モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~

片海 鏡

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6章 主人公の登場と共に

82話 主人公の誰か

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 生垣に隠れている最中に、リティナの設定をいくつか正確に思い出した。
 リティナは明るい性格ではあるが、ゲーム冒頭では溌溂とした女の子ではない。孤児であり高い魔力を生まれつき持つ彼女は、魔法使いの師匠の元で修業を積んでいた。稀に見るその魔力量から暴走の懸念があり、制御が出来るようになるまで、師匠は刺激の多い外部との接触を断たせていた。彼女は毎年のように〈外に出たい〉と言い、3か月に一度の制御の試験を受けてきたが、軒並み失敗し、16歳になったメインストーリー開始1日前に成功を治める。
 学園ルートの序盤では、同じ年頃の子供に対して戸惑い気味に人見知りをするシーンがあった。

「歴史的快挙で、しかも同じ年の子がって師匠から教えてもらった時、誇らしく思ったんです! あなたと同じ学園で勉強できるなんて、光栄です!」

 今の彼女に、それらしき点は一切見られない。

 私の介入で攻略候補の人達に変化があっても、彼女の持つ設定からメインストーリー開始は確実に2年後だと思っていた。それを早められるとすれば、私と同じように本編開始前に動き出そうと考えられる人だけ。
 このリティナは、ゲームの知識がある〈誰か〉であると確信できる。

「ありがとうございます。面と向かって褒めてもらえると、照れちゃいます」

 私は頬を軽く押さえながら笑顔を作って、答える。
 リティナと交流を持つ絶好の機会。なんとかものにして、関係を持たなければならない。

「出荷された話も聞きましたよ! 発芽から凄い速さで市場に出たって魔術師さん達が、言っていました!」
「お父様たちの協力があってこそ、です。私だけでは、4本育てるのがやっとでしたから」
「凄い事には変わり有りませんよ!」

 にこやかに言うリティナだが、その顔の下で何を考えているのか分からない。
 人のことは言えないが、彼女の目的が不透明である以上は警戒してしまう。
 このゲームの売りは自由度の高さ。つまりは、彼女がどんな行動を取るのか予測がつきにくい。
 好きな攻略候補と早々に結ばれたい。攻略候補を助けたい。まだ本編開始していない段階で、面倒なメインクエストを無視して遺物を回収したい。レアアイテムをコンプリートした。さっさと強い武器やスキルを揃えて、本編に備えたい。
 プレイスタイルは千差万別だ。さらに彼女の性格も問題になる。この世界がゲームであると知り、自分の思い通りに動くと考えるタイプや、メインストーリークリアこそが最良だと考えるタイプであったら、今後様々なトラブルが発生する。
 どうしよう。不安だ。

「あのぉ、もしよろしければ、今度の出荷分の一本をいただけませんか? ちゃんとお金は支払いますので、お願いします!」

 遠慮がちしながらも、上目遣いでお願いするリティナはとても可愛い。
 メインストーリーの事を思えば、彼女も早めに欲しいだろう。だが、特別扱いは出来ない。

「すいません。今回の出荷分は、予約で埋まってしまったんです。次回の予約が開始されるのは、冬になります」

 市場にシャンティスを100本出して以降、手紙の山が出来る程に注文が殺到した。シャンティスだけでなく、生き物が育つにはある程度の時間が必要だ。また生育環境が特殊な為、大量に出荷するのは現段階では難しい。
 そこで、一人一本限定の予約制に切り替えた。貴族からの反発はあったが、陛下が最初に制度に従い、注文をしてくれた。不正を行えば陛下の目に留まるので、貴族達は沈黙した。こちらからは貴族達に予約の予定表を送り、なんとか穏便に事が進んでいる。
 ここで私がリティナを贔屓しては、お父様の名に傷が付く。関係を持ちたいが、家族を苦しめる選択は出来ない。

「うーん。数が少ない分、激戦ですね。師匠に相談してみます!」

 必須アイテムの為〈そこをなんとか〉と言うと思った。すんなりと引き下がってくれる所をみると、こちらの話もちゃんと聞いてくれる人のようだ。
 でも、サジュが隣にいるから、良い子の振りをして引き下がったってパターンもありそうだ。ゲームで、そういう攻略候補を狙うモブキャラがいたので、疑心暗鬼になってしまう。

「そうだ。今度、予約開始の日が決まりましたら教えますね」
「はい! ありがとうございます!」

 よし。自然な形で、次回の会話するきっかけを作れた。
 シャンティス以外の有益な情報をちらつかせるのも、手かもしれない。

「お話し中に悪いのだけれど、ちょっといいかな?」
「どうしたの?」

 私達を見守っていたサジュは、口を開いた。

「イグルドが君を探していたよ。見つけたら呼んでくれって頼まれたんだ」
「兄様が?」

 取り巻きがいなかったのは、私を探してくれていたからのようだ。普段は呼び出さない兄様が、わざわざ人に頼んで探させるなんて、何か重大な話が在りそうだ。

「も、もしかして、かなり待たせてる?」
「一時間くらいは」

 私は生垣に隠れすぐに見つけられず、取り巻きのいるリティナとひと悶着があって、サジュは言い出せなかったのだろう。
 本当はもう少しリティナと話したい。でも兄様を待たせ過ぎるのも良くない。

「わ、私、失礼しますね!」
「うん。またお話ししましょうね」
「場所は、高等部の訓練所だよ」
「教えてくれて、ありがとう!」

 私は皆に頭を下げ、足早にその場を去った。
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