これって、使い方によってはかなり有能なスキルなんじゃないか……?)
考え込み始めたザインに、コピー体が更に説明を続ける。
「きみは、このだんじょんをこうりゃくしました。なので、じかいからは、さいしんぶまでのしゅうかいがかのうです」
「……いやいや、待ってくれ! それだと今度からお前一人でダンジョンマスターと戦う事になるんじゃないか⁉︎」
「い、いくらザインさんの分身でも、流石にそれは危険なのではないでしょうか……?」
予想外の発言が飛び出し、ザインは慌てて身を乗り出した。
ザインのコピーと言えども、一人だけでダンジョンマスターを相手にするのは自殺行為だ。ザイン自身ですら、エル達と会うまでは常にジルと行動を共にしていたのだから。
けれどもコピー体は、至って冷静に切り返してくる。
「きみからえたじょうほうで、このだんしょんのまもの……せんとうのたちまわりは、はあくできました。すぺっくてきにも、とくにもんだいはありません」
「そ、そうは言ってもなぁ……」
だが、コピー体の発言は的外れなものではない。
ザインと同じ実力を発揮するのであれば、弱点を知っている魔樹ポポイア相手なら、一人でもどうにかなってしまうだろう。
それを可能にしてしまうのが、母ガラッシアから譲り受けた風神の弓。
この武器すらもコピーされているのだから、並みの新人探索者を遥かに凌ぐ戦闘力を発揮するのは当然だった。
しかし、そうした油断が時に命取りとなる事をザインは知っている。
ザインは軽く溜息を吐き、コピー体へ目を向けて言う。
「……危なくなったら、すぐ撤退する事。それだけは約束してくれ」
「どうして、ですか……? おれは、もしもたおされてしまっても、なんどでもよびだせるものなのに……」
きょとん、とするコピー体。
ザインはそんな彼の両肩に手を置いて、改めて告げる。
「違うよ、お前はモノなんかじゃない! こうして話が出来る、れっきとした命なんだ!」
「いの、ち……?」
「少なくとも俺は……そう思ってる。だから、約束してくれ!」
真剣な表情で念押しされたコピー体は、数秒の沈黙の後、口を開いた。
「……わかり、ました。やくそくします」
「ああ、そうしてくれ。……自分と同じ顔をした奴が消えるだなんて、母さんも悲しむだろうしな」
それから、コピー体としばらく話をして。
今日のところは彼とはここで別れ、無理のない範囲でポポイアの森を周回してもらう事になった。
勿論、ザインと交わした約束──もしもの時は撤退するように頼んである。
『オート周回』については、これからもコピー体が周回を続けていればレベルが上がり、やれる事が増えていくとの説明を受けた。
具体的な内容は彼にもまだ分からないらしいが、実際にレベルアップすれば、自然と理解出来るようになるという。
「ひとまず、今日はここでお別れだな」
「コピーさん、また今度お会い出来る日を楽しみにしていますね」
「怪我には気を付けて下さいね!」
「ワフッ!」
「はい。ありがとうございます」
ザインが胸の探索者バッジに触れると、三人とジルの身体を光が包み込んでいく。
次の瞬間、光と共に彼らの姿が消え──ポポイアの森入り口へと転送されていった。
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