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6話 服屋の裏方へ
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「あと1か月半で聖誕祭だ。この店も、飾りを付けてみてはどうだ?」
売られている服は季節ごとに変えられているが、飾りつけはされていない。通りの道から見えるように小物の1つ2つ置くだけでも、印象ががらりと変わるだろう。
自分が監視対象であると理解しているアリュスは、ネフィリアードと一緒でない限り自宅兼店舗から出ることは無い。けれど、服の材料を店に卸してくれている業者なら、季節の飾り物も売ってくれるはずだ。
「ネフィアードの花があるから、このままで良いよ」
アリュスはあっさりと言うと、リボンを丁寧に巻き取る。包装紙は水で濡れて皺になってしまった部分はハサミで切り取り、綺麗に折り畳んで行く。
「そうか?」
「うん」
「責任重大だな」
そう言いながらネフィリアードはアリュスの作業を見守る。
アリュスは花束を貰うと、記念としてリボンや包装紙をスクラップブックに貼って残している。日記帳であり、アリュスが自己を形成する上で重要な役割を担っている。
「お茶飲む?」
「あぁ、頂こう」
「店閉めるから、中に入っていて」
アリュスはズボンの右ポケットから、店の出入り口扉の鍵を出す。
閉店作業を始めたアリュスを横目に、ネフィリアードは店の奥である作業場へと足を踏み入れた。入って右手の壁には、一面に糸やボタン、ビーズなどが収納された小さな引き出が一面並ぶ。反対の左手の棚には、筒状に丸められた様々な布地が種類ごと整理整頓されている。中央の大きな作業台の上には、黒いベルベット調の布と型紙らしき白い紙、古いレシピ本が置かれている。手入れの行き届いた足漕ぎミシンの横に置かれたハンガーラックには新作の冬服が4着掛けられていたが、男性用と女性用のマネキンにはまだ何も飾られてはいない。
ネフィリアードは見慣れた作業場を後にすると、さらに奥の部屋である台所へと辿り着いた。
テーブルと二脚の椅子。竈に料理用の作業台、フライパンや鍋など一般的な家庭の台所であるが、全く使われていないか新品同然に綺麗だ。ただし、ボードに乗ったランブルポットやティーポット、カップ二個のみは頻繁に使われているのか、食卓カバーがされた状態でテーブルの上に置かれている。
「椅子に座っていて」
追いついて来たアリュスの言葉に甘えて、ネフィリアードは大人しく椅子に座る。
魔女達の使っている平均的な椅子の高さでは、彼の長い足が余ってしまう。しかし、椅子もテーブルも彼に合わせて設計されている。アリュスが店を始めるのを機にネフィリアードは買い替えようとしたが、〈そのままで良い〉と断られてしまった。
その代わりにアリュス用には、座りやすいようにステップとしても使える足置きが付けられた椅子を改めて用意をした。
「昨日常連さんから貰ったお菓子とジャム」
ボードをキッチンの作業台へ移動させたアリュスは、戸棚から焼菓子の入った紙袋と赤いジャムの入った瓶を取り出し、テーブルに置いた。
「お子さんが聖誕祭に向けて練習中だそうで、自分達じゃ消費しきれないからって、くれたんだ」
紙袋に入っているのは、素朴なカップケーキだ。
〈練習〉と称する通り4個のカップケーキには、焼きむらや膨らみ過ぎによる大きな割れがあり、贈り物としては見た目が悪い。
「味については問題ないって。そのハートローズジャムを付けると美味しいってさ」
そう言いながらアリュスは、魔術を使って水を生み出すとランブルポットへと注ぎ入れ、竈に火を付けた。手馴れた手つきで戸棚から紅茶の茶葉が入った缶を取り出し、お茶の用意を進める。
「食べないのか?」
ジャムの瓶の蓋は圧が掛かったままで、開けられた痕跡がない。
生きる屍と言えるアリュスには、臓器が無い。歯は何とか残っていたが、魔女の国での生活の中で全て抜け落ちてしまった。
アリュスには味覚どころか空腹を感じる機能は遠の昔に喪失している。
ネフィリアードも理解しているが、食は生物である為に必要不可欠なものだ。
「食べようとは思ったけど、ネフィアードが来るまで待ってた」
「どうして?」
ランブルポットの中の水がお湯になるまで、時間がかかる。アリュスは食器から皿を二枚、引き出しからジャムスプーンとバターナイフ二本を取り出すとテーブルに置いた。
売られている服は季節ごとに変えられているが、飾りつけはされていない。通りの道から見えるように小物の1つ2つ置くだけでも、印象ががらりと変わるだろう。
自分が監視対象であると理解しているアリュスは、ネフィリアードと一緒でない限り自宅兼店舗から出ることは無い。けれど、服の材料を店に卸してくれている業者なら、季節の飾り物も売ってくれるはずだ。
「ネフィアードの花があるから、このままで良いよ」
アリュスはあっさりと言うと、リボンを丁寧に巻き取る。包装紙は水で濡れて皺になってしまった部分はハサミで切り取り、綺麗に折り畳んで行く。
「そうか?」
「うん」
「責任重大だな」
そう言いながらネフィリアードはアリュスの作業を見守る。
アリュスは花束を貰うと、記念としてリボンや包装紙をスクラップブックに貼って残している。日記帳であり、アリュスが自己を形成する上で重要な役割を担っている。
「お茶飲む?」
「あぁ、頂こう」
「店閉めるから、中に入っていて」
アリュスはズボンの右ポケットから、店の出入り口扉の鍵を出す。
閉店作業を始めたアリュスを横目に、ネフィリアードは店の奥である作業場へと足を踏み入れた。入って右手の壁には、一面に糸やボタン、ビーズなどが収納された小さな引き出が一面並ぶ。反対の左手の棚には、筒状に丸められた様々な布地が種類ごと整理整頓されている。中央の大きな作業台の上には、黒いベルベット調の布と型紙らしき白い紙、古いレシピ本が置かれている。手入れの行き届いた足漕ぎミシンの横に置かれたハンガーラックには新作の冬服が4着掛けられていたが、男性用と女性用のマネキンにはまだ何も飾られてはいない。
ネフィリアードは見慣れた作業場を後にすると、さらに奥の部屋である台所へと辿り着いた。
テーブルと二脚の椅子。竈に料理用の作業台、フライパンや鍋など一般的な家庭の台所であるが、全く使われていないか新品同然に綺麗だ。ただし、ボードに乗ったランブルポットやティーポット、カップ二個のみは頻繁に使われているのか、食卓カバーがされた状態でテーブルの上に置かれている。
「椅子に座っていて」
追いついて来たアリュスの言葉に甘えて、ネフィリアードは大人しく椅子に座る。
魔女達の使っている平均的な椅子の高さでは、彼の長い足が余ってしまう。しかし、椅子もテーブルも彼に合わせて設計されている。アリュスが店を始めるのを機にネフィリアードは買い替えようとしたが、〈そのままで良い〉と断られてしまった。
その代わりにアリュス用には、座りやすいようにステップとしても使える足置きが付けられた椅子を改めて用意をした。
「昨日常連さんから貰ったお菓子とジャム」
ボードをキッチンの作業台へ移動させたアリュスは、戸棚から焼菓子の入った紙袋と赤いジャムの入った瓶を取り出し、テーブルに置いた。
「お子さんが聖誕祭に向けて練習中だそうで、自分達じゃ消費しきれないからって、くれたんだ」
紙袋に入っているのは、素朴なカップケーキだ。
〈練習〉と称する通り4個のカップケーキには、焼きむらや膨らみ過ぎによる大きな割れがあり、贈り物としては見た目が悪い。
「味については問題ないって。そのハートローズジャムを付けると美味しいってさ」
そう言いながらアリュスは、魔術を使って水を生み出すとランブルポットへと注ぎ入れ、竈に火を付けた。手馴れた手つきで戸棚から紅茶の茶葉が入った缶を取り出し、お茶の用意を進める。
「食べないのか?」
ジャムの瓶の蓋は圧が掛かったままで、開けられた痕跡がない。
生きる屍と言えるアリュスには、臓器が無い。歯は何とか残っていたが、魔女の国での生活の中で全て抜け落ちてしまった。
アリュスには味覚どころか空腹を感じる機能は遠の昔に喪失している。
ネフィリアードも理解しているが、食は生物である為に必要不可欠なものだ。
「食べようとは思ったけど、ネフィアードが来るまで待ってた」
「どうして?」
ランブルポットの中の水がお湯になるまで、時間がかかる。アリュスは食器から皿を二枚、引き出しからジャムスプーンとバターナイフ二本を取り出すとテーブルに置いた。
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