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32話 人体実験
しおりを挟む「……ネフィリアードは俺がどうして生きているか、知りたい?」
「君が言える範囲であれば」
アリュスは起き上がると、ネフィリアードに向き合うようにソファへ座った。
そして、おもむろに銀のスプーンを手に取る。
次の瞬間、スプーンは黒く染まり、ぼろぼろと崩れ、皿の上に散乱した。
詠唱も魔方陣もない。魔力の僅かな流れすら感じ取れず、まるで最初からそうで有ったかのように壊れていた。
「俺は人体実験の末に完成した生物魔導兵器なんだ」
「人体実験? 生物、魔導兵器?」
7年前の帝国との戦争。思い当たる節が幾つかあり、ネフィリアードは寒気がした。
「初めのうちは、帝国人を体内で魔力を生成できる人種に改良するところから始まったんだ。五十歩百歩だろうけど、そこで終われば世界から異端視されなかっただろうね」
アリュスは自虐するように語る。
帝国を含め他の大陸に住む人間は、全員が魔力を生成できる体質ではない。それぞれの土地や気候に適応するために進化を遂げた結果だ。だが、高い魔術技術を持つ二つの人種による世界を巻き込む全面戦争から約800年後の今、当時の遺産が発見されるにつれて魔力が重要視されるようになった。魔力は戦力としてだけでなく、文明の発展にも大きく貢献していたからだ。
魔力を持たない人間が8割を占めていた帝国は、裏で人種改良を計画した。
「初期段階では、異種族との混血を量産しようとしたらしい。でも当時は純血主義が多かったし、世代を重ねる毎に血が薄まって魔力が使えなくなる恐れを考え、計画は立て直された。人工的に生み出す方向へ移行したんだ」
「人工? まさか生物を自分達で一から作るのか?」
「その方法もあるけれど、計画された当時は技術不足で人型の製造は無理だった。その代わりに、女を使ったんだ」
何処を切り取っても恐ろしい発言に戸惑うネフィリアードを余所に、アリュスは説明をする。
最初に、魔力を生成できる人間を産み出す為に女達を買う。妊娠の兆候が出始めたら、特殊な薬品を定期的に飲ませる。出産後、女達の精神が壊れても、まだ使える個体は生かす。魔力の生成が出来ない赤ん坊は処分し、適正者のみを育てる。
「特殊な薬というのは、魔力結晶や世界樹の樹液を原料とした高い魔力を含んだ劇薬。依存性が高く幻覚作用や脳の萎縮を招くらしい。それで女の人もかなりの数が亡くなってる」
さらに帝国は欲を出した。
金属などの物質を変化させる〈錬金術〉を取り入れ、4歳を迎えた子供達に魔術を刻み込んだのだ。100人に1人は生きる馬鹿げた計算の元で行われ、多くの子供が拒絶反応の末に亡くなった。
「ある魔術と呼称したのは、実験施設によって種類が異なるから。俺の場合は兵器部門だったから、より強力な魔術を使えるようにするために、肉体を強化させる術式だった」
施設によっては、他にも様々な魔術を用いた能力を与える実験が行われた。
脳に魔方陣を刻み込み、耳と目が見えなくなる代償に全てを〈情報〉として認識し、妨害を全く受けない探知を可能にする能力。目に刻み込み、全ての式を看破する能力。全身に刻み込み、液状化と再構築を可能とする能力。
空想や絵の中の世界を無理やり現実に落とし込もうとしたかのような、失敗を省みない異常なものばかりだ。
「……適応できなかった子供は、死んだのか」
「うん。肉片になった」
発言からして、亡くなった子供達は人としてではなく、ゴミとして破棄されている。
魔導兵器の箱の一件から〈魔術の被害者〉とまでは、ネフィリアードも予想していた。しかし、想像を絶するほどに規模が大きかった。名前や籍の無い子供と女性が、何千人と犠牲になっている。
「魔術を刻み込むだけじゃなく、ドラゴンの心臓や妖精族の目の移植実験もあった。完成品なんて呼ばれる頃には、原形を留める奴はいなかった。身体も心もみんな壊れていた」
それが7年前の戦争で、前線に立っていた魔女達が対峙した化物たちだ。
彼らは人間だった。
使い捨ての燃料にされた失敗作。戦争のための兵器にされた完成体。人は何処までも残忍に成れる生き物だ。戦争において、正義はどちらの国にも存在するものだが、非道どころの話では済まされない。
「肉体に刻み込んだ式以外にも、君達の様に杖を用いるような魔術も相当に危険なものばかりを教え込まれた。例えば、直撃した対象の内側を腐らせるとかね。その危険な術は反動も大きく、俺達の身体を破壊していった」
あの魔導兵器に入っていた人骨は、その反動で死んでいった被害者達だ。
強力な魔力を持つ人間を作る計画は、倫理を無視した好奇心と凶暴性を露見させた。
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