赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

文字の大きさ
30 / 57
第3章 封印の少女

6.エルとフィルの昼下がり

しおりを挟む
 宿を出たエルとフィルは、様々な店が立ち並ぶ大通り沿いへ向かった。
 彼女達が泊まっている『銀の風見鶏亭』は少し裏手にあるので、人通りの多い道に出ると、その賑やかさに圧倒される。
 こんな派手な通りに店を出せるようなら、どこも質の良い品物を取り揃えた繁盛店ばかりなのだろう。
 そこに並ぶ建物の一つがギルド会館でもあるのだが、今日の所はもう立ち寄る必要の無い場所だ。

「食材は後で見るとして、まずは解毒薬を探してみましょうか」

 姉の主導の下、ピンクと水色の髪をした二人が仲良く歩いていく。
 すると二人が通り過ぎていこうとした店先から、香ばしい匂いが漂ってきた。

「どうだい、そのお二人さん! 焼き立ての牛串、豚串、鶏串が揃ってるよ!」

 その声の方へ目を向ければ、串焼きの肉を提供する食事処の店主が笑顔で客引きをしていた。
 どうやらこの店は、店内でも食べ歩きでも客の要望に応え、商品を提供してくれるらしい。今は昼食には少し遅めの時間帯だが、それでも店先からは客席で食事を楽しむ人々の姿が見える。
 フィルはエルのローブをちょいちょいっと引っ張って、瞳を輝かせて言う。

「姉さん、姉さん! ぼく牛串食べたい!」
「もうフィルったら……さっき宿屋でお昼ご飯食べてきたでしょう?」

 ザインから預かった共用の財布だけでなく、姉弟の財布の紐も握っているエル。
 無駄遣いは出来ないと言っておいたのに牛串をねだってくる弟に、エルは眉を下げて諭そうとする。
 けれどもそこへ、すかさず店主のセールストークが挟まれた。

「うちの串焼きは食事を済ませた後でも、思わず食べたくなる味だって評判なんでさぁ! どうですお姉さん、今ならどれでも二本買ってくれたら、一本好きなのをおまけしちゃいますよ?」
「ですって姉さん! ぼく、豚串も試してみたかったんですよね~」
「ちょ、ちょっとフィル……!」

 店主のトークにすっかり呑まれてしまったフィルは、もうすっかり串焼きを食べるつもりでいるようだ。
 実際エルも、昼食から少し経ち腹が落ち着いてきた頃合いだった。ちょっと小腹を満たすぐらいなら……と、己が決めたルールを覆そうとする食欲を抑えようとして、唇をきゅっと引き結ぶ。
 だかしかし、それでも引かないのが大通り沿いに店を構えた店主の意地である。

「実はですね……うちの店、新商品の開発をしておりまして──」

 言いながら店主が厨房から持って来たのは、色鮮やかな果物がカットされたものを串に刺したものだった。
 それをエルに差し出しながら、気の良い笑顔を浮かべた店主が更に続けて言う。

「肉だけじゃちょっと……という女性の声にお応えしようと、カットしたフルーツを凍らせたフルーツ串ってのを出そうかと思ってるんですよ!」
「こ、凍らせたフルーツ……ですか⁉︎」
「ええ、うちの娘が氷属性の使い手でしてね。この商品も娘の発案なんですよ」

 確かに串に刺されたフルーツには、よく見れば霜が降りていた。
 赤、黄色、緑、オレンジと様々なフルーツを一種類ずつ組み合わせたそれは、目にも鮮やかで食欲をそそる。

(冷たいフルーツだなんて……そんな、そんなの……!)

「こちらは無料でご試食頂けますよ! いかがです?」

 美味しそうなフルーツ串を前に、エルの心は激しく揺さぶられている。
 そして、そんな店主の甘い一言にトドメを刺され……

「……い、いただき……ます……!」
「どうぞどうぞー! そちらの弟さんも、是非ご感想を聞かせて下さい!」
「やったー! いただきまーすっ!」

 無邪気にはしゃいで串を受け取るフィル。
 エルも恥ずかしそうに、けれども若干の悔しさを滲ませながら店主からフルーツ串を受け取り、早速一口だけかじってみた。
 串の一番上にあったのは、凍ったポポイアの実だった。

「……っ! 食感がシャクシャクして、でも口の中でトロッと蕩けてきて……」

 かじった瞬間は、ポポイアの水分がシャーベットのような爽快感を与え、舌の温度で解けていくうちにトロリした食感に変わる。
 それを咀嚼し、喉に流し込めば、心地良い冷たさが駆け抜けていく。
 一口、また一口と食べ進めていくと、また別のフルーツが新たな甘みをもたらしてくれる。
 気が付けばエルはフィルよりも先に完食しており、その事実に彼女自身が一番驚いていた。

(フルーツにこんな食べ方があるだなんて、下手をしたらここのお店に通い詰めてしまいそうだわ……!)

「お味はいかがでしたか?」
「甘くて冷たくて、とっても美味しかったです……! これからの時期にもピッタリだと思います」

 店主に問われ、エルは素直な感想を述べる。
 夏にこれを売り出せば、老若男女問わず人気が出るのは間違い無いだろう。それに、牛串や豚串を食べた後のデザートとしても最高なはず。
 無意識にそんな想像をしてしまったエルは、ちらりと肉の串の方へと視線をやった。

(無料でこんなに素敵なものを頂いてしまったのだから、少しは売り上げに貢献しないと申し訳が立たないわよね……?)

 フルーツ串に魅了されてしまった言い訳じみた言葉を胸の内に並べ、エルはとうとう姉弟用のコイン袋を引っ張り出す。

「……せっかくですから、牛串と豚串を一本ずつ下さい」
「えっ、姉さん良いの⁉︎」
「美味しいお店を知っておけば、ザインさんにも紹介出来ますからね。ええ、これは誰が何と言おうと新規開拓ですとも……!」
「わーい! ありがとう姉さん!」

 どんどん言い訳がましくなってきた事実から必死に目を逸らしながら、串焼きの値段分を支払うエル。
 急いでフルーツ串を飲み込んだフィルがそれぞれ両手に串を持ち、満足そうに微笑んでいる。

「さてさてお姉さん、おまけの一本はどうなさいます?」
「あ……そういえばそういうお話でしたね。それじゃあ……鶏のをお願いします」
「あいよ、鶏串ねー!」

 店主から香ばしく焼き上げられた鶏串を受け取り、エルはそれを持ってフィルを眺めた。
 既に豚串を口に頬張っているフィルは、お腹の具合からしても鶏串までは入らないだろう。それなら……と、エルが鶏串を口に運ぶ。
 塩とハーブの効いた味付けに、鶏の旨味が凝縮されたジューシーな食感。
 噛めば噛む程味が染み出すシンプルな味わいに、またしてもエルは驚愕し、感想が漏れ出していた。

「ま、まさか……これも美味しいだなんて……!」

 その呟きにニッコリと笑う店主に敗北感を覚えながら、二人はしっかりと小腹を満たしてしまった。

(ザインさんが戻って来たら、絶対にこのお店を教えて差し上げなくては……!)

 そんな決意を固めながら、改めて二人は買い出しを再開するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...