赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

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第3章 封印の少女

11.風に揺れるスズラン

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 地上はヒカリスズランが放つ仄かな明かりに照らされているものの、ダンジョンへと続く階段から先は暗闇に包まれていた。

「お二人共、足元に気を付けて下さいね。地下への階段は長く、真っ暗ですから」

 プリュスの言葉に、ザインはすぐに問い掛ける。

「もしかしてプリュスさん、ここにはもう何度か来た事が……?」
「ええ、王都付近のダンジョンには定期巡回で来ていますので。階段を下りきれば、そこから先は視界を確保出来ますよ」

 それならとても心強い。
 彼女の先導があれば『スズランの花園』でも難無く行動出来そうだ、とザインは安堵した。

「ここからは自分がお二人をご案内出来るかと。階段に罠が仕掛けられている危険性がありますので、くれぐれも気を抜かぬよう用心して下さい」

 そう言って、プリュスは先頭に立って階段を下っていく。
 危険地帯へ迷わず自分の身を投入し、ザインとフィルの安全を優先する聖騎士。
 それは民の平和と安全を第一とする白百合の騎士として、正しい姿である。
 しかしザインは、彼女のその心遣いに胸を痛めていた。

 探索者であっても、聖騎士が守護する民である事に変わりは無い。
 けれどもプリュスには劣るかもしれないが、ザイン達二人は自分の身は自分で守れる程度の強さなら備えている。
 一騎当千の聖騎士ではあれど、彼女だけに危険も責任も全て背負わせるというのは……心苦しかったのだ。

 ザインの目から見ても、プリュスが今回の事件に大きな責任を感じているのは明らかだ。
 その関係者であるエルの弟・フィル。
 そしてエルの所属するパーティーのリーダーであり、犬好き同盟のザイン。
 聖騎士としての立場だけでなく、友であるザインにすら迷惑を掛けてしまったという事実が、プリュスに重くのし掛かっているのは間違い無い。

(……多分だけど、プリュスさんは無理をしすぎている)

 聖騎士団のルールを破り、それでも尚エルを救うべく、自らの身を呈するプリュス。
 どんどん暗がりへと進んでいく彼女の背を、険しい表情で見詰めるザイン。

(この人の為に、俺が出来る事……)

 考えて、考えて。
 そうして導き出された答えは、やはり以前と変わらない。

(──この事件が解決したら、今度は俺がプリュスさんの為に動くんだ)

 プリュスという女性は、名実共に聖騎士に相応しい。
 そんな彼女に恩を返す為ならば。
 そして、仲間を取り戻す為ならば──

(失敗は出来ない。今も……この先もだ……!)




 もう、何段下りてきたのだろう。
 地下への永遠に続くような錯覚に、少しずつ感覚が侵されてきた頃の事。

「あれは……」

 ザインが声をそんな風に漏らしたのは、階段の先に小さな光を発見したからだ。
 すると、先頭を行くプリュスが声を抑えて口を開く。

「……ダンジョン内部に突入しますよ」

 一段ずつ降下していくにつれて、暗闇に慣れ始めていた目が明るい光に刺激された。
 思わず手で両目を庇いながら進んだザインは、少しずつその光に目を順応させていく。
 ゆっくりと、目を開く。
 ザインはようやく認識した地下世界を前に、ポカンと口を開けて言葉を失った。

(何だ……これ……)

 真夜中の草原。
 その中心部に位置する、地下階段の先。
 暗闇から抜け出した先に広がっていたのは──眩い光が降り注ぐ、草花の楽園であった。

 地面の下であるはずなのに、頭上には青い空と白い雲。
 そこに輝く太陽の光はとても暖かく、心地良い春の日を思わせる快適な気候。
 頬を優しく撫でる風は穏やかで、様々な草花……特にスズランが目立つが、それらが仲良く咲き乱れる春爛漫の草原。
 そんな異常な地下世界にやって来たザインは、それら一つ一つを頭の中で理解していき……。

「……こ、これが噂に聞く『異界ダンジョン』って奴か⁉︎ ダンジョンマスターがその身に宿す膨大な魔力で作り出したっていう、普通じゃあり得ないような地形や空間を生み出す事で造られる、特殊なダンジョン……‼︎」

 大興奮で一気に言葉を吐き出したザインに、プリュスが小さく笑いながら答える。

「ええ。ここ『スズランの花園』は、世に数ある異界ダンジョンの一つです。常に春の陽気で、穏やかな景色が広がる真昼の花園……」

 入り口付近にはエルと犯人達の姿は見えず、プリュスは少しだけ警戒を解いていた。
 一方フィルも、ザインと同様にこの光景に驚きを見せていた。……流石に、ザイン程の激しさは無いが。

「──ですが、だからこそ油断は禁物です。この地の花には、幻惑効果のある花粉を撒き散らす『毒花』が存在しています」
「えっと、確か……『マドワシスズラン』……でしたよね? 師匠!」
「あ、ああ……! そうそう、『マドワシスズラン』だ。ヒカリスズランと見た目がよく似ていて、うっかり花粉を吸い込むと危険な魔物の棲家に吸い寄せられて……」

 フィルの問いに、我を取り戻したザイン。
 パンパンッ! と頬を叩いて気合いを入れ直し、改めてこのダンジョン『スズランの花園』の情報を三人で共有した。


 このダンジョンが『スズランの花園』と呼ばれる所以は、迷宮への入り口と内部にて、愛らしいスズランの花が多数目撃された事にある。
 白く小さな鈴のような形の花を幾つも揺らす、清楚な印象を受けるスズラン。
 それらはダンジョンのあちらこちらに自生しており、そのほとんどが暗闇で光を放つ無害な花──『ヒカリスズラン』であると確認されている。
 けれども有害な花──『マドワシスズラン』の持つ花粉が、人体に悪影響を及ぼすのだ。
 一度その花粉を吸い込んでしまうと、『マドワシスズラン』の種を吐き出す魔物の下までフラフラと歩き出し、帰らぬ人となってしまう。

「毒スズランとも呼ばれるその花は、このダンジョンの主である魔王軍残党が独自に誕生させた新種と言われているのは、ザイン君達もご存知のはず。つまり……」
「毒スズランにやられたが最後、ダンジョンマスターの餌食になる……って事ですよね、プリュスさん?」
「その通りです。ですので、お二人には事前にお渡ししてあるこちらを装備して頂きたく……!」

 言いながら、プリュスは腰元のポーチから取り出した『ハンカチ』を後頭部で結び、鼻と口元を覆っていく。
 ザインとフィルもそれぞれ色違いのハンカチで同様に顔をカバーし、密閉具合を確かめた。

「お二人共、着け心地は如何でしょうか? 少しでも違和感があるようでしたら、すぐに別の物と取り替えさせて頂きます」
「いや、大丈夫です。呼吸もしやすいですし、ピッタリ鼻と口を覆ってくれてますよ!」
「ぼくの方も大丈夫です。異常ありません!」
「それは良かった。きちんと防御魔法が作動しているようですね」

 三人が装備した『ハンカチ状のアイテム』が上手く作動しているのを確かめた所で、彼らはいよいよ本格的にエルの捜索へと繰り出した。
 入り口付近に居ないのであれば、彼女は犯人の手でダンジョンの奥まで連れて行かれているのだろう。

(今すぐ行くからな、エル。もう少しの辛抱だ……!)

 グッと奥歯を噛み締めながら、ザインは背中の風神の弓を手に取った。




 ──────────────




 ザイン達がダンジョンに突入した、その頃。

 彼女が連れて来られたのは『スズランの花園』の最下層──ダンジョンマスターの待つエリアを目前に控えた、所謂休憩スポットと呼ばれる安全地帯であった。
 エルは両腕を後ろ手に縛られた状態で、誘拐犯の目が届く場所に座らされている。
 最下層といっても、そこは『ディルの泉』と似た棚田のような構造となっていて、ザインが見上げた地下世界の空とエルの目に映る空は全く同じものであった。
 そこに行き着くまでの道中、誘拐犯のリーダーと部下達が魔物を適当に蹴散らし、フィルの到着を今か今かと待っている所だ。
 眠気覚ましの薬を飲み干したばかりの誘拐犯は知らぬようだが……エルは木々が茂ってきた最下層に到達した頃から、今この瞬間までの環境の変化に気付いていた。

(何故だか少し前から、空気がよどんでいる……ような気がする)

 エルの置かれた状況とは裏腹に、この地には爽やかな風が吹く。
 けれども彼女は、その風が運んでくるに違和感を抱いている。

(心なしか息苦しくなってきているし……頭がぼーっとする。ここは……一体どこなの……?)

 フィルと手分けして店内で品物を眺めている最中、急に男達に囲まれたかと思いきや──気が付けばこんな場所に連れ攫われ、囚われの身。
 見張りの男は大柄な男一人だけだが、他に仲間が居るのは知っている。
 他の男達がいつ戻って来るかは、分からない。
 であるからこそ、この状況下においてエル単独での逃亡にはリスクがあるのだ。

 エルは周囲を見渡しながら、自身を連れ去ったグループのリーダーらしき男に気付かれぬよう、ちらりと目を向ける。
 男は頭に青いバンダナを巻いており、口元にも似たようなものを当てていた。
 頭に巻かれた方は年季が入っているようだ。気に入っている品なのかもしれない。
 そして上半身は胸当てで守られ、やけに立派な斧が男の近くに突き立てられている。

(手を縛られた状態で、どこまで対抗出来るかしら……)

 脚は自由だが、このまま逃げ出してもすぐに追い付かれてしまうのは明白だ。
 ならば、フィルがザインに助けを求めて救助に来るのを待つべきか?
 ……だが、この異変が気の所為でなければ、身体に何かしらの影響が出るような予感がしてならない。

(ザインさん……私、一体どうしたら……!)

 脳裏に赤髪の青年の姿を思い浮かべ、少女は助けを請う。
 そうこうしている間にも、彼女の体内には目に見えない『異質な魔力』が取り込まれていく。
 それを知ってか知らずか青バンダナの男は、ふとダンジョンの入り口方面へと顔を向けるのだった。
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