赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

文字の大きさ
36 / 57
第3章 封印の少女

12.奇妙な空気

しおりを挟む
 ザイン達は道中に現れる虫型の魔物や、『ディルの泉』に居たようなハナブショウに似た、蔓を操る植物系の魔物を倒しながら進んでいた。
 風神の弓を持つザインによる後方からの射撃と、前衛を務めるプリュスの剣技の凄まじさ。
 二人は現れる魔物を次々と仕留めていき、そのほとんどがプリュスの手によって葬られていく。

「師匠の矢の正確さも凄いですが、プリュスさんの剣技の冴えがとてつもないですね……! 聖騎士認定試験の難関を突破した人……。ぼくなんかとは、何もかもが違いすぎる……!」

 立ち塞がっていた魔物達を全て斬り伏せたプリュスが、剣に付着した魔物の体液を払いながら、フィルの言葉に答える。

「フィル君もこのまま鍛錬を重ねていけば、立派な剣士になる事でしょう。自分は、人を見る目には自信がありますので」
「そう……ですかね。でもぼく、魔物の相手はほとんどお二人に任せきりだし……」

 するとザインは弓を片手に、フィルの背中をポンポンと叩いた。

「お前は俺の弟子なんだから、もっと自信を持って良いんだぞ~?」
「し、師匠……!」

 フィルはザインの顔を見上げ、そんな弟子に師匠は笑顔を向けて言う。

「露払いは俺達に任せてくれ。姉さんを救うのは……フィル、お前の役目だ」
「それまでフィル君は、体力を温存しておいて下さい。いざという時にスタミナ切れを起こしてしまったら、お姉さんに格好良い所を見せられなくなってかもしれませんよ?」

 ダンジョンでのエル捜索も、『スズランの花園』第三階層まで進んでいる。
 プリュスの情報によれば、このまま進めば第四階層──ダンジョンマスターの待つ最深部に行き着くという。
 それまでにフィルがバテてしまうのは避けるべきである、という二人の判断の下、こうしてザイン達が率先して魔物と戦っていたのだった。

「……そうですよね。ぼくが……ぼくがもっとしっかりしていれば、姉さんはこんな目に遭わずに済んだですから……。せめて、姉さんを助けるのはぼくの手でやるべきですよね!」
「その意気ですよ、フィル君!」
「さあ、このまま一気に第四階層に突入だ!」
「はいっ、師匠!!」

 元気一杯に頷いたフィルの太陽のような笑顔に、ザインとプリュスは安堵した。
 三人はその勢いのまま、宣言通りにエルを探して次なるフロアへと降りていく──が、ザインには一つ引っ掛かるものがあった。

(人質を逃げ場の無いダンジョンに連れ込む……か)

 これとよく似た経験を、ザインは知っている。

 八年前の『ポポイアの森』での事件。

 母ガラッシアの言い付けを破り、兄のディックと二人だけでダンジョン探索に向かったあの日。
 ガラッシアが倉庫に保管していた風神の弓と治癒の短剣を拝借して、その価値に目を付けた大柄な男……ベイガルの口車に乗せられ、共に最深部までダンジョンを突き進んだ。
 そこでベイガルが態度を豹変し、武器を寄越せと言ってきたのだ。

(あの時は俺がディックに助けを呼びに行ってもらったけど、結局ベイガルは取り逃しちゃったんだよな……)

 息子達の救出に駆け付けたガラッシアはベイガルを追い詰めたが、彼は『瞬足』スキルを駆使してダンジョンから逃げ出し、行方をくらませてしまった。
 あの出来事から八年もの歳月が流れた今、あの男がどうなっているのかは分からない。

(何でかな……。妙に胸騒ぎがする)

 ザインは嫌な予感を覚えながら、口元のバンダナ──『マドワシスズラン』の幻惑の花粉を防御するアイテム『マジックバンダナ』を結び直した。

(下層に進むにつれて、飛び散る花粉の量も多くなってきた。エルもこのバンダナを着けてると良いんだけど……)




 ──ザイン達は遂に『スズランの花園』第四階層に到達した。
 ここは最早、花粉の量によって空気の色がおかしくなっていた。

「空気がかなり紫がかってるな……」
「ええ、それも第三階層よりも濃くなっています。自分が以前巡回に来た際には、ここまで花粉が飛ぶような事は無かったのですが……」

 何かしらの異常が発生しているのだろう。
 マドワシスズランが増えすぎたのか、それを操る魔物による意図的な物なのか……。
 いずれにしても、この花粉の大量飛散の異常事態はギルドに報告しておくべきだろう。


 三人は引き続きダンジョンを進んでいき、いよいよ最深部を目前にした安全地帯に到着しようとしていた。
 草花の数が疎らになり、少しずつ木々の本数が増えていく。

(多分、この先にエルが……そして、エルを攫った犯人のリーダー格も居るはずだ)

 フィルとプリュスも、ザインと同様の事を考えていたらしい。
 こちらの声が犯人に聞こえないよう、無言でアイコンタクトを交わす。

 ダンジョンの入り口でのやり取りと同じようにして、まずは巡回を装ってプリュスが先頭を行く。
 残るザインとフィルはというと、気配を悟られずに木々の裏に身を隠しつつ、プリュスと共に左右に別れて全身する。
 いつプリュスに加勢にしても困らないよう、ザインの手には風神の弓、フィルの手には愛剣が握られていた。
 そうしてザイン達は、最深部手前のエリアを視界に捉えた。

 ぐったりとした様子で地面に倒れ伏す、ピンク色の長髪の女性。
 見慣れたローブに身を包んだ彼女を見間違えるはずもない。
 腕を縛られて倒れているのは、どこからどう見てもエルだった。
 そして、彼女の近くに座り込んでいる男を目にしたザインは、ハッと息を飲んだ。
 青いバンダナを巻いた、大柄の男。
 その顔は口元がマジックバンダナで隠されてはいるが、あの目付き……そして体型にも見覚えがある。

(あれは……あの男は、ベイガルだ……‼︎)

 八年前、ダンジョン最深部付近で若い探索者達に似たような強盗行為を何度も働いていたベイガル。
 その男は今も尚犯罪を繰り返し、今度はザインの仲間にまで手を出していたというのか。

(母さんにあれだけ懲らしめられて、それでもまだこんな事を繰り返していたっていうのか……⁉︎)

 ザインは込み上げる怒りに奥歯をギリリと強く噛み締め、今すぐにでも矢を放ちたい衝動と戦っていた。
 ここで下手に動いてしまえば、ベイガルの命を奪いかねない。
 それではベイガルにこれまでの罪を償わせる事が出来ないからだ。

 ──だがザインの心は『あの男を断罪すべきだ』とも訴えている。

(でもそんな事をしたら、俺もあいつと同類だ……!)

 木の陰に隠れ、気配を殺したまま……ザインはどうにか冷静さを取り戻さねばと、怒りを振り払おうとする。
 その間に、剣を鞘に収めたプリュスがベイガルに近付いていた。

「ご休憩中の所、失礼致します。自分は白百合聖騎士団所属、プリュス・サンティマンと申します。ダンジョン内の定期巡回で参ったのですが……そちらの女性は、何故腕を縛られた状態で倒れていらっしゃるのでしょうか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

処理中です...