追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第二章 ユギ村の災害

22.咎人の馬車

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「ほっほう!凄い!凄い!木だよ木!ダンジョンに生えてるあの気持ち悪い木じゃなくて本物の木!」
「凄い……本物の犬は初めて見ました……。私みたいな犬畜生と違って本物は可愛らしいんですね……。すみません私可愛くなくて。」

 馬車からユンとキュキュが体を乗り出し、森を歩く野良犬とかいう世界で一番当たり前の光景に感激する。馬車を引くガジュからすれば何一つ驚きの要素はないが、ずっと獄中にいた彼女達からすれば見えるもの全てが物珍しいのだろう。

 ガジュ達『クリミナル』の一行はアルカトラを脱出し、アルカトラから奪った馬車に乗って地上の世界を遊覧していた。そしてそこには勿論、四人全員が揃っている。

「それにしてもさ、シャルちゃんは本当に来てよかったの?僕ら勝手にシャルちゃんの事を仲間にしちゃってたけど、別に断っても良かったんだよ?」
「大丈夫です。別に今後やりたい事もなかったですし、アルカトラの中でも引き続き檻に入れておくべき囚人は看守達と協力して全員檻に入れました。監獄自体の補修も済ませましたし、シャルがあそこでやる事はありませんから。」
「あの……ありがとうございます。亜人達を全員解放してくれて。私達みたいな忌むべき存在は檻にいて然るべきだと言うのに……。」
「気にしないで下さい。シャルはシャルの判断で悪を裁いただけです。亜人達は犯罪行為を行っていませんし誰にも迷惑をかけていません。ゴミ箱で囚人と看守の関係性だった頃から、シャルは彼らを檻に入れておくことに懐疑的でした。」

 馬車の中でキュキュがシャルルに深く頭を下げる。
 
 看守長カナンを檻に閉じ込めた後、アルカトラはシャルルと残存の看守達によって大きく変革された。看守達もカナンに半強制的に従っていただけであるから、ガジュ達脱獄囚に対しても寛容で、ガジュ含め無実の罪で収監されていた囚人や亜人達は全員解放。厳正な調査によって見極められた真の悪人だけが檻に入れられ、アルカトラは改めて監獄としての機能を取り戻したのである。

 といっても看守達の温情で解放された部分も大きい。すんなりと解放されたの完全に無実なガジュとキュキュだけ。シャルルは刑期満了という形で処理がなされ、ユンに関しては……ほぼ力押しだった。

「シャルは不満で仕方ありません!ユンは一体何なんですか!?罪状を調べようと看守室の資料を探しても苗字一つわからない!あれだけ探して分かったのが囚人No.1という看守なら誰でも知っている情報だけ!シャルはこの人を許していいんですか!?」
「そんなこと言われてもさぁ~。僕にも分からないんだから諦めてよ。目の前にいるユンちゃんが可愛い!それだけで充分じゃん!」
「うぅ~納得がいきません……。シャルの正義が揺らぎます。」

 ガジュ達からすればユンのこの調子は慣れたものだが、シャルルにはそれが許せないのだろう。彼女は正義の化身。善か悪か分からない相手を放置できるほど生優しくはない。対するユンはユンで、彼女からの追求を逃れようとガジュに話を振ってくる。

「それで?ここからどうするのさ。冒険者を目指すって聞いたけど、世間的には僕ら犯罪者のままだよ?冒険者協会は僕らみたいな怪しい奴らを受け入れてくれないんじゃない?」
「そこなんだよな……。ユンやシャルルは問題ないだろうけど、俺は間違いなく悪名が広まってるし、キュキュに至っては大手を振って街を歩けすらしない。」
「アルカトラが亜人を解放したことはすぐにニュースになると思うので、これまでのように亜人を見た瞬間通報!確保!みたいな事にはならないと思います。ですが差別の目は避けられないでしょうね……。」
「すみませんすみません。私が亜人なんかであるばっかりに。私は所詮馬車に乗る側ではなく引く側の存在です。あ、犬ですから馬車よりソリですかね。」

 亜人への差別の目は厳しい。そんなことはこの場にいる誰もが知っている。
 キュキュは爬人や鳥人のように明らかに人外の見た目をしておらず、茶色い耳ともふもふの尻尾があるだけの獣人。隠せば何とかなるレベルではあるものの、冒険者になるとなれば話は別だろう。
 キュキュにしてもガジュにしても、何か功績を上げて『こいつらはまともな人間だ』という評価を手にしなければ。そう思いながらガジュは馬に鞭を打つ。

「取り敢えず一度俺の故郷に向かおうと思う。あそこはかなり人里離れているから亜人を差別するようなこともないし、俺の悪評も広まってないはずだ。死ぬほど寒いから覚悟しておけよ。」
「えぇ……僕寒いとこ嫌いなんだけどなぁ。ていうかどうなの?女の子三人連れてまずは実家!って。人としてどうかと思うよ。」
「勝手に変な意味を持たせるな。故郷で一旦考える時間を取るだけだ。三人ともずっと檻にいたんだ。暖かい飯の一つぐらい食べたいだろ。我らがユギ村の名物ハニカムシチューは絶品だぞ。」
「シチュー!?最高最高!よしキュキュちゃん、寒くなったらその尻尾をモフるからね!今のうちにしっかり毛繕いしておくんだよ!」

 ユンが馬車の中で飛び跳ね、馬を引くガジュにまでその衝撃が伝わってくる。脱獄囚達の最初の目的地はユギ村。ガジュとハクアが幼少期を過ごしたその村が近づくにつれ、空は白く染まっていく。
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