赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

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第4章 怪しい影

10.突き進んだ先に見えるのは

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 浮かんだ涙を服の袖でゴシゴシと拭い、師匠と仰ぐザインの後を追うフィル。
 立派な探索者となる夢と、行方不明の父を探すという目的を投げ出さずに進んでいこうと覚悟を決めた弟の背中を見て、エルは複雑な笑みを浮かべていた。
 偶然にも二人の命を救ったザイン──正確にはそのコピー体だったが──に憧れ、彼の弟子に志願したのは紛れも無くフィル自身の意思だ。
 明るく前向きで、自分達に優しく手を差し伸べてくれた彼に憧れを抱く気持ちは、エルにもよく理解出来る。実際に彼女だって、そんなザインに心を惹かれているのだから。
 いつだって自分達の少し先を行っていて、けれども皆と同じ位置に立ち、二人の手を引っ張って導いてくれる……エルにとって、そんな存在がザインなのだ。

 師であるザインの背中を追って、少しでも彼のような男を目指そうと、今新たな一歩を踏み出したフィル。
 それは『鋼の狼』の一員として喜ばしい事である。
 けれども同時に、フィルの姉としては寂しさを覚える事でもあったのだ。

(わたしが隣に居なくても、フィルはいつの日か一人でも歩いていけるようになってしまう)

 母は弟を産んで間も無く落命し、それから男手一つで姉弟を育ててくれた父も行方が知れない。
 二人がザインの仲間となるまでの日々は、エルが弟の母親代わりとしてフィルの面倒をみていた。
 しかし子供の成長というのは、それが弟であっても例外ではないらしい。
 目指すべき明確な目標を見付けてしまえば、男の子はそれに向かって突き進んでいける。……例え、姉の助けが無かったとしても。
 それは世話焼きな性格のエルにとって、自分の存在意義を見失ってしまう程のもので。

(父を探すこの旅が終わったら、わたしはこの先どうすれば良いのかしら……)

 第二階層へ続く階段を降りながら、ぼんやりと考える。
 元々エルとフィルが探索者になったのは、父を探す旅の資金を稼ぎながら、どこの国でも気軽に働ける職業であったからだ。
 幸いにも魔法の才能があり、自分達の目的に快く協力してくれるザインに出会えた事は、何よりもの幸運だった。
 けれど、父の安否が判明した後の事は深く考えていなかったのだ。
 フィルはきっと、その後もザインの弟子として『鋼の狼』での活動を続けたいと言うのだろう。
 それにザインの人柄の良さや、どれだけ危険な面倒事でも果敢に解決しに行こうとする性格からして、これからパーティーの仲間が増えていく事もあるかもしれない。
 何故ならザインには、「この人と一緒に歩んでいきたい」と思わせる、抗い難い魅力があるからだ。
 現に今、自分達の指導役としてカノンという少女も加わっている。
 彼女は正式な『鋼の狼』の一員ではないが、自分達と行動を共にする仲というのは変わりない。
 そうやってザインの側に並ぶ人物が増えていった先に……フィルの手本となる者が次々と現れていく中で、果たして自分の居場所はここに残っているのだろうか?

(いつかそうなってしまった時、わたしは……どうすれば良いのでしょうね)

 道を得た弟とは対照的に、エルは足元が崩れ落ちていくような錯覚を覚えていた。
 それは今こうして階段を降りていくような、未知の領域に踏み込んでいく不安感によく似ている。
 漠然とした将来への恐怖に怯えながら、エルは次なる階層へと足を運ぶのだった。



 ────────────



「おいおいおい、これは流石に極端すぎないか!?」
「文句を垂れてる余裕があるなら、さっさとこの魔物共を殲滅させなさいよ!」

 第二階層の状況は、第一階層とは打って変わって大忙しだった。
 第一階層では下階への階段付近にしか出現しなかった魔物達だったが、ザイン達が第二階層に到達して間も無く、これでもかという程の魔物の群れが次から次へとやって来る。
 気が付けば四人は魔物達に取り囲まれるような状態で戦うしか術が無く、互いが背中を預けて敵に対処していく。
 彼らを囲み蠢いているのは、先程ザインとカノンが倒した地底蛇をはじめとする、洞窟に多く生息する種類の魔物達。
 口から魔法弾を発射する地底蛇は後方に。それらを庇うように前に立つのが、地中に含まれる鉱物の魔力を動力源とするゴーレム達であった。
 全身が土や岩石で構築されたゴーレムは、その成分にもよるが身体が頑丈だ。よって物理攻撃が通じにくい相手であり、魔法による攻撃でなければほとんどダメージを与えられない魔物である。

「聖なる光よ、我が剣に宿れ! せやぁぁぁっ!」

 カノンは剣に魔力を通し、光の力を帯びた斬撃をゴーレムに与えていくが……その効果は微々たるものだ。
 単なる斬撃よりは、カノンがやってみせた魔力を乗せた攻撃──魔剣の方が、魔法程ではないものの威力は出る。
 しかし、それでもやはりゴーレムへの物理攻撃である事に違いはなく。
 多少の傷をゴーレムの腕に付けた程度で、体長二メートル程の巨体は変わらずこちらに迫っていた。

「エル! こうなったらアナタの魔法がこのパーティーの生命線よ! ワタシがサポートするから、アナタは集中してアイツらに魔法を撃ち込む事だけを考えなさい!」
「で、ですが、それでは最下層まで魔力が保ちません……!」

 エルの方を気にしながら叫ぶカノンに、比較的に魔力消費の少ない魔法を別のゴーレムへ放つエルが答える。
 彼らが『カピア洞窟』へ来た目的は、最下層である第四階層に眠る竜翡翠を出来るだけ多く持ち帰る事だ。
 まだ第三階層にすら到達していない。だというのに、こんな所で複数体のゴーレムを撃破する程の魔法を連発していてはエルの魔力が底をついてしまう。
 魔法の使い手というのは、パーティーにとって貴重な存在だ。
 ザインのような遠距離攻撃手段を持つ者が居ればまた変わってくるが、安全地帯から敵に攻撃を加えられる魔導士は、効率的に魔物を殲滅していくには必須と言っても良い。
 例えば『ポポイアの森』に居たゴブリンのような魔物が相手であれば、剣士だけでも相手に出来るだろう。
 しかし今彼らが対峙しているゴーレムが相手になった途端、剣士は本来の力を発揮出来なくなってしまうのだ。
 カノンもそれを理解しているからこそ、ゴーレムへの有効な対抗手段を持つエルに、どうしても魔法を発動してもらいたい。

「魔力の心配はしなくて良いわ! ワタシが常備している魔力ポーションを使わせてあげるもの。良いから早く、思いっきりやって頂戴!」
「は、はい! それならばお任せ下さい!」

 魔力ポーションはそれなりに値が張るうえに、薬師に作製を依頼するにしても、その素材を集める時点で骨が折れるものだ。
 豊富に魔力を含んだ薬草を数種類用意せねばならず、それらが採れるダンジョンの攻略は、中級者以上の探索者でなければ難しい。
 一番安価な魔力ポーションですら、通常の回復ポーションの二倍の値段で取引されるようなものなのだ。
 それを惜しげも無く使わせてくれるというカノンの財力は、自らがゴールドランクである事を誇りに思うだけの実力と、そこに至るまでの努力を重ねているからこそ得られたもの。
 カノンは敵が再度動き始めるよりも先に素早くエルの側に近付いて、彼女の腰に付けられたポーチに小瓶を三本突っ込んだ。

「ひとまず中級魔力ポーションを三本渡しておくわ。好きなように使いなさい! それからザイン、アナタの矢も魔力で精製してるものでしょう。アナタの分も渡した方が良いかしら?」
「俺は大丈夫! それより……っと!」

 会話の最中も、魔物達はこちらに殺気を向けて攻撃を仕掛けて来る。
 ザイン目掛けて放たれたのは、魔弾の発動準備を完了させた地底蛇達の口から飛び出す魔力球。
 大地の底にて物質化した地脈──星そのものに流れる魔力が魔石を生み出し、それを喰らう事で地底蛇は自らの魔力に変換する。
 魔石はその土地によって様々な属性に変化し、大地に存在するダンジョンであれば、地脈の影響も多少は受ける。
 特にこの『カピア洞窟』ではその『洞窟』という性質から、魔石や鉱石が多く出現する。となれば、それだけこのダンジョンに潜む地底蛇の魔力は潤沢となり、当然ながら魔弾の威力もアップする。
 クパッと開かれた子蛇達の顎から、人の頭部ほどあるサイズの魔力弾がザイン達を目掛けて発射され──けれどもその全てが、正確に放たれるザインの風の矢とぶつかり合った。
 前後左右から飛んで来た計五発の魔力弾は、ザインの魔力の矢によって空中で弾け飛び、風と共に霧散していく。

「俺は地底蛇の魔法の球をどうにかするから、エルにゴーレムの対処を任せて大丈夫かな? 魔力ポーションは俺も下級だけど少しは持ってるから、ゴーレムを殲滅するまでは耐えられるはずだよ!」
「分かったわ。それじゃあフィル! ワタシとアナタとで、エルの詠唱が終わるまでゴーレムを引き付けるわよ! 結局ここまで付いて来たんだもの。やり通す覚悟はあるのよね?」
「……っ、はい!」

 力一杯答えたフィルの声に、カノンは不敵に笑って前を見据えた。

「フフッ、良い返事だわ。……さあ皆、四人全員でここを切り抜けるわよ!」
「おう!」
「ええ……!」
「はいっ!」

 カノンの掛け声を合図に、四人それぞれが自分の役割を果たすべく動き出す。
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