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6章 氷界は草原に憧れる

87話 登校中での挨拶とお誘い

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 翌朝。重い疲れはなく、すっきりと目覚めることが出来た。

「ミューゼリアさん、おはよう!」

 登校中に、さり気なく挨拶をして近づこうと思っていたが、先にリティナから挨拶をしてくれた。

「おはようございます」
「同じ学年なんだから、敬語は辞めよう? 壁を感じちゃうよ」
「う、うん。わかった」

 少し寂し気な表情な彼女の言葉が、どうにも断れず私は頷いた。
 彼女が身に纏う雰囲気に、吸い寄せられるような何かを感じる。特に唇の辺りだ。言霊を使った魔法ではなく、クラフトスキルで作ったアイテムのようだ。
 私に効果は薄いようだが、念のため気を付けよう。

「ありがとう! あのね、早速で申し訳ないのだけれど、頼みがあって……」
「どうしたの?」

 歩きながらリティナは言う。

「実は、私の魔法使いの見習いなの」
「魔法使い? 魔術師と違うの?」
「自然の力を操って、より良いものを作り上げる感じかな。魔術では起こせない現象や奇跡を起こせるのが、魔法使い」

 妖精や精霊の単語を入れずに、分かり易く説明していると思う。
 こう見ると、彼女の方が魔法使いらしさを持っている。

「魔法使いは、薬も作るの。それで師匠が、風森の神殿で薬草を取って来て欲しいって頼まれちゃって……」

 序盤のクエストは、魔法使いの師匠の材料集めと題して、採取や魔物の討伐が依頼される。オープンワールドなので最序盤でも風森の神殿に行くのは可能だが、そのクエストに必要なアイテムや魔物はいない。
 そうなると話は嘘で、目的はクラフトする為の素材集めとレベルアップの為か。
 リティナが何周もしているプレイヤーなら、魔物達の弱点を知っている。魔術は序盤でも4属性が使えるので、戦闘は有利に進められる。
 ん? そういえば、レベルやスキル、ステータスの概念はどうなっているのだろう?
 魔物を倒して経験値を貯め、レベルアップして、魔術を覚える。このゲームにも典型的な流れはあるが、現実の同学年の生徒達を見ていると、無い様に思えて来る。〈何度も練習してようやく出来るようになった!〉と嬉々として話している魔術師の家系の子がいた。そこに、練習の経験はあっても〈ゲームの経験値〉は無い。

「それでね。ミューゼリアさんは植物について良く調べているでしょう? だから、手伝って欲しいの」
「えっ、えっと……」

 名前を呼ばれ、我に返った私は回答に困った。
 ダンジョンに行くには、アンジェラさんやリュカオンと一緒でなければならない、とお父様と約束をしている。それを破るわけにはいかない。

「外層の場所で採るだけだから、大丈夫! ミューゼリアの事は、私が守るからさ!」
「でも、子供だけで行くのは……」
「あら、面白そうな話ね」

 聞き覚えのある声に、私は振り向いた。

「シャーナさん!?」

 穏やかな微笑みを浮かべるシャーナさんと、取り巻きのマリリアさんとディアンナさんが立っている。

「2人とも、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう……」

 明らかにリティナの顔が引きつった。
 彼女からすれば、意地悪なライバルキャラ。最悪な相手に目をつけられたと思っているだろう。

「ミューゼリアってアーダイン嬢と知り合い?」

 すかさず小声で聞いてくる。

「お友達だよ。ほら、シャルティスの話知ってるでしょ?」
「あっ……そうだった。ごめん。驚いちゃって、その辺りが抜けてたよ」

 シャルティスの話はアーダイン公爵家の被害が付き物のように語られている。なので、私とシャーナさんの関係は周知されている。リティナもすぐに理解してくれた。

「ミューゼリアさんの護衛として、私も一緒に行きたいわ」

「え!?」「えぇええ!?」

 ほぼ同時に私とリティナが声を上げた。

「だ、駄目ですよ! 危ないです!」
「あら、ミューゼリアさんだって、危ないのは変わりないじゃない。それに、甘く見てもらっては困るわ。今の学園で、魔術において私に敵う人はいないのよ?」
「そうですけど……万が一何かあったら……」

 止めても聞く様子の無いシャーナさん。助けを求める為に、取り巻きのディアンナさんとマリリアさんをちらり見てみる。
 2人は、ただこちらに微笑みかけてくれる。
 なぜ…………?

「魔物との戦いは、命のやりとりですもの。怪我の一つや二つ、付き物よ。覚悟なく、遊び半分で奥地へ踏み込むなんてもってのほか。リティナさんも、分かっていらっしゃるはずよ」
「う、うん……」

 リティナの目が心なしか泳いでいる。
 シャーナさんからはライバル視というより、問題行動を起こした生徒に対する先生のような圧を感じる。

「それなら、決まりね。私も一緒に行くわ」
「面白そうだね。僕も行くよ」
「あら、エレウスキーさん」

 サジュ!? いつから聞いていたの!?
 あ! よく見たら、周りに人だかりできてる! 
 そ、そうだよね。公爵令嬢と転入生のリティナさん……注目を浴びないはずが無かった……

「剣術を習っているから、前衛として役には立てると思うよ」

 た、確かにゲームでも近距離と中距離のふたつが出来るキャラだったけど……

「お願いします!!!」

 シャーナさんの圧に負けたリティナは、どこか救いを求めるようにサジュの参加も了承した。

「2人がいれば、百人力だね! これでミューゼリアの安全もばっちり!!」

 なんだかリティナが可哀そうになって来た。
 ん? あれ? 私まだ行くって言ってないよ。

「私が守るから、心配しなくても大丈夫よ」

 シャーナさん。笑顔ですけど、目が笑っていないです。
 レーヴァンス王太子の件もあるし、相当お怒り何だろうな……
 ニアギスや銀狐の人も密かに護衛についてくれるなら、大丈夫かな? 
 念の為、お父様宛に手紙を書こう。
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