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第一章 インデール・フレイム編
ウォルトリーと魔法使い
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第三話 ウォルトリーと魔法使い
走り出して、そう時間は経っていない。
洞窟の角を何度か曲がり進んで、美野里は滑り込むようにその現場に辿り着いた。
………………辿り着いた、まではよかった。
美野里はその瞬間、………正直な感想として嫌な物を見た、と思った。
そこにはハンターの初期防具とされ発注される装備を身に纏った少女が腰を抜かしながら座り込んでいた。そして、そんな少女を見下ろす、人の背丈を悠に超える巨大なモンスター………。
肌色に加え、ヌメヌメとした液体を身に纏った生物。
その名は、巨大ミミズ――ミヌカルゴ。
うねうね、と動くうえに肉食へと進化したモンスター、と美野里自身、噂では聞いたことがあったが実際の遭遇は初めてだ。
生々しさでいえば、はっきりいって背筋に寒気が走る。
苦々しい表情を浮かべるも、美野里は襲われそうになっている少女の目の前に向かって走り出し、両膝に収納していたダガーを二つ抜き取り投げ矢のようにミヌカルゴに向かって投げつけた。
ミヌカルゴは攻撃力は高くも俊敏さはといえば鈍いらしく、簡単な的でもあった。
グサッ、と鉄の刃が肉を切り裂く二つの音が放たれる。
腰を抜かした少女はいったい何が起こったのかわからず目を見開いているが、受け答えする間もなく美野里はその少女の手を無造作に掴み、後ろに突き飛ばし退避させる。
「下がってて!」
傷口から緑色の血液を流すミヌカルゴは敵意を美野里に移し、奇怪な鳴き声を上げながら体液を飛ばし襲い掛かってきた。
だが、そんな状況でも落ち着いた表情を浮かべる美野里は左足を前、右足を後ろに変えそこに重心を意識し、そのままダガーに力を込める。
そして、美野里の認識する間合いに標的が入った、その瞬間。
「ッ!!!」
美野里は連続の切り裂きを放つ。
頭と全身、数回にも及ぶ斬撃がミヌカルゴを襲い、死闘は一瞬で終わりを告げた。
緑の血液が飛び散り地面にこびり付く。
戦いは終わった、が切り捨てられたその身は今もうねうねと動き続けている。
間近で見て、さすがに持って帰る気にはなれない。
早々に立ち去ろう、と美野里は未だ目を点にする少女の手を掴みその場を後にした。
あの後、何度かモンスターと遭遇はしたが、美野里にとってそう強敵でもなく、あしらいながら何とか洞窟の外まで辿り着いた。
「あ、ありがとうございます!」
そう声を上げながら頭を下げる少女の名前は、アチル。
どうやら攻撃手段をなくした所であのモンスターに遭遇したらしい、と聞くが見た所、武器となる短剣は、今も彼女の腰にある。
「って、武器ならそこにあるじゃない」
「あ、これは護身用で、私自身はあまり剣を使えないんです」
「?」
聞いた上でさらにわからない。
首を傾げる美野里に対し、アチルは苦笑いを浮かべながら、
「えーっと、だから言うと…私はインデールから来たんじゃなくて、その…この洞窟の向こうにあるアルヴィアン・ウォーターから来たんです」
「……………………なるほど、アルヴィアンから…」
「………………」
「え?」
アルヴィアン・ウォーター。
その名はインデール・フレイムから離れた、南の地域を管轄する大都市だ。
そこでは剣ではなく、魔法を使う――謂わば魔法使いたちがハンターとして生活している。
インデールでも、たまに魔法使いが来ると噂が立つが、美野里自身、アルヴィアン・ウォーターの魔法使いを見たのは初めてだ。
「魔法使い…」
「え、えーっと…」
「うーん…、うーん…」
「あ、あの……な、なんで、…そんなにまじまじと見るんです!?」
じっ、とアチルを見つめる美野里。
正直な話、魔法使いなどテレビや漫画の話でしか見たことがなかった為、実際に目の前にいると気になって仕方なかった。
さらにいえば、美野里より大きな胸の塊に対しては小さなうなり声が出てしまうほどに敗北感があった。
と、不意に美野里はあることを思い出す。
「ん? あれ、確かアルヴィアンって…」
「?」
目をキョトンとさせながら首を傾げるアチル。
だが、その次の瞬間。
「ねぇ!!」
「ひゃ、ひゃい!?」
ガシッ、とアチルの両肩を強く握り締め、詰め寄り美野里。
突然の事に変な声を上げてしまったアチルに対し、彼女は言った。
「アルヴィアンってことは、もしかしてウォルトリーとか持ってるの!?」
「え! え! え!?」
ウォルトリーとは、アルヴィアン・ウォーターの周辺でしか取れないとされたアストリーと同種の鉱石だ。そして、その効力は何も無いところから水を出す事のできるといったもので永続とは行かなくとも保つ期間は長く、とても古い物では約百年持つ代物と噂されている。
だが、突然のことにパニクりながら口をアワアワさせながらアチルは、言い淀みながらその質問に答える。
「い、一応、も、持ってますけど、そそ、そのただの石ですよ!?」
「タダって、何言ってるの!? 無茶くちゃ良いものじゃない!!」
そう大きな声を出しながら、迫る美野里の眼は真剣そのものだった。
若干怖い…と、顔を青くさせるアチルはオドオドとポーチから数個のウォルトリーを取り出し美野里に見せた。
瞬間、美野里の眼はこの日一番の輝きを放ち、
「ねぇ、ねぇ! それちょうだい!!」
「あ、え、…い、いいですけ」
「お金、それとも獲物! どっちでもいいから!!」
「いやっ、無料で渡しますからッ!?」
チャララン! 美野里はウォルトリーをゲットした!
こうして、無事アストリーに加えウォルトリーを手にすることが出来た美野里はその場で飛び跳ねるように感激の表情を浮かべた。
ただ、端から見ているアチルにとってはどうにも気が滅入る気持ちにもなったのは言うまでも無い。
何故なら、道中に転がっていた石をあげた、だけなのだから……。
「やった! やった!」
「…………ぅぅ」
そんな事とはつゆ知らず、美野里は一人はしゃぐのだった。
走り出して、そう時間は経っていない。
洞窟の角を何度か曲がり進んで、美野里は滑り込むようにその現場に辿り着いた。
………………辿り着いた、まではよかった。
美野里はその瞬間、………正直な感想として嫌な物を見た、と思った。
そこにはハンターの初期防具とされ発注される装備を身に纏った少女が腰を抜かしながら座り込んでいた。そして、そんな少女を見下ろす、人の背丈を悠に超える巨大なモンスター………。
肌色に加え、ヌメヌメとした液体を身に纏った生物。
その名は、巨大ミミズ――ミヌカルゴ。
うねうね、と動くうえに肉食へと進化したモンスター、と美野里自身、噂では聞いたことがあったが実際の遭遇は初めてだ。
生々しさでいえば、はっきりいって背筋に寒気が走る。
苦々しい表情を浮かべるも、美野里は襲われそうになっている少女の目の前に向かって走り出し、両膝に収納していたダガーを二つ抜き取り投げ矢のようにミヌカルゴに向かって投げつけた。
ミヌカルゴは攻撃力は高くも俊敏さはといえば鈍いらしく、簡単な的でもあった。
グサッ、と鉄の刃が肉を切り裂く二つの音が放たれる。
腰を抜かした少女はいったい何が起こったのかわからず目を見開いているが、受け答えする間もなく美野里はその少女の手を無造作に掴み、後ろに突き飛ばし退避させる。
「下がってて!」
傷口から緑色の血液を流すミヌカルゴは敵意を美野里に移し、奇怪な鳴き声を上げながら体液を飛ばし襲い掛かってきた。
だが、そんな状況でも落ち着いた表情を浮かべる美野里は左足を前、右足を後ろに変えそこに重心を意識し、そのままダガーに力を込める。
そして、美野里の認識する間合いに標的が入った、その瞬間。
「ッ!!!」
美野里は連続の切り裂きを放つ。
頭と全身、数回にも及ぶ斬撃がミヌカルゴを襲い、死闘は一瞬で終わりを告げた。
緑の血液が飛び散り地面にこびり付く。
戦いは終わった、が切り捨てられたその身は今もうねうねと動き続けている。
間近で見て、さすがに持って帰る気にはなれない。
早々に立ち去ろう、と美野里は未だ目を点にする少女の手を掴みその場を後にした。
あの後、何度かモンスターと遭遇はしたが、美野里にとってそう強敵でもなく、あしらいながら何とか洞窟の外まで辿り着いた。
「あ、ありがとうございます!」
そう声を上げながら頭を下げる少女の名前は、アチル。
どうやら攻撃手段をなくした所であのモンスターに遭遇したらしい、と聞くが見た所、武器となる短剣は、今も彼女の腰にある。
「って、武器ならそこにあるじゃない」
「あ、これは護身用で、私自身はあまり剣を使えないんです」
「?」
聞いた上でさらにわからない。
首を傾げる美野里に対し、アチルは苦笑いを浮かべながら、
「えーっと、だから言うと…私はインデールから来たんじゃなくて、その…この洞窟の向こうにあるアルヴィアン・ウォーターから来たんです」
「……………………なるほど、アルヴィアンから…」
「………………」
「え?」
アルヴィアン・ウォーター。
その名はインデール・フレイムから離れた、南の地域を管轄する大都市だ。
そこでは剣ではなく、魔法を使う――謂わば魔法使いたちがハンターとして生活している。
インデールでも、たまに魔法使いが来ると噂が立つが、美野里自身、アルヴィアン・ウォーターの魔法使いを見たのは初めてだ。
「魔法使い…」
「え、えーっと…」
「うーん…、うーん…」
「あ、あの……な、なんで、…そんなにまじまじと見るんです!?」
じっ、とアチルを見つめる美野里。
正直な話、魔法使いなどテレビや漫画の話でしか見たことがなかった為、実際に目の前にいると気になって仕方なかった。
さらにいえば、美野里より大きな胸の塊に対しては小さなうなり声が出てしまうほどに敗北感があった。
と、不意に美野里はあることを思い出す。
「ん? あれ、確かアルヴィアンって…」
「?」
目をキョトンとさせながら首を傾げるアチル。
だが、その次の瞬間。
「ねぇ!!」
「ひゃ、ひゃい!?」
ガシッ、とアチルの両肩を強く握り締め、詰め寄り美野里。
突然の事に変な声を上げてしまったアチルに対し、彼女は言った。
「アルヴィアンってことは、もしかしてウォルトリーとか持ってるの!?」
「え! え! え!?」
ウォルトリーとは、アルヴィアン・ウォーターの周辺でしか取れないとされたアストリーと同種の鉱石だ。そして、その効力は何も無いところから水を出す事のできるといったもので永続とは行かなくとも保つ期間は長く、とても古い物では約百年持つ代物と噂されている。
だが、突然のことにパニクりながら口をアワアワさせながらアチルは、言い淀みながらその質問に答える。
「い、一応、も、持ってますけど、そそ、そのただの石ですよ!?」
「タダって、何言ってるの!? 無茶くちゃ良いものじゃない!!」
そう大きな声を出しながら、迫る美野里の眼は真剣そのものだった。
若干怖い…と、顔を青くさせるアチルはオドオドとポーチから数個のウォルトリーを取り出し美野里に見せた。
瞬間、美野里の眼はこの日一番の輝きを放ち、
「ねぇ、ねぇ! それちょうだい!!」
「あ、え、…い、いいですけ」
「お金、それとも獲物! どっちでもいいから!!」
「いやっ、無料で渡しますからッ!?」
チャララン! 美野里はウォルトリーをゲットした!
こうして、無事アストリーに加えウォルトリーを手にすることが出来た美野里はその場で飛び跳ねるように感激の表情を浮かべた。
ただ、端から見ているアチルにとってはどうにも気が滅入る気持ちにもなったのは言うまでも無い。
何故なら、道中に転がっていた石をあげた、だけなのだから……。
「やった! やった!」
「…………ぅぅ」
そんな事とはつゆ知らず、美野里は一人はしゃぐのだった。
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