異世界でいっぱいH！

45 夢を見る男…！

 　シノと激しく何度も体を重ねたその後、夜明けも近いころ眠りに落ちた俺は珍しく夢を見た。
　元の世界で、その憧れだった東京の街を俺は歩いていた。テレビで見ただけの想像の東京だ。店がいっぱいあって、人がいっぱいいて、お祭りみたいで、迷子になりそうで、活気に満ちている。
　隣をサユが歩いている。銀髪も紫水晶の瞳も隠さず、平然と。だけど、別に気にする人はいない。ただ、時々サユを見た女の子たちがきゃあと興奮した声をあげる。俺は気分がいい。
　サユはふつうの服を着ている。冬だ。シンプルな濃いグレーのニットに、カーキ色のチノパン、黒いコートを羽織っている。靴はスニーカー。
　はぐれないように俺はサユにしがみついて歩いている。

「なあ、タクト、何か食べようか？」
「うん！お腹空いた！」

　俺たちは店を物色し始める。クレープや綿菓子を食べ歩き？ラーメン？喫茶店でランチ？ハンバーガー？
　悩むのも楽しい。ああでもない、こうでもないとサユと相談して…そこで目が覚めた。
　もう、昼過ぎでシノはいなかった。
　しばらく甘ったるい夢の余韻に浸り、また、何かさっさと食べればよかった。夢の中で味は感じるっけと後悔もしていると、ドアをノックされた。

「どうぞ～っ！」
「入るよ、タクト…」

　レイジュだった。

「あ、おはよう…」
「おはようじゃねえよ。もう昼だよ？何かもらってこようか？」
「ん－…」

　さっきは食べ物の夢を見ていたが、食欲がわかない。

「いいや。お腹空いてない…ありがとう…」
「なんか食わないとだめだぞ…最近、よく残すし、顔色も悪い」
「そう？」

　レイジュが鏡を持って来て、ほら！と見せてくれたが自分ではよくわからない。

「何か適当にもらってくるから、食べなよ！！」
「ごめん…」
「謝るなよ！」
「ごめ…」

　また、謝りかけるとレイジュが振り返って威嚇してきた。

「うがあっ！」
「あはは…」

　それからしばらくして、レイジュはリクと他の男の子たちも連れてきて、持って来てくれた昼食、俺にとっては遅い朝食を食べた。
　前からいる男の子たちに、「シノ様がぞっこんになるような、どんなテクを使っているのか」と聞かれたが、そんなのないと言うしかない。シノが俺にばかり執着しているのは俺がさまよえる者だからだ。
　だけど、それについて話すと、エリックのことも話さなければならない。それはぺらぺらしゃべってはいけない気がした。
　食べ終わって、談笑して、一人一人部屋を出ていき、一人になるとまた眠くなってきた。
　そして、夢を見た。
　やっぱり元の世界の夢。だってこたつがある。俺はこたつに足を入れて座っていた。
　サユが隣に潜って寝ている。パーカーを着ている。

「喉が渇いた…」
「こたつで寝るからだよ」

　俺はこたつの上のかごからみかんをとって、皮を剥いて、サユの口に一つ放り込む。

「甘い…」

　俺も食べて、もう一つサユの口に入れる。

「おいしい」
「うん。これは当たりだ」
「はずれがあるのか…？」
「時々ね」

　もう一つサユに食べさせる。

「うん。おいしい」

　冬は寒い。こたつはあたたかい。みかんはおいしい。
　サユが隣にいてくれるとうれしい。