異世界での喫茶店とハンター《ライト・ライフ・ライフィニー》

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第四章 スザク・アルト編

真実と怒り

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四十七話 真実と怒り



突然と戦乱の中に現れた魔法使いルア。
彼女が展開した魔法防壁で守られる美野里はこの状況に対し今だついていけずにいた。だが、一方のルアはそんな美野里の両手に握られた二本のダガーに視線を移す。
刃こぼれのない手抜き一つない強化を施されたダガー。
しかし、ルアはその武器が数秒前まで衝光という光を灯していたことを知っていた。
そして、美野里という名前の彼女が衝光使いだということを、その光景で理解したのだ。

「……やはり、貴方は衝光使いだったのですね」
「っ!?」

やはり、とその言葉に美野里の顔が強張る。
衝光使いと見破って尚、観察するかのように瞳を細める魔法使い。美野里はその瞳を一秒足りと反らせない。
だが、対してルアはそんな彼女の反応を待たずして目の前で殺気だつワバルに視線を移し、敵意向き出しのワバルに口を開く。

「私はアーサーのように優しくないですよ?」
「どけッ! 私はソイツを殺す、邪魔をするな!!」

ワバルは叫びと共に足場を蹴飛ばす。
同時に大剣に再び風が威力を強化させ刀身に纏う。迫り来る彼女から放たれる威圧は、その攻撃で二人同時に叩き斬るという意思すら感じさせた。美野里はその攻撃に対し顔を歪ませ反撃の姿勢に移ろうとした。
だが、その時だ。

「え?」

美野里の視界。
ルアの空いた手が、美野里の介入を拒んだ。
『そこで見ていろ』
まるでそう言うかのように、ルアは視線だけを美野里に向ける。

「ッ! ウィードブレイカー!!!」

戦闘の中、全くとして敵と認識されていない。
余所見という最大の侮辱を受けたワバルは怒り瞳を見開き、加えてセルバーストの加担を積み重ねる。莫大の強風を抱えたまま大きなモーションで腕を振りかぶった彼女は風の緑大剣を一閃と共に振り下ろした。
剣撃を飛ばすならその一降りで全てが終わっていただろう。
しかし、ワバルが力を使い作り出したのは物体のある強靭な刃。緑大剣は躊躇う素振りなく、目の前に立つ魔法使いの頭に向かって縦一直線へ落とされようとした。



「アー・オウガ・キュレイセス」



その、次の瞬間だった。
ルアが速攻で唱えた魔法。刃が彼女を切り裂く前に足場中心に淡い炎が湧き上がる。さらに炎はその強大といえる緑大剣をまるで叩くかのように弾いたのだ。
それも、たった掌サイズの大きさをした炎が。

「…なっ!?」

驚愕の光景に動揺を隠せないワバル。
だが、その炎はそんな彼女の反応を待たずして次の攻撃を開始する。
ふわふわ、と浮かぶ炎が弾かれた大剣の刀身に触れた。
その直後。


『ッ!!!!!!!!!!』


ワバルの眼前。
火の玉が風船のように弾け割れた。その次の瞬間に起きた爆発。
それは超至近距離からの零距離爆発。
威力はまさに絶大だった。
爆発が起きた足場となる屋根はその威力によって崩壊し地上に向かって瓦礫が落ちていく。だが、その瓦礫は地上につく前に炭となって消えていった。
原型すら残さない、それほどまでの強力な爆発炎。
崩壊し、硝煙の煙がその場に立つ。と、その時だった。
煙立つ中、黒い影が後方に向かって跳び着地したのだ。

「ッが……あっ…はぁはぁ…!!」

荒い吐息。
獣のような動き。
だが、その影はまぎれもない少女、大剣使いのワバルだった。
彼女の纏う衣服には、焼け焦げた痕と頬には微かな火傷の痕が残っている。だが、それ以上に損傷は見られない。
咄嗟だったのだろう。セルバーストの力を剣から全身に移したおかげでワバルは大怪我を回避した。所々にある怪我はその考えに至るまでの時間が遅かったための損傷だろう。
体中から滲む痛みを堪え、荒い息を吐くワバルは歯を噛み締めながら眼前を睨む。
だが、

「一つ、言い忘れた事があります」

ワバルの怒りの叫び。
それが放たれるのを遮るように、前に立つ魔法使いルアは不敵な笑みを浮かばせながら言った。


「この魔法は追跡魔法と爆破魔法の組み合わせなんです。どれだけ逃げようと、全部を避ける事は不可能です」


その直後。
回避したワバル、その周囲を六個の炎が突如と現れ囲み込む。
一瞬の窮地。彼女の瞳孔は大きく見開き、何かを叫び、回避への指令が脳内に走ろうとする。
しかし、ルアはそんな絶望的な状況に置かれた彼女に対し、何の躊躇もなく言った。




「はっきり言います。……………………………………目障りだ、そのまま散れ」




そして、それはその直ぐ後に起こった。
ワバルの回避を待たずして、その場に爆発の炎柱が立ち昇ったのだ。


『!!!!!!!!!!!!!!!!!』


多大な音量で繰り出された巨大な大爆発。
零距離での連鎖爆発がワバルという少女を一瞬にして沈黙へ追いやった。
多大な連続音が鳴り続ける間も爆炎の火柱は空高くまで昇りつめる。周囲に被害を広げない、上へ威力を開放させる魔法使いルアのオリジナル魔法。
何処までも高く上がるその火柱は、その力が計り知れないものだと傍から見ていても推測できるものだった。
そして、それから数秒して沈下がその場に訪れる。
火柱が粒子となり消えていく。
そして、その中心。
その場に黒焦げとなった一人の少女が倒れていた。
体のあちこちに大火傷を負い、大剣は真ん中からへし折れ剣先は粉々となっている。さらに衣服はボロボロに焼け落ちていた。
………ただ、皮膚が露わになった背中には不気味に光を発する赤黒の魔法陣が刻まれている。
ルアはその異様な魔法陣を見つめながら、口を開く。

「終わりですね」
「……………っ……あッ……あ」

抵抗する力すらないワバル。
うめき声とも取れる声を発する彼女にもう戦う力はなかった。防御が出来なかった、わけではない。ワバルは確かに力を使い自身を守った。
しかし、その力、セルバーストで防御した上での損傷がこれなのだ。
魔法使いルアは冷たい瞳で汚物でも見ているかのように彼女を見下ろし、ゆっくりとした動きで杖を向けた。それはトドメの一撃…………には見えない。
その瞳は、まさにその者を殺そうとする目だった。
後ろでその光景に茫然としていた美野里はその行動に対し目を見開き声を上げる。

「ち、ちょっと! そんな、それ以上やったら死ん」
「私は上層部から殺しの許可をもらってます」
「!?」

殺しの許可。
あまりの言葉に声を詰まらせ愕然とする美野里。

「邪魔をしないでください」

ルアは冷たい瞳で美野里を見送り、再び前に倒れるワバルに視線を戻した。もう反撃する素振りすらできないにも関わらずワバルはまだ意識を失おうとしない。
それは、心がまだ死んでいないからだ。
怒り、殺意という感情が彼女を動かす源となっている。
ルアは今だ抗おうとする存在を見つめ、余計な手間をかけられると溜め息を吐いた。
そして、彼女は選択する。
今とは違う、別の方法で彼女の意思を殺すことを………。

「……ワバルといいましたか。あなたには一つ、誤解をとかないといけませんね」
「………………っ、ぉ」

まともな返事が返ってくるとは考えてない。
濁れた声を出すワバルに対し、ルアが今から話すのは上層部から頼まれた極秘に至る真実。
それはこのインデールに住む者、美野里すら知らないあの事件の真相だった。

「…私たち上層部は、ある一件から上に調査を依頼されていました。それはバルディアス討伐作戦の裏に隠れた真実を確かめるというものです」
「!?」
「………し、…真実…?」

突然の言葉に対し、動揺を見せ尋ねる美野里。
はい、とルアは答え話を続ける。

「あの一件では多くのハンターが死に、インデールという都市は他都市との上下バランスを崩壊させるに至るほどのものでした。そして、その後のバルディアスの討伐に潜んでいた残党を捕獲し、襲われたハンターたちもどうにか救出した。………………………ただ一人、美野里。あなた一人だけが負傷を負って」
「………ッ」

バルディアスの死闘後、騒動を広げないためルーサーだけが残り、密かに美野里はアチルと共にその場を去っていた。
しかし、美野里たちの動向までも上層部には筒抜けとなっていた。
それは同時に上層部に目を付けられていたということになる。
その上で今、衝光使いであることを知られた。苦い表情を浮かべる美野里。
だが、そんな中…。

「ぇ?」

ルアの言葉に表情を固まらせる、ワバルがいた。
彼女の中では、美野里はライザムを見捨てた。衝光という強大な力を持っていたにも関わらず。自分のことしか考えない女だ、とそういう認識をされていた。
そのため、そんな話を直ぐに鵜呑みに出来なかった。
視界がぼやけるにも関わらず、その瞳で彼女の視線がその場に立ち尽くす美野里へと向けられる。
そのかんにも、ルアの言葉は続けられる。

「二回目の討伐作戦。………隠しているようですが、彼女は他のハンターたちを助けたと私たちは推測しています。大怪我を負ったのはその時か、その後かはわからないですが……実際、衝光の力もその時に見出したのか、それとも以前から持っていったのかは不明ですが」
「…………………」
「そして、あの一件にはもう一つの真実がありました。……それが、ライザムです」
「「!?」」

突然と出た名前。
何故、この場面で彼の名前が出るのか。
美野里とワバルは困惑した表情を浮かべる。だが、そんな彼女たちをよそにルアはその内容を告げた。

「事件の後、彼の遺体を色々と調べさせていただきました。確かに、彼の死因は武器による殺傷であることは確かです。…………しかし、私たちは彼の体に微かですが残留した魔力が残っていたのを感知しました」
「ま、魔力? ……そ、それって」
「はい、その魔力はとても強力なものです。主に縛りのための魔法だったのでしょう」

あの死体の中でそれを見つける。
外見だけで武器でつけられた傷と判断した美野里たちとは違う、魔法使いにしか判断できない結論。
美野里はそのことに驚きを隠せない。だが、同時に悪寒が全身を走り抜ける。
もし、あの事件に魔法使いが関わっているとするなら、あの場にいたハンターたちに協力した者がいる。いや、もしくは彼らのさらに奥に潜む黒幕が……。
魔法使い。
その単語だけで旋律を抱く、美野里とワバル。
だが、ルアはそんな彼女たちをさらに絶望に至らしめる情報を伝える。



「そして、その魔法は……………ワバル、貴方の背名に刻まれた魔法陣の魔力と同一のものですよ」
「…………………………………?」
「わかりませんか? つまり、貴方は無様に復讐するべき者に嵌められたんですよ」



……………………………………………………………………………………………………………………一体何を言っている?
瞳孔を見開き、顔を強張らせるワバルにルアは事実を述べた。
硬直が解けるのは、それから直ぐだった。
あの墓場で絶望の淵に追いやられたワバル。そこでふらりと現れたライザムをことを述べた男。
『お前に力をかしてやる』
復讐の手助けをしよう。そう言って手を差し伸べた、あの男が。



『ライザムを、殺した?』



その時。
濁れたような声が、ぼそりと漏れる。

「……ぃ、そ、そんな…」
「え?」
「ワ、バルは…ワ、バルは………そんな………………そんな…」

精神が崩壊していく。
その光景を美野里は初めて見た。
その場に四つん這いになりながら虚ろな目で地面を見つめ、呪詛を唱えるように口を動かし続けるワバル。その姿からは既に戦う意思はなかった。
良い終わり方とは言わない。
だが、都市への危険は取り除かれたのは確かだ。
後味の悪さ。
あまりの終わりに美野里は顔色を歪ませる。
だが、そんな中、

「さぁ、これで終わりです」
「!?」

その直後。
杖先から放たれた火弾が放たれワバルの体は後方に吹き飛んだ。
防御の姿勢すら取ってなかった。そのため、彼女の衣服は黒く焼け焦げ、腹部には大きな火傷の痕がつく。
しかし、それを食らっても尚、悲鳴は聞こえてこなかった。
既に痛みすら超える程のダメージが彼女を意識を支配していたのだ。
抵抗なく転がり崩れる少女。
ルアは、冷徹な表情を浮かべながら、さらに魔法を詠唱しようとした。

「シ・オウガ・レ」
「な、何やってるのよッ!!」

美野里は怒声を上げ、ルアを止めようと動き出す。
だが、彼女は後ろに振り返り、

「何って、排除です」
「は、排除…」
「はい。彼女はこのインデールという都市に混乱をもたらした。今、暴れ回っている存在に直接関わっていなくても、彼女は既にあちら側の人間……………………よって、私が罰します」

そう言うルアの眉間に皺が籠っていた。
その表情から美野里は彼女が今、怒りを見せているのだと察する。
怒りの引き金となったのは、インデール・フレイムという都市。その都市を危険にさらしたこと。
そう、ワバルという女が……………私たちの居場所に危害を加えたから。
視線を戻し、ルアは言葉を吐く。



「真実を知れて、心残りはもうないでしょう。………………だから…散れ」


今度こそ、杖先に強大な魔力が宿る。
それはその者を殺すために形成された魔法。紅蓮の炎がその者の全てを焼き消す。
彼女は、その魔法の名を告げる。

「ジ・オウガ・レイヴ」

杖から放たれたのは、巨大な咢のように紅蓮の魔法弾。
それは大きな花とも取れる。何枚にも分かれた花びらが、標的に向かって突き進み、その花びらで敵を呑み込む。
そこには一切の加減もない。
ただ、目の前の存在を灼熱の炎で排除する。

「……………ぁ」

ワバルは、目の前に迫るその死の魔法を見つめ、そっと、瞼を閉じた。
死ぬと理解した直後。
走馬灯のように瞼の裏でライザムとの記憶が蘇る。
自分のことを側で見守り、戦い方や生き方、その他にも色々なことを教えてもらった。
修行のためにインデールを離れる時も、頭をなで、言ってくれた。

『強くなれ、お前が帰ってくるのを待っている』

ポタリ、と頬に滴が垂れる。
いつの間にか、ワバルの瞑る目の端から涙が零れ落ちていた。
どれだけ願っても、彼は帰ってこない。
自分が、彼のためにと思った行動自体が過ちだった。
まして、彼を殺した男の協力をしたなど………最悪だった。

(…………………………ライザムさん…)

ワバルは歯を噛み締め、自分の過ちを呪った。
このまま死んだとしても、もう、彼に会わせる顔がない。自分は、もう……………このまま孤独に死んでいくのだと……。

ドクン。

ドクン。

鼓動が聞こえる。
死という現実が迫っているにもかかわらず、どこまでも平然とした早さだ。
それだけに、自分はどうしようもなく生きている価値のない人間なんだと笑えてくる。

ドクン。

そして、やっと、その音がもうすぐ消える。
ワバルはもう何も考えないように、思考を停止させようとし………、





「衝光、ルーツライトッ!!」





その、次の瞬間だった。
甲高い音が、その目の前で響き渡る。
思考を止めようとしたワバルは、その激しい音といつまでも襲ってこない最後に疑問を抱き瞼を開いた。
視界の初め、そこに映ったのは、まるで信じられない物をみたかのように驚愕に染まった魔法使いルアの顔だった。
そして、次に彼女が見たのは風に揺れ動く、光輝く長髪。
その者の手には迸るほどの光を放つ光刀が握られおり、刀先の端で紅蓮の炎が散りとなり消えていく。
ワバルのそこで気づいた。
今、目の前にいる者が全てを焼き尽くす魔法の炎を斬り裂いたのだと。

「な、何ですか……それはッ!?」

ルアは自身の瞳に映る光景に恐怖を覚えていた。
今しがた強大な魔法を放ったはず、しかし、その魔法がたった一振り斬り消されたのだ。
その刀は刃だけではない短剣自体がその容易を変化していた。
光刀。
腰には光剣が四本と光刀の一本が光り輝く。
短髪からさらに伸びた長髪、その髪全体が光を放ち、両目には衝光の眼光が開かれている。

「さっきから…………罪だか排除だか…何が上から許可が出てるよ」

衝光、ルーツライト。
自身の力を完全開放したハンター。
町早美野里は、その強大な魔法を一振りで叩き切り、怒り溜まった言葉をぶつける。



「アンタは、人の命を何だと思ってるのッ!!」



その瞬間。
魔法使いと衝光使い。
二つの火ぶたが切って落とされることが、決定した。


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