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六章
65話
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最深部へと辿り着いた2人。
イルディナータ達は光の拘束具で捕らえられ横たわり、砕け散った結晶の傍らに白衣の医療団の男性と竜がいた。竜はどこか懐かしそうに、男性を見ている。
「久しぶりですね。エンティーさん」
「お、お久しぶりです。あの……あなたは、何者ですか?」
エンティーの問いに対し、男は顔を覆っていた布を取り外す。
光の加減によって虹色に輝く白い鱗に覆われた整った顔。切れ長の紺色の瞳は蛇に似た細長い瞳孔を持ち、額には第三の目の様に縁取りがされた青い宝玉が埋め込まれている。艶やかな白銀の髪は三つ編みに束ねられ、植物の葉を模した金の髪飾りで結ばれている。
ラニャとミースアよりも竜に近いその容姿。男性は目を細めながら微笑む。
「名をエンディリアム。白呪の民の長をしております」
「なっ!? 神の名を語るとは何ごとだ!!」
2人よりも早く、イルディナータが反応を示す。
エンディリアム。神殿で崇拝されている医療神の名前だ。あやかり名として使用される事もあるが、それは皇族や第二の位を持つ貴族しか許されない。全くの部外者が使っているとイルディナータは怒りを示したようだ。
「そう言われましても、私は母より1531年前にこの名を授かりましたので、叱られる筋合いはありません」
エンディリアムは呆れた様子で言い、イルディナータを見下げる。
「今回の事件には、私は間接的に関りがあります。そして、それを根絶するために動くことを決めました」
「事件? 根絶? 何を言っている。私はこの神殿の為、神に近づくために子供達を」
「精神崩壊を招く人体実験をしておいて、善を語るとは何事ですか……ルエンカーナが望んだ未来は、犠牲の山の上にはありません」
エンディリアムはそう言うと、白い手袋を外し、指を使いパチンと大きな音を鳴らす。
その瞬間、イルディナータの護衛4人の宝玉から黒い光が現れ、消滅した。4人は最初こそ苦痛の声を上げたが、すぐに我に返った様子で周囲を見渡している。まるで初めてここを訪れたと言わんばかりに驚きの表情を浮かべている。
「洗脳したところで、城の支配はできませんよ。そうでしょう? 皇太子殿」
階段を下りてくるセンテルシュアーデとトゥルーザ、そして黒い面をした暗部の者達。エンディリアムは彼らに微笑む。
「センテル兄さん」
「すまないね」
シャングアに対し、センテルシュアーデは申し訳なさそうに言う。
「……命に関わる危険が無い限り、見守っていたよね」
一部の蟻は地下一階に待機させていた。暗部と思われる人がこちらの様子を伺い、待機していたのをシャングアは知っている。
「あぁ、やっぱりバレていたか。君の奇蹟はやっぱり、曲者だなぁ」
その答えにシャングアはため息を着きつつ、イルディナータを見る。
「センテル兄さんは、この人の行動を……今回の事件の全貌を、どこまで知っているの」
「前に言ったように9年前から調べたさ。でも、そうだね……きっかけを掴んだ以降は徹底的に、根元まで調べ上げ、そして舞台を作り上げたよ」
センテルシュアーデは横たわるイルディナータへと近づき、見下げる。
「やぁ、お父様。はじめまして」
静かに、にっこりと、笑顔を浮かべた彼の瞳は一切の感情が浮かび上がっては来ない。
怒り。悲しみ。憎悪。失望。感情はいくらでも並べられる筈が、まるで凪の海の様に反射する光しか湛えてはいない。
「な、何を言い出す。私が父だと!? いい加減な事を言うな!」
イルディナータは目を丸くし、センテルシュアーデを見上げる。
逆光により影に沈んだ彼の顔は、作り上げた笑みよりも、強くその眼を強調させる。
まるで世界を見下ろす神の様に果てなく、見通しているようだ。
「先程まで、自慢げに秘薬の話をしていたじゃないか。貴方は、薬の研究者のβであった女性に対し手を出した。そして、利用した挙句に捨てた。妊娠をしたから」
αと女性のβ。両者の間に子が出来る確率は充分にある。研究者の女性とイルディナータは不倫関係にあった。彼は彼女の能力を利用していたが、妊娠が判明し、それが明るみになれば地位が揺らぐとして捨てたのだ。
「彼女は深く傷つき、自殺の為にその薬を大量に飲んだ……聖皇陛下が見つけた時には、その強すぎる薬効に耐えきれず死んでしまっていた」
「そ、それが本当であるなら、貴様はなぜ生きている」
イルディナータは心当たりがあると言うように冷や汗をかき、顔色が悪くなっていく。
「おや? 忘れたのかい? 貴方が言う神に近づいた子供が私なんだよ」
センテルシュアーデは右手を胸に当てる。
「未熟児にも満たない筈の私は、卵の中にいたそうだ。子宮から取り出された卵は温められ、時が経ち割れ、そして誕生した。良かったね。顔はどちらにも似ず、だが人間の姿をした存在が生まれた」
イルディナータは何かを言おうとしたが、暗部の者達によって無理やり立たされ、階段へと引き摺られて行く。
「待て! 本当に神に近いならば、その力は現在の聖徒を凌駕するはず! 貴様はどうして、何も持ってはいないんだ!!」
「持っているよ。貴方の一族が編み出した洗脳の奇蹟は、とても役に立った。皇権に踊らされた君達は、実に愉快だった」
何か言葉に成らない叫び声をあげるイルディナータをセンテルシュアーデは無視し、シャングア達を見る。
「騒がしくてすまないね」
「言いたい事が山の様にあるよ」
衝撃的な事実の連続に、シャングアは頭痛がするようだった。
イルディナータ達は光の拘束具で捕らえられ横たわり、砕け散った結晶の傍らに白衣の医療団の男性と竜がいた。竜はどこか懐かしそうに、男性を見ている。
「久しぶりですね。エンティーさん」
「お、お久しぶりです。あの……あなたは、何者ですか?」
エンティーの問いに対し、男は顔を覆っていた布を取り外す。
光の加減によって虹色に輝く白い鱗に覆われた整った顔。切れ長の紺色の瞳は蛇に似た細長い瞳孔を持ち、額には第三の目の様に縁取りがされた青い宝玉が埋め込まれている。艶やかな白銀の髪は三つ編みに束ねられ、植物の葉を模した金の髪飾りで結ばれている。
ラニャとミースアよりも竜に近いその容姿。男性は目を細めながら微笑む。
「名をエンディリアム。白呪の民の長をしております」
「なっ!? 神の名を語るとは何ごとだ!!」
2人よりも早く、イルディナータが反応を示す。
エンディリアム。神殿で崇拝されている医療神の名前だ。あやかり名として使用される事もあるが、それは皇族や第二の位を持つ貴族しか許されない。全くの部外者が使っているとイルディナータは怒りを示したようだ。
「そう言われましても、私は母より1531年前にこの名を授かりましたので、叱られる筋合いはありません」
エンディリアムは呆れた様子で言い、イルディナータを見下げる。
「今回の事件には、私は間接的に関りがあります。そして、それを根絶するために動くことを決めました」
「事件? 根絶? 何を言っている。私はこの神殿の為、神に近づくために子供達を」
「精神崩壊を招く人体実験をしておいて、善を語るとは何事ですか……ルエンカーナが望んだ未来は、犠牲の山の上にはありません」
エンディリアムはそう言うと、白い手袋を外し、指を使いパチンと大きな音を鳴らす。
その瞬間、イルディナータの護衛4人の宝玉から黒い光が現れ、消滅した。4人は最初こそ苦痛の声を上げたが、すぐに我に返った様子で周囲を見渡している。まるで初めてここを訪れたと言わんばかりに驚きの表情を浮かべている。
「洗脳したところで、城の支配はできませんよ。そうでしょう? 皇太子殿」
階段を下りてくるセンテルシュアーデとトゥルーザ、そして黒い面をした暗部の者達。エンディリアムは彼らに微笑む。
「センテル兄さん」
「すまないね」
シャングアに対し、センテルシュアーデは申し訳なさそうに言う。
「……命に関わる危険が無い限り、見守っていたよね」
一部の蟻は地下一階に待機させていた。暗部と思われる人がこちらの様子を伺い、待機していたのをシャングアは知っている。
「あぁ、やっぱりバレていたか。君の奇蹟はやっぱり、曲者だなぁ」
その答えにシャングアはため息を着きつつ、イルディナータを見る。
「センテル兄さんは、この人の行動を……今回の事件の全貌を、どこまで知っているの」
「前に言ったように9年前から調べたさ。でも、そうだね……きっかけを掴んだ以降は徹底的に、根元まで調べ上げ、そして舞台を作り上げたよ」
センテルシュアーデは横たわるイルディナータへと近づき、見下げる。
「やぁ、お父様。はじめまして」
静かに、にっこりと、笑顔を浮かべた彼の瞳は一切の感情が浮かび上がっては来ない。
怒り。悲しみ。憎悪。失望。感情はいくらでも並べられる筈が、まるで凪の海の様に反射する光しか湛えてはいない。
「な、何を言い出す。私が父だと!? いい加減な事を言うな!」
イルディナータは目を丸くし、センテルシュアーデを見上げる。
逆光により影に沈んだ彼の顔は、作り上げた笑みよりも、強くその眼を強調させる。
まるで世界を見下ろす神の様に果てなく、見通しているようだ。
「先程まで、自慢げに秘薬の話をしていたじゃないか。貴方は、薬の研究者のβであった女性に対し手を出した。そして、利用した挙句に捨てた。妊娠をしたから」
αと女性のβ。両者の間に子が出来る確率は充分にある。研究者の女性とイルディナータは不倫関係にあった。彼は彼女の能力を利用していたが、妊娠が判明し、それが明るみになれば地位が揺らぐとして捨てたのだ。
「彼女は深く傷つき、自殺の為にその薬を大量に飲んだ……聖皇陛下が見つけた時には、その強すぎる薬効に耐えきれず死んでしまっていた」
「そ、それが本当であるなら、貴様はなぜ生きている」
イルディナータは心当たりがあると言うように冷や汗をかき、顔色が悪くなっていく。
「おや? 忘れたのかい? 貴方が言う神に近づいた子供が私なんだよ」
センテルシュアーデは右手を胸に当てる。
「未熟児にも満たない筈の私は、卵の中にいたそうだ。子宮から取り出された卵は温められ、時が経ち割れ、そして誕生した。良かったね。顔はどちらにも似ず、だが人間の姿をした存在が生まれた」
イルディナータは何かを言おうとしたが、暗部の者達によって無理やり立たされ、階段へと引き摺られて行く。
「待て! 本当に神に近いならば、その力は現在の聖徒を凌駕するはず! 貴様はどうして、何も持ってはいないんだ!!」
「持っているよ。貴方の一族が編み出した洗脳の奇蹟は、とても役に立った。皇権に踊らされた君達は、実に愉快だった」
何か言葉に成らない叫び声をあげるイルディナータをセンテルシュアーデは無視し、シャングア達を見る。
「騒がしくてすまないね」
「言いたい事が山の様にあるよ」
衝撃的な事実の連続に、シャングアは頭痛がするようだった。
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