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第一章 アルカトラからの脱出
7.無数の檻への投獄
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「チクチク言葉はいけませーーーん!!!囚人たるもの!!!模範的な言葉遣いを心がけましょーーーう!!!」
「黙らんかーーーい!!!」
振り回される棍棒と、それを回避しながら叫ぶガジュ。
ガジュは雪国ユギ村の出身である。夏も冬もなく静かで落ち着いた雰囲気の漂う牧歌的場所で育った彼にとって、騒音というのは非常に煩わしいもの。ましてそれが特に意味のない大声ともなれば、短気な彼は我慢できなくなって当然である。
このフロアは天井が高い分一つ一つの照明が大きく明るい。ガジュにとっては少し不利な状況だが、目の前の幼女一人倒すには充分な明るさだ。
「【闇の王】は……二割ってとこか!」
「駄目でーーーす!スキルの使用はシャルのような特別待遇にしか認められていませーーーん!!!【投獄】!!!」
力任せに殴りかかったガジュの腹部にシャルルの棍棒が命中する。痛みはそれほど、所詮は幼女の一撃といったところか。そう思ってガジュが拳を振り抜くと、彼の拳に激痛が走った。
「いったぁぁぁ!何だ!?何で俺は檻の中に!?」
固い檻を殴打した事でガジュの手からは血が流れ、困惑のままに患部を抑える。確かに自分は通路にいたはず。だが今は何故か檻の中に閉じ込められている。こんな超常現象が起こる理由など一つしかない。そう判断し、ガジュはシャルルを睨みつけた。
「シャルのスキル、【投獄】は文字通り悪い人間を檻に入れる能力です!!!この力こそが!シャルのアイデンティティ!」
「それがどうした!全部ぶっ壊せば問題ない!」
先ほどは人間それも幼女相手だったが故に拳を軽く握っていたが、檻を壊すためであればそれも必要ない。ガジュは素早く檻を破壊し、再び廊下へ現れる。
手を軽く痛めた以外ダメージもないしただ時間を取られただけ。むしろ一度檻に入れられた事でガジュは冷静さを取り戻し、そこらに突っ立っていたユンと作戦を立て始める。
「多分あの幼女のスキルは『棍棒で殴った相手を所定の場所に送る』みたいな能力だ。力押しで勝てる見込みは薄いな。なんかこう、目眩しみたいな魔法使えないか?」
「やっと落ち着いてくれて安心したよ……。目眩しなら色々使えるよ!ピカピカ、フラフラ、ユラユラーー」
「どれもこれもだっさい名前だな……。取り敢えずそのユラユラとかいうのをあの幼女に使ってくれ。どうせあっちに機動力はないんだ。一回振り切ればそのままこのフロアを脱出出来るだろ。ユンの事は俺が運ぶ。」
「りょうかーい!ユラユラ!」
ガジュが冒険者として蓄えた魔法の知識と照合して考えれば、ユラユラというのは相手の視界を歪ませる認知魔法だろう。別にシャルルを倒す理由など全くない。十層ぶち抜きの巨大監獄に看守が一人。どう考えたって人間が監視できる限界を超えているのだから回避する方がずっと簡単なはずだ。
ガジュのそんな目論みは見事に成功し、シャルルは酔っ払ったようにして膝をつく。その横をユンを背中に乗せたガジュが通過し、どんどんとシャルルから距離を取っていった。
「ふふっ~ん!どうどう?僕の魔法の威力!こういう姑息な魔法は得意なんだよね!」
「性格悪そうだもんな。なんというか納得できるよ。」
「わ、悪くないし!こんな可愛い子を捕まえてよくそんな事が言えるね君は!」
看守の脅威を一瞬で排除したことにより調子を良くした二人は軽く冗談を飛ばしつつ、監獄の中を駆け抜けていく。先ほどシャルルに一喝されて以降辺りを取り囲む囚人達も静か。このまま気持ち良く室内階段を登りゴミ箱を抜け出そうと思った時、通りがかった檻の鍵が開く音が鳴り、中から例の金髪幼女が飛び出してきた。
「有罪でーーーす!!!スキルに留まらず魔法まで!シャルが監獄の秩序を正しまーーす!!!」
「うわぁ!?どっから出てきたのこの子!」
「しつこいガキだなほんと!」
【闇の王】によって身体能力が強化されたガジュは通常の人間、ましてシャルルのような子供と比べれば何倍もの速度で走る事ができる。そんな速度で逃げた相手にシャルルが追いつけるわけがない。考えられる可能性は、やはりたった一つだ。
「あの【投獄】とかいうスキル、正確には棍棒に当たったものを所定の場所に送る、っていう力なんだろうな。つまり自分を軽く叩けば、この階層のどこへでもテレポートできる。」
「正解です!!!シャルはこのアルカトラ種族犯罪者集団収容階層の支配者!ここに置かれている無数の檻は、全てシャルの手の中でーーーす!!!」
「えっ、ここそんなちゃんとした名前あるんだ。」
ユンから腑抜けた声が漏れ、それをかき消すようにシャルルが声を上げる。辺りを取り囲む檻の全てが彼女の足であり武器。その事実を確認し、ガジュは改めて拳を握った。
「黙らんかーーーい!!!」
振り回される棍棒と、それを回避しながら叫ぶガジュ。
ガジュは雪国ユギ村の出身である。夏も冬もなく静かで落ち着いた雰囲気の漂う牧歌的場所で育った彼にとって、騒音というのは非常に煩わしいもの。ましてそれが特に意味のない大声ともなれば、短気な彼は我慢できなくなって当然である。
このフロアは天井が高い分一つ一つの照明が大きく明るい。ガジュにとっては少し不利な状況だが、目の前の幼女一人倒すには充分な明るさだ。
「【闇の王】は……二割ってとこか!」
「駄目でーーーす!スキルの使用はシャルのような特別待遇にしか認められていませーーーん!!!【投獄】!!!」
力任せに殴りかかったガジュの腹部にシャルルの棍棒が命中する。痛みはそれほど、所詮は幼女の一撃といったところか。そう思ってガジュが拳を振り抜くと、彼の拳に激痛が走った。
「いったぁぁぁ!何だ!?何で俺は檻の中に!?」
固い檻を殴打した事でガジュの手からは血が流れ、困惑のままに患部を抑える。確かに自分は通路にいたはず。だが今は何故か檻の中に閉じ込められている。こんな超常現象が起こる理由など一つしかない。そう判断し、ガジュはシャルルを睨みつけた。
「シャルのスキル、【投獄】は文字通り悪い人間を檻に入れる能力です!!!この力こそが!シャルのアイデンティティ!」
「それがどうした!全部ぶっ壊せば問題ない!」
先ほどは人間それも幼女相手だったが故に拳を軽く握っていたが、檻を壊すためであればそれも必要ない。ガジュは素早く檻を破壊し、再び廊下へ現れる。
手を軽く痛めた以外ダメージもないしただ時間を取られただけ。むしろ一度檻に入れられた事でガジュは冷静さを取り戻し、そこらに突っ立っていたユンと作戦を立て始める。
「多分あの幼女のスキルは『棍棒で殴った相手を所定の場所に送る』みたいな能力だ。力押しで勝てる見込みは薄いな。なんかこう、目眩しみたいな魔法使えないか?」
「やっと落ち着いてくれて安心したよ……。目眩しなら色々使えるよ!ピカピカ、フラフラ、ユラユラーー」
「どれもこれもだっさい名前だな……。取り敢えずそのユラユラとかいうのをあの幼女に使ってくれ。どうせあっちに機動力はないんだ。一回振り切ればそのままこのフロアを脱出出来るだろ。ユンの事は俺が運ぶ。」
「りょうかーい!ユラユラ!」
ガジュが冒険者として蓄えた魔法の知識と照合して考えれば、ユラユラというのは相手の視界を歪ませる認知魔法だろう。別にシャルルを倒す理由など全くない。十層ぶち抜きの巨大監獄に看守が一人。どう考えたって人間が監視できる限界を超えているのだから回避する方がずっと簡単なはずだ。
ガジュのそんな目論みは見事に成功し、シャルルは酔っ払ったようにして膝をつく。その横をユンを背中に乗せたガジュが通過し、どんどんとシャルルから距離を取っていった。
「ふふっ~ん!どうどう?僕の魔法の威力!こういう姑息な魔法は得意なんだよね!」
「性格悪そうだもんな。なんというか納得できるよ。」
「わ、悪くないし!こんな可愛い子を捕まえてよくそんな事が言えるね君は!」
看守の脅威を一瞬で排除したことにより調子を良くした二人は軽く冗談を飛ばしつつ、監獄の中を駆け抜けていく。先ほどシャルルに一喝されて以降辺りを取り囲む囚人達も静か。このまま気持ち良く室内階段を登りゴミ箱を抜け出そうと思った時、通りがかった檻の鍵が開く音が鳴り、中から例の金髪幼女が飛び出してきた。
「有罪でーーーす!!!スキルに留まらず魔法まで!シャルが監獄の秩序を正しまーーす!!!」
「うわぁ!?どっから出てきたのこの子!」
「しつこいガキだなほんと!」
【闇の王】によって身体能力が強化されたガジュは通常の人間、ましてシャルルのような子供と比べれば何倍もの速度で走る事ができる。そんな速度で逃げた相手にシャルルが追いつけるわけがない。考えられる可能性は、やはりたった一つだ。
「あの【投獄】とかいうスキル、正確には棍棒に当たったものを所定の場所に送る、っていう力なんだろうな。つまり自分を軽く叩けば、この階層のどこへでもテレポートできる。」
「正解です!!!シャルはこのアルカトラ種族犯罪者集団収容階層の支配者!ここに置かれている無数の檻は、全てシャルの手の中でーーーす!!!」
「えっ、ここそんなちゃんとした名前あるんだ。」
ユンから腑抜けた声が漏れ、それをかき消すようにシャルルが声を上げる。辺りを取り囲む檻の全てが彼女の足であり武器。その事実を確認し、ガジュは改めて拳を握った。
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