蒼虹結晶の樹の元で2人は契を交わす

片海 鏡

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8話 鎖国状態

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「きみの場合はどうだった?」

 沸騰したのを確認したアリュスは、紅茶の茶葉が入ったティーポットへとお湯を注ぎ入れる。

「似たようなものだ。周りはコルエとミランジュ、お姉様方しかいなかったから、最初はよく分からなかった。勉強するうちに、肉体が男だから男と受け入れた」

 ネフィリアードは、学生時代に性に関する授業を受けた。とは言っても、魔女側も手探りの状況で、一緒に学んだと言った方が正しかった。
 魔女の国ロズマキナ。女しかいない国。
 その理由は、彼女達が妖精に近しい種族だからだ。
 国の中心に聳える城の奥地には聖域があり、そこに〈虹の薔薇〉と呼ばれる大樹が根を伸ばしている。
 その大樹に咲く花の中から、魔女は生まれるのだ。
 なぜ女性のみを生むのか。〈過酷な環境で生きる中で虹の薔薇は両方を生み出すのが困難になり、結果女性のみになった〉と言う説を唱えられているが、確たる証拠が発見されていない。謎に包まれたままだ。
 少なくとも400年以上前からそうであり、彼女達にとって〈性別〉の概念は〈女〉しかなく、人間などの哺乳類とは逸脱しているのだ。
 ネフィリアードを育てるにあたって、男について情報を仕入れるために女王の部下が僅かに外国とのやりとりを始めた。〈彼のせいで帝国を呼び寄せてしまった〉と囁く魔女もいるが〈彼がいなくても、遅かれ早かれ戦は始まっていた〉と現役を引退した魔法騎士達は苦笑している。

「男について知っておいた方がいい?」
「外国の人向けの商売を考えるなら、良いと思うぞ」
「いつできるか分からないけど……あっ、先見の明ってやつかぁ」

 アリュスは納得した様子で、ティーポットとカップの乗ったボードをテーブルへと運んだ。
 現段階では、魔女の国は開国していない。貿易を担う碧翼の団と女王のみが、外国の人間達と接触するのみに留まっている。
 それは、自分達だけで経済を賄えるだけが理由ではない。戦争を通して、問題が多いと判断したからだ。
 未開の地にも等しかった極北の大陸に〈外来種〉が持ち込まれた際の悪影響がある。その外来種の枠組みの中には、動物や植物のみならず、人間も含まれている。
 未知の病気の蔓延や在来種の生息域への侵略の恐れだけが、問題ではない。
 戦時中には、制圧した拠点に暮らす魔女達に手を出そうと考え、計画を立てていた帝国の部隊がいたのだ。幸い、厳しい環境と独自の魔法によって退けられたが、捕虜の中には常に卑猥な言葉や妄想を垂れ流す愚かな者が散見された。
 一般人の枠組みにいる魔女達に〈外国の人〉〈男〉についての免疫が乏しい。
 仮に迎え入れると決定したとしても、彼女達を守るために知識と対策が必要だ。
 設備、規則、法、様々な分野で長い時間を有する為、女王は国を閉ざしている。

「今日、中央広場で騒ぎがあったらしいね」

 アリュスは、紅茶で満たされたカップをネフィリアードの前に置いた。

「まぁな。被害は治まったが、今後はその原因の調査だ」
「去年も何だかんだで、騎士達は忙しかったから、無理はしないようにね?」

 聖誕祭は王都のみならず、四方の拠点では様々な催しものが行われる。聖誕祭は冬の時期の最も大きな祭りだ。冬の薄暗さに鬱憤が貯まっている魔女達は、この日の為にやる気と気合が十分に満ちているが、中には空回りしてしまう人もいる。今回のツリーは犯人の捜査が必要だが、この時期になると似たような騒動や事件が引き起こされている。
 大きな雪だるまや雪像を最新の魔法道具で作っていたら、突然動き出した。
 光る街を作ろうと試しに一軒へ魔法をかけたら、目潰しになる位の強い光量になってしまった。
 小さな花火が飛び出るホットアップルサイダーを作ろうと魔法をかけたら、屋台が爆発した。
 などなど、他の季節にも行事はあるが聖誕祭だけ多発し、妙に規模が大きく、警備に当たる魔法騎士達の頭を悩ませている。
 ツリーの一件も、魔法騎士の皆が〈毎年恒例〉と心の何処かで思っていたほどだ。

「分かっているとも。隊長は、隊員の手本だからな。無理はしないさ」

 ネフィリアードはカップを手に取り、紅茶を飲んだ。

「美味しい」
「正確な方法で淹れてるから、当然だよ」

 キッチンの作業台には、使い込まれた様子のノートが4冊置かれている。その中には調理道具の使い方、食材の見極め方、調理の仕方など様々な内容が書き記されている。アリュスが自我を獲得し、人として生活をする為に何度も練習を重ねてきた記録だ。

「今度食材を持ってくるから、一緒に作らないか?」
「良いけど、このキッチンは、君には小さくないよ」

 前の持ち主の身長に合わせて作られている為、2m近くあるネフィリアードでは包丁で食材を切るにも、前かがみになるか膝を曲げなければならない。無理な体勢で調理を続ければ、背中や腰、ひざを痛めてしまう。

「君の家に行くわけにもいかないし、諦めよう」
「そうだな……」

 どことなく残念そうにするネフィリアードに対して、アリュスは不思議に思った。

「急にどうしたわけ?」
「料理で聖誕祭の雰囲気を味わってもらおう、と考えたんだ」

 去年のアリュスは、今以上に服作りに熱中をしていたので、行事については気にも留めていなかった。客が入り始めた今年の春先から、季節について考えるようになった。
 それでも飾りつけはする気が無いのだが、どの様な行事なのか体験する意義はあるとネフィリアードは考えた。

「雰囲気か……」

 アリュスは紅茶を口に含み、考える。

「ねぇ、俺ってネフィリアードと一緒なら外に出られる?」
「日程を決めて、上から許可を貰えれば、いけるはずだ」
「それなら、外で食事がしてみたい」

 話の流れからある程度予想が出来ていたネフィリアードは、内心喜んだ。

「君の願いを叶えられるように、上に相談してみよう。あぁ、そうだ。レストランだけじゃなく、聖誕祭マーケットに行くのも良いかもしれない」
「なにそれ?」
「聖誕祭までの一か月間、マリスベル通りで行われる大きな市場だ。聖誕祭向けのツリーの飾りや衣類、ここでしか食べられない食事を売っているんだ」

 2人は今後の予定を話し合い、ゆっくりと穏やかな時間を過ごした。
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