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四章
50話
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αとΩは番になる。
耳が痛くなる程に繰り返し言われ続けてきたが、昔のエンティーには何も響かず、希望を見出せるものではなかった。なんとか生き延び18歳になっても、どこかの貴族か平民のαに引き合わされ、そこで潰えるのが目に見えていたからだ。
病棟行きが先か。使い捨てられるのが先か。動けなくなるのが先か。
自殺した方が良いと思えるような人生が待っている。まともに人として扱ってくれるのなら、番の相手なんて誰だって良い。そう思い、同僚のβ達やリュクと共に仕事を勤しんでいた。
シャングアの傍にいるうちに少しずつ見方が変わり、もしも番が彼であったならと淡い想いを抱く様になっていった。
「ご、ごご、ごめん! 今の言葉は、無しにして! 本当に…………」
エンティーは顔を真っ赤にして、大慌てで謝罪をする。
「エンティー。僕は」
「それ以上は言わないで!!」
シャングアの手を振り払い、エンティーは彼の口を塞ぐ。
「君は優しいから俺がそう言ったら、そのまま受け入れてしまいそうで……強制したくないし、俺は充分に貰っているから……それ以上の負担は良くないから、えと……だから……」
顔を赤くしながらも、どうしたら良いのか分からず、切羽詰まった表情でエンティーは言う。
シャングアは口元を塞ぐエンティーの手を優しく下げる。今度は振り払われない様に、エンティーの手を包むように握った。驚いたエンティーだが、先程の行為を申し訳ないと思い抵抗はしなかった。
「エンティー」
この期を逃してはいけないと、シャングアは意を決した様子でエンティーに声を掛ける。
「誓約の時、想いは縛らないって言ったよね」
「……うん」
エンティーは弱々しく頷く。
「僕が誓約したのは、エンティーが幸せになってくれれば良いと思っていたからで……その、正直な所、下心があったんだ」
「下心?」
シャングアはその問いかけに、頬を赤くしながら頷いた。
「……あわよくば、エンティーは僕の事を好きになってほしいと思っていたんだ」
羞恥心を覚えながらも、シャングアは勇気を振り絞って行った。
シャングアがエンティーを意識し始めたのは、出会ってから一年が過ぎようとしていた頃だった。
恋愛とは複雑であり、それが友人からの関係の変化となれば、さらに入り組み絡み合う。
友人として仲良くしていたが、いざ恋愛となると拒絶されて苦労した、なんて話を皇族の集まりの際に酔った従姉から永延と聞かされていたシャングアは、エンティーとの距離感を慎重に見ていた。
「え、えと……それは、その……」
エンティーは戸惑い、思わず下を向いてしまう。
「君が僕の番になってくれたら、良いなって……でも、一方的な想いや行動は暴力に繋がってしまうし、ずっと見て見ぬふりをしてきた僕なんか相手にしてもらえるか分からなくて……せめて、僕の事をもっと近くで見てもらって判断をしてもらおうと考えたんだ」
意識し始めたきっかけは、エンティーの笑顔が無理をしていると気づいた時だった。
輝かしい父や兄弟、親戚とは違い、何かに怯えに影を落とす作られた笑顔。
この人が心から笑った時、どんな顔をするのか無性に見たくなった。出来る事ならば、その笑顔をこちらに向けて欲しいと願った。
その笑顔ならば、きっと光を見せてくれる。心に開いた穴を満たしてくれる。そんな予感を胸に抱きながら、エンティーと共に過ごすうちに、シャングアは彼に惹かれて行った。
「本当は、誓約についてちゃんと話をして、君から了承を得てからと思っていたんだけれど、あんな姿を目にしたら、いてもたってもいられなくて……」
泥だらけのエンティーの姿を見て、頭に血が上るような思いであり、一刻も早く内殻から離さなければと体が動いた。感情が溢れ出し、霧が一気に晴れるようだった。急な出来事に周りからとやかく言われ、一か月半エンティーと離れても、意思は色褪せる事が無かった。
「シャングアは、俺なんかで良いの?」
「俺なんか、なんて言わないでよ。僕はずっと君が好きなんだから」
「う、うん」
お互いに顔を赤らめながら、どこかたどたどしく会話を進めて行く。
「俺……誓約者で、Ωだから、シャングアは優しくしてくれていると思っていた」
「僕はエンティーに優しくしたいから、そうしているんだよ。第二の性は、関係ない」
「……本当に?」
「うん」
エンティーは少しの迷った様子を見せる。
「それだったら……もう一度、抱きしめて欲しいな」
はにかむように笑顔を浮かべながらエンティーは、シャングアにおねだりをする。
「もちろん」
シャングアは手を広げ、エンティーを愛おしそうに抱きしめる。
耳が痛くなる程に繰り返し言われ続けてきたが、昔のエンティーには何も響かず、希望を見出せるものではなかった。なんとか生き延び18歳になっても、どこかの貴族か平民のαに引き合わされ、そこで潰えるのが目に見えていたからだ。
病棟行きが先か。使い捨てられるのが先か。動けなくなるのが先か。
自殺した方が良いと思えるような人生が待っている。まともに人として扱ってくれるのなら、番の相手なんて誰だって良い。そう思い、同僚のβ達やリュクと共に仕事を勤しんでいた。
シャングアの傍にいるうちに少しずつ見方が変わり、もしも番が彼であったならと淡い想いを抱く様になっていった。
「ご、ごご、ごめん! 今の言葉は、無しにして! 本当に…………」
エンティーは顔を真っ赤にして、大慌てで謝罪をする。
「エンティー。僕は」
「それ以上は言わないで!!」
シャングアの手を振り払い、エンティーは彼の口を塞ぐ。
「君は優しいから俺がそう言ったら、そのまま受け入れてしまいそうで……強制したくないし、俺は充分に貰っているから……それ以上の負担は良くないから、えと……だから……」
顔を赤くしながらも、どうしたら良いのか分からず、切羽詰まった表情でエンティーは言う。
シャングアは口元を塞ぐエンティーの手を優しく下げる。今度は振り払われない様に、エンティーの手を包むように握った。驚いたエンティーだが、先程の行為を申し訳ないと思い抵抗はしなかった。
「エンティー」
この期を逃してはいけないと、シャングアは意を決した様子でエンティーに声を掛ける。
「誓約の時、想いは縛らないって言ったよね」
「……うん」
エンティーは弱々しく頷く。
「僕が誓約したのは、エンティーが幸せになってくれれば良いと思っていたからで……その、正直な所、下心があったんだ」
「下心?」
シャングアはその問いかけに、頬を赤くしながら頷いた。
「……あわよくば、エンティーは僕の事を好きになってほしいと思っていたんだ」
羞恥心を覚えながらも、シャングアは勇気を振り絞って行った。
シャングアがエンティーを意識し始めたのは、出会ってから一年が過ぎようとしていた頃だった。
恋愛とは複雑であり、それが友人からの関係の変化となれば、さらに入り組み絡み合う。
友人として仲良くしていたが、いざ恋愛となると拒絶されて苦労した、なんて話を皇族の集まりの際に酔った従姉から永延と聞かされていたシャングアは、エンティーとの距離感を慎重に見ていた。
「え、えと……それは、その……」
エンティーは戸惑い、思わず下を向いてしまう。
「君が僕の番になってくれたら、良いなって……でも、一方的な想いや行動は暴力に繋がってしまうし、ずっと見て見ぬふりをしてきた僕なんか相手にしてもらえるか分からなくて……せめて、僕の事をもっと近くで見てもらって判断をしてもらおうと考えたんだ」
意識し始めたきっかけは、エンティーの笑顔が無理をしていると気づいた時だった。
輝かしい父や兄弟、親戚とは違い、何かに怯えに影を落とす作られた笑顔。
この人が心から笑った時、どんな顔をするのか無性に見たくなった。出来る事ならば、その笑顔をこちらに向けて欲しいと願った。
その笑顔ならば、きっと光を見せてくれる。心に開いた穴を満たしてくれる。そんな予感を胸に抱きながら、エンティーと共に過ごすうちに、シャングアは彼に惹かれて行った。
「本当は、誓約についてちゃんと話をして、君から了承を得てからと思っていたんだけれど、あんな姿を目にしたら、いてもたってもいられなくて……」
泥だらけのエンティーの姿を見て、頭に血が上るような思いであり、一刻も早く内殻から離さなければと体が動いた。感情が溢れ出し、霧が一気に晴れるようだった。急な出来事に周りからとやかく言われ、一か月半エンティーと離れても、意思は色褪せる事が無かった。
「シャングアは、俺なんかで良いの?」
「俺なんか、なんて言わないでよ。僕はずっと君が好きなんだから」
「う、うん」
お互いに顔を赤らめながら、どこかたどたどしく会話を進めて行く。
「俺……誓約者で、Ωだから、シャングアは優しくしてくれていると思っていた」
「僕はエンティーに優しくしたいから、そうしているんだよ。第二の性は、関係ない」
「……本当に?」
「うん」
エンティーは少しの迷った様子を見せる。
「それだったら……もう一度、抱きしめて欲しいな」
はにかむように笑顔を浮かべながらエンティーは、シャングアにおねだりをする。
「もちろん」
シャングアは手を広げ、エンティーを愛おしそうに抱きしめる。
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