23 / 124
第二章 ユギ村の災害
22.咎人の馬車
しおりを挟む「ほっほう!凄い!凄い!木だよ木!ダンジョンに生えてるあの気持ち悪い木じゃなくて本物の木!」
「凄い……本物の犬は初めて見ました……。私みたいな犬畜生と違って本物は可愛らしいんですね……。すみません私可愛くなくて。」
馬車からユンとキュキュが体を乗り出し、森を歩く野良犬とかいう世界で一番当たり前の光景に感激する。馬車を引くガジュからすれば何一つ驚きの要素はないが、ずっと獄中にいた彼女達からすれば見えるもの全てが物珍しいのだろう。
ガジュ達『クリミナル』の一行はアルカトラを脱出し、アルカトラから奪った馬車に乗って地上の世界を遊覧していた。そしてそこには勿論、四人全員が揃っている。
「それにしてもさ、シャルちゃんは本当に来てよかったの?僕ら勝手にシャルちゃんの事を仲間にしちゃってたけど、別に断っても良かったんだよ?」
「大丈夫です。別に今後やりたい事もなかったですし、アルカトラの中でも引き続き檻に入れておくべき囚人は看守達と協力して全員檻に入れました。監獄自体の補修も済ませましたし、シャルがあそこでやる事はありませんから。」
「あの……ありがとうございます。亜人達を全員解放してくれて。私達みたいな忌むべき存在は檻にいて然るべきだと言うのに……。」
「気にしないで下さい。シャルはシャルの判断で悪を裁いただけです。亜人達は犯罪行為を行っていませんし誰にも迷惑をかけていません。ゴミ箱で囚人と看守の関係性だった頃から、シャルは彼らを檻に入れておくことに懐疑的でした。」
馬車の中でキュキュがシャルルに深く頭を下げる。
看守長カナンを檻に閉じ込めた後、アルカトラはシャルルと残存の看守達によって大きく変革された。看守達もカナンに半強制的に従っていただけであるから、ガジュ達脱獄囚に対しても寛容で、ガジュ含め無実の罪で収監されていた囚人や亜人達は全員解放。厳正な調査によって見極められた真の悪人だけが檻に入れられ、アルカトラは改めて監獄としての機能を取り戻したのである。
といっても看守達の温情で解放された部分も大きい。すんなりと解放されたの完全に無実なガジュとキュキュだけ。シャルルは刑期満了という形で処理がなされ、ユンに関しては……ほぼ力押しだった。
「シャルは不満で仕方ありません!ユンは一体何なんですか!?罪状を調べようと看守室の資料を探しても苗字一つわからない!あれだけ探して分かったのが囚人No.1という看守なら誰でも知っている情報だけ!シャルはこの人を許していいんですか!?」
「そんなこと言われてもさぁ~。僕にも分からないんだから諦めてよ。目の前にいるユンちゃんが可愛い!それだけで充分じゃん!」
「うぅ~納得がいきません……。シャルの正義が揺らぎます。」
ガジュ達からすればユンのこの調子は慣れたものだが、シャルルにはそれが許せないのだろう。彼女は正義の化身。善か悪か分からない相手を放置できるほど生優しくはない。対するユンはユンで、彼女からの追求を逃れようとガジュに話を振ってくる。
「それで?ここからどうするのさ。冒険者を目指すって聞いたけど、世間的には僕ら犯罪者のままだよ?冒険者協会は僕らみたいな怪しい奴らを受け入れてくれないんじゃない?」
「そこなんだよな……。ユンやシャルルは問題ないだろうけど、俺は間違いなく悪名が広まってるし、キュキュに至っては大手を振って街を歩けすらしない。」
「アルカトラが亜人を解放したことはすぐにニュースになると思うので、これまでのように亜人を見た瞬間通報!確保!みたいな事にはならないと思います。ですが差別の目は避けられないでしょうね……。」
「すみませんすみません。私が亜人なんかであるばっかりに。私は所詮馬車に乗る側ではなく引く側の存在です。あ、犬ですから馬車よりソリですかね。」
亜人への差別の目は厳しい。そんなことはこの場にいる誰もが知っている。
キュキュは爬人や鳥人のように明らかに人外の見た目をしておらず、茶色い耳ともふもふの尻尾があるだけの獣人。隠せば何とかなるレベルではあるものの、冒険者になるとなれば話は別だろう。
キュキュにしてもガジュにしても、何か功績を上げて『こいつらはまともな人間だ』という評価を手にしなければ。そう思いながらガジュは馬に鞭を打つ。
「取り敢えず一度俺の故郷に向かおうと思う。あそこはかなり人里離れているから亜人を差別するようなこともないし、俺の悪評も広まってないはずだ。死ぬほど寒いから覚悟しておけよ。」
「えぇ……僕寒いとこ嫌いなんだけどなぁ。ていうかどうなの?女の子三人連れてまずは実家!って。人としてどうかと思うよ。」
「勝手に変な意味を持たせるな。故郷で一旦考える時間を取るだけだ。三人ともずっと檻にいたんだ。暖かい飯の一つぐらい食べたいだろ。我らがユギ村の名物ハニカムシチューは絶品だぞ。」
「シチュー!?最高最高!よしキュキュちゃん、寒くなったらその尻尾をモフるからね!今のうちにしっかり毛繕いしておくんだよ!」
ユンが馬車の中で飛び跳ね、馬を引くガジュにまでその衝撃が伝わってくる。脱獄囚達の最初の目的地はユギ村。ガジュとハクアが幼少期を過ごしたその村が近づくにつれ、空は白く染まっていく。
2
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる