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30話 歓迎の舞台
しおりを挟む過去を知り、全てを曝け出し、分かち合うことが最良であるとは限らない。
それは自己満足と自己顕示欲、そして承認欲求を満たす為に、生贄を探して彷徨う亡者そのものだ。
相手に自らの過去を押し付け、満足するとは愚行そのもの。
其れが、毒となり相手を蝕むと考えもしないのか。
絵本や物語に書かれる綺麗事を真に受けてはならない。
信頼と共に築き上げた〈今〉を見ず、相手の声に耳を傾けず、天秤に重荷を乗せてはならない。
「ようこそ! アタシ達のアネモスへ!!」
フローラの高らかな声と共に、花びらが舞う。
小さな篭に盛られた花びらを手に、少女達は2人を歓迎する。列の中には、あの15人の少女もいる。
ダンスホールと言っても差支えの無い広い空間に、少女達によって一本の道が形成されている。ネフィリアード達の両脇を固める様に綺麗に整列した彼女達の先には、玉座が置かれ、その傍らに地杖を左手に握るフローラが立っている。
上質な赤い布で覆われた背面と座面、肘置きや脚等は精密な金の装飾が全面に施されている。それは、まるで絵本の中の玉座だ。
「何の真似だ。赤翼の騎士団はどうした」
杖を構えようとしたネフィリアードだが、杖は鞘から消えていた。
「ここはアタシ達の場所だから、あの恩知らず達には出て行ってもらったよ」
〈探し物はこれかな?〉とばかりに、フローラは後ろに隠していた右手を前に出す。ネフィリアードの結晶の杖が握られ、慎重に椅子の座面に置かれた。
「ギャーギャー騒いでいたけど弱かった。アタシ達の足元にも及ばなかったよね」
少女達が一斉にクスクスと笑い始める。
〈最後まで偉そうにしてた〉〈何もできないくせにね〉と口々に言うが、ネフィリアードはその動きに違和感があった。
「王都に混乱を招き、私を誘導しようとした理由は何だ?」
「貴方には、アタシ達の王様になって欲しいんだ」
突拍子もない話に、ネフィリアードは眉間にしわを寄せる。
「アタシ達はずーっとこの冬に閉ざされた大陸で暮らしている。高く積み上げた城壁と魔法の天幕で囲われた箱庭暮らすなんて、籠の中の小鳥と同じだよ。古い思想を捨てて、輝かし未来を掴むためには、国を変えないといけないとアタシ達は思うんだ」
フローラは玉座から離れ、ゆっくりとネフィリアードに歩み寄る。
帝国との戦争よりも遥か昔から、魔女達はこの国から基本的に出ることを許されていない。現在、渡航が許されているのは、女王が任命した外務省等の役職の魔女数名と護衛のみに留まっている。
「南の拠点の港へと来訪する商船を見て、外国との違いに直面し変化を求める事に否定はしない。けれど外は君達が思う程、綺麗で甘い世界ではないんだ」
ネフィリアードに抱き着いたままのアリュスは、まるでフローラに怯えるように彼の後ろに隠れる。
「そんなの分かっている。アタシ達はママから沢山学んだんだ。いろーんな国の歴史をね。失敗の繰り返しを知っていれば、直ぐに開国しようなんて思わないよ。まずは、魔女達を完全に支配下に置くんだ」
フローラは自信満々にネフィリアードの前に立つ。
先程まで歓声を上げ、花を舞わせていた少女達は、不気味な程に静かだ。
「ねぇ、結晶城の帝王さん。貴方とアタシ達は同じなんだよ」
「同じ……?」
「魔女達に沢山の大切なモノを奪われて、そのくせ勝手に哀れんで同情されてる」
ネフィリアードは眉間の皺が薄れる代わりに、怪訝そうに目を細めた。
「恵んで罪を償ったと思い込んで、自己満足して、アタシ達の声を無視してる。そんなのおかしいでしょう? だから変えるの。アタシ達の声が届く国に」
自画自賛をする様にうっとりと頬を染めるフローラだが、漠然とした話にネフィリアードは付いて行けなかった。
国を変える。あまりに抽象的で、幼稚だ。
その後に降りかかる責務と義務、そして多くの命を背負う覚悟が全く見て取れない。
絵本の中に出てくる国の様に、自分が動けば思い通りに事が運ぶと信じているようだ。
いや、信じているが現実も見えている。だから、魔女の国ロズマキナに暮らす唯一の獣人であるネフィリアードを選んだ。
「あっ! すぐに答えを出さなくて良いからね。今日は突然の事で、判断出来る筈ないもん。今晩は、ゆっくり休んでよ!」
メイドの格好をした少女達が2人の元へとやって来ると、綺麗な一礼を見せる。14歳ほどの顔立ちに幼さが垣間見える子供だが、背筋を伸ばした姿勢と流れるような動きは、上流階級の人物の元で何十年も務めている熟練の使用人を彷彿とさせる。
「結晶城の帝王とそのペットをお連れして!」
「なっ……!?」
条件反射で異を唱えようとしたネフィリアードだが、それを止める様に彼を抱きしめるアリュスの腕に力が籠る。
今は耐え時だ。敵の本拠地に誘拐されたのだ。周囲にいるのは子供ではなく、禁止が指定された魔法を使う戦闘部隊と今は考えるしかない。無暗に動いては、こちらが余計に不利になってしまう。外がどうなっているか分からない以上、慎重に動かねばならない。
「あれ? どうしたの?」
可愛らしく首を傾げたフローラに対して、ネフィリアードは小さく首を振る。
「何でもない。取るに足らない事だ」
「ふーん? まぁ、何を考えたってアタシの前では無駄だよ」
フローラはメイドの少女達に対して、2人を客室に案内するよう改めて指示を出す。2人は黙ったままそれに従い、メイド達と共に広間を出た。
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