蒼虹結晶の樹の元で2人は契を交わす

片海 鏡

文字の大きさ
6 / 39

6話 服屋の裏方へ

しおりを挟む
「あと1か月半で聖誕祭だ。この店も、飾りを付けてみてはどうだ?」

 売られている服は季節ごとに変えられているが、飾りつけはされていない。通りの道から見えるように小物の1つ2つ置くだけでも、印象ががらりと変わるだろう。
 自分が監視対象であると理解しているアリュスは、ネフィリアードと一緒でない限り自宅兼店舗から出ることは無い。けれど、服の材料を店に卸してくれている業者なら、季節の飾り物も売ってくれるはずだ。

「ネフィアードの花があるから、このままで良いよ」

 アリュスはあっさりと言うと、リボンを丁寧に巻き取る。包装紙は水で濡れて皺になってしまった部分はハサミで切り取り、綺麗に折り畳んで行く。

「そうか?」
「うん」
「責任重大だな」

 そう言いながらネフィリアードはアリュスの作業を見守る。
 アリュスは花束を貰うと、記念としてリボンや包装紙をスクラップブックに貼って残している。日記帳であり、アリュスが自己を形成する上で重要な役割を担っている。

「お茶飲む?」
「あぁ、頂こう」
「店閉めるから、中に入っていて」

 アリュスはズボンの右ポケットから、店の出入り口扉の鍵を出す。
 閉店作業を始めたアリュスを横目に、ネフィリアードは店の奥である作業場へと足を踏み入れた。入って右手の壁には、一面に糸やボタン、ビーズなどが収納された小さな引き出が一面並ぶ。反対の左手の棚には、筒状に丸められた様々な布地が種類ごと整理整頓されている。中央の大きな作業台の上には、黒いベルベット調の布と型紙らしき白い紙、古いレシピ本が置かれている。手入れの行き届いた足漕ぎミシンの横に置かれたハンガーラックには新作の冬服が4着掛けられていたが、男性用と女性用のマネキンにはまだ何も飾られてはいない。
 ネフィリアードは見慣れた作業場を後にすると、さらに奥の部屋である台所へと辿り着いた。
 テーブルと二脚の椅子。竈に料理用の作業台、フライパンや鍋など一般的な家庭の台所であるが、全く使われていないか新品同然に綺麗だ。ただし、ボードに乗ったランブルポットやティーポット、カップ二個のみは頻繁に使われているのか、食卓カバーがされた状態でテーブルの上に置かれている。

「椅子に座っていて」

 追いついて来たアリュスの言葉に甘えて、ネフィリアードは大人しく椅子に座る。
 魔女達の使っている平均的な椅子の高さでは、彼の長い足が余ってしまう。しかし、椅子もテーブルも彼に合わせて設計されている。アリュスが店を始めるのを機にネフィリアードは買い替えようとしたが、〈そのままで良い〉と断られてしまった。
 その代わりにアリュス用には、座りやすいようにステップとしても使える足置きが付けられた椅子を改めて用意をした。

「昨日常連さんから貰ったお菓子とジャム」

 ボードをキッチンの作業台へ移動させたアリュスは、戸棚から焼菓子の入った紙袋と赤いジャムの入った瓶を取り出し、テーブルに置いた。

「お子さんが聖誕祭に向けて練習中だそうで、自分達じゃ消費しきれないからって、くれたんだ」

 紙袋に入っているのは、素朴なカップケーキだ。
〈練習〉と称する通り4個のカップケーキには、焼きむらや膨らみ過ぎによる大きな割れがあり、贈り物としては見た目が悪い。

「味については問題ないって。そのハートローズジャムを付けると美味しいってさ」

 そう言いながらアリュスは、魔術を使って水を生み出すとランブルポットへと注ぎ入れ、竈に火を付けた。手馴れた手つきで戸棚から紅茶の茶葉が入った缶を取り出し、お茶の用意を進める。

「食べないのか?」

 ジャムの瓶の蓋は圧が掛かったままで、開けられた痕跡がない。
 生きる屍と言えるアリュスには、臓器が無い。歯は何とか残っていたが、魔女の国での生活の中で全て抜け落ちてしまった。
 アリュスには味覚どころか空腹を感じる機能は遠の昔に喪失している。
 ネフィリアードも理解しているが、食は生物である為に必要不可欠なものだ。

「食べようとは思ったけど、ネフィアードが来るまで待ってた」
「どうして?」

 ランブルポットの中の水がお湯になるまで、時間がかかる。アリュスは食器から皿を二枚、引き出しからジャムスプーンとバターナイフ二本を取り出すとテーブルに置いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

パブリック・スクール─薔薇の階級と精の儀式─

不来方しい
BL
 教団が営むパブリックスクール・シンヴォーレ学園。孤島にある学園は白い塀で囲まれ、外部からは一切の情報が遮断された世界となっていた。  親元から離された子供は強制的に宗教団の一員とされ、それ相応の教育が施される。  十八歳になる頃、学園では神のお告げを聞く役割である神の御子を決める儀式が行われる。必ずなれるわけでもなく、適正のある生徒が選ばれると予備生として特別な授業と儀式を受けることになり、残念ながらクリスも選ばれてしまった。  神を崇める教団というのは真っ赤な嘘で、予備生に選ばれてしまったクリスは毎月淫猥な儀式に参加しなければならず、すべてを知ったクリスは裏切られた気持ちで絶望の淵に立たされた。  今年から新しく学園へ配属されたリチャードは、クリスの学年の監督官となる。横暴で無愛想、教団の犬かと思いきや、教団の魔の手からなにかとクリスを守ろうする。教団に対する裏切り行為は極刑に値するが、なぜかリチャードは協定を組もうと話を持ちかけてきた。疑問に思うクリスだが、どうしても味方が必要性あるクリスとしては、どんな見返りを求められても承諾するしかなかった。  ナイトとなったリチャードに、クリスは次第に惹かれていき……。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

処理中です...