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第三章 冒険者になろう
36.無能と馬鹿
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「ガジュ!正義に反する行いをしましたね!?しましたね!?」
「仕方ないだろ……あぁしないと俺の命が危なかったんだ!」
試験会場を破壊して無理やり戦闘試験を突破したガジュは、案の定シャルルから厳しく批判されていた。ガジュ自身こうなることは戦っている時から分かっていた。シャルルに怒られることも、背後の役人から厳しい目で見られることも。
だがガジュにとっては試験をクリアすることの方が重要だった。出した結果は二分二十一秒。一分で百点、という前提から適当に点数を予測すれば二分で五十点、二分三十秒で二十五点。つまり二分二十一秒は……ギリギリ不合格のラインだ。
「試験会場を壊した挙句不合格かぁ。何とも愚かだねガジュ!」
「試験の内容が悪いだろ試験の内容が!どうしてわざわざシャイニングフロッグなんだ!他にいくらでも魔物はいるだろ!?」
「勝手にキレないでようるさいな。大丈夫大丈夫、僕らはガジュが試験に受からなくても仲良くするって言ってるじゃん!復讐は後回しにして一旦のんびりお買い物でもしようよ。」
「そんなお金はありません。というか冒険者にならないとお金を稼げないので明日の宿代も怪しいです。本当に不合格なら、ガジュは皿洗いのアルバイトでもしに行ってください。」
ここで追放という言葉が出ないだけガジュの心は多少安らかだが、冒険者になれないのは由々しき事態だ。ハクアへの復讐を抜きにしても、シャルルの言うようにガジュ達には日銭がない。あるのはユギ村から持ってきたほんの僅かなガジュの貯金だけ。冒険者にならないことにはスノアスキュラ達の討伐報酬を貰うことすら出来ないのである。
まさに生きるか死ぬかの場面。ガジュ達が明日からの貧しい生活を覚悟した時、役人からの声がかかる。
「見ての通り、ガジュ・アザッドの試験中に試験会場が破壊された。よってこの先の試験は一旦中止とし、二時間後に再開する。受験者は冒険者協会に留まり待機しておくように。」
「あの~その件に関しては本当に申し訳ないんですが、俺の得点の方はどうなりましたか?」
「得点以前の問題だ。試験中に会場を破壊した奴なぞ初めてだぞ。ガジュ・アザッド、この件で支部長がお呼びだ。直ちに冒険者協会アンラ支部本棟三階支部長室に来るように。」
試験中止、それに加えて支部長からの呼び出し。いっそ不合格を宣言された方がまだ平和だったのかもしれない。ガジュはそんな思いと共に冷や汗を流し、仲間達、というか主にユンがその丸くなった背中をバシバシと叩き始めた。
「はっはっは!可哀想!今日はとことん可哀想だねガジュ!」
「当然の報いです。建造物破壊の罪をしっかりと償ってきてください。」
「すみませんすみません。私はまだ試験があるのでここから動けません。忠犬のようにここで待っていますので頑張ってくださいすみません。」
ガジュの味方は結局キュキュだけ。それを実感しつつ、ガジュは指定された場所に向かってトボトボと歩き始める。この流れは本当に最悪だ。ガジュも七年冒険者をやっていた身だからそこそこ顔は広いが、アンラの支部長など一度も会った事がない。そんな上役に呼び出されたとなれば、絶対にガジュは冒険者に復帰できないだろうし、怒られている間にシャルルとキュキュは試験に合格するだろう。
「それと、ユン・アザッド。貴様が筆記試験で書いた個人情報は全て本当か?」
「え?そうだよ。僕はユン・アザッド。ユギ村出身の十三歳のいたいけな少女。スキルは【魔法剣】で鼠の獣人です!」
「ふざけたことを……貴様も呼び出しがかかっている。ガジュ・アザッドと共に指定の場所へ向かえ。」
「ふぇ!?な、なぜ!?」
何故も何もそれだけ嘘をついていたら当然だろう。アザッド姓を名乗るのはともかく、明らかに十三歳の顔ではない。ついでに【魔法剣】はアンラでも有名なハクアのスキルであるし、鼠の獣人に関しては本当だったとしても不利になる記述だ。
「ユン……一体何がしたかったんだよお前。そんな嘘ついても絶対バレるだろ。」
「いや嘘ついたっていうか適当に書いただけなんだけどさ。まさか冒険者協会がそんな細かいことを気にする質だったとは……。」
確かに冒険者協会は割と適当な組織ではある。脱獄囚である一同をガジュに適性検査を受けさせるという時点でかなり寛容であるし、アンラに来てから終始フードを被りっぱなしでろくに言葉を発しもしないキュキュを咎めもしない。
だから自分が適当なことを書いても許されると思ったのだろうが、それは流石に大間違いだ。冒険者協会は常に人手不足であるが故に、多少怪しかったり黒い経歴があっても冒険者としての素養があれば容認してくれるだけ。明らかに不真面目でやる気のない奴に対しては厳しく接するのがこの組織である。
「まぁとにかく……お前も道連れだなユン。仲良く怒られようぜ。」
「嫌だ!僕は何も悪いことしてない!嫌だー!!!」
泣き喚くユンを引きずり、ガジュは少し足取りを軽くして面会に臨んでいく。
「仕方ないだろ……あぁしないと俺の命が危なかったんだ!」
試験会場を破壊して無理やり戦闘試験を突破したガジュは、案の定シャルルから厳しく批判されていた。ガジュ自身こうなることは戦っている時から分かっていた。シャルルに怒られることも、背後の役人から厳しい目で見られることも。
だがガジュにとっては試験をクリアすることの方が重要だった。出した結果は二分二十一秒。一分で百点、という前提から適当に点数を予測すれば二分で五十点、二分三十秒で二十五点。つまり二分二十一秒は……ギリギリ不合格のラインだ。
「試験会場を壊した挙句不合格かぁ。何とも愚かだねガジュ!」
「試験の内容が悪いだろ試験の内容が!どうしてわざわざシャイニングフロッグなんだ!他にいくらでも魔物はいるだろ!?」
「勝手にキレないでようるさいな。大丈夫大丈夫、僕らはガジュが試験に受からなくても仲良くするって言ってるじゃん!復讐は後回しにして一旦のんびりお買い物でもしようよ。」
「そんなお金はありません。というか冒険者にならないとお金を稼げないので明日の宿代も怪しいです。本当に不合格なら、ガジュは皿洗いのアルバイトでもしに行ってください。」
ここで追放という言葉が出ないだけガジュの心は多少安らかだが、冒険者になれないのは由々しき事態だ。ハクアへの復讐を抜きにしても、シャルルの言うようにガジュ達には日銭がない。あるのはユギ村から持ってきたほんの僅かなガジュの貯金だけ。冒険者にならないことにはスノアスキュラ達の討伐報酬を貰うことすら出来ないのである。
まさに生きるか死ぬかの場面。ガジュ達が明日からの貧しい生活を覚悟した時、役人からの声がかかる。
「見ての通り、ガジュ・アザッドの試験中に試験会場が破壊された。よってこの先の試験は一旦中止とし、二時間後に再開する。受験者は冒険者協会に留まり待機しておくように。」
「あの~その件に関しては本当に申し訳ないんですが、俺の得点の方はどうなりましたか?」
「得点以前の問題だ。試験中に会場を破壊した奴なぞ初めてだぞ。ガジュ・アザッド、この件で支部長がお呼びだ。直ちに冒険者協会アンラ支部本棟三階支部長室に来るように。」
試験中止、それに加えて支部長からの呼び出し。いっそ不合格を宣言された方がまだ平和だったのかもしれない。ガジュはそんな思いと共に冷や汗を流し、仲間達、というか主にユンがその丸くなった背中をバシバシと叩き始めた。
「はっはっは!可哀想!今日はとことん可哀想だねガジュ!」
「当然の報いです。建造物破壊の罪をしっかりと償ってきてください。」
「すみませんすみません。私はまだ試験があるのでここから動けません。忠犬のようにここで待っていますので頑張ってくださいすみません。」
ガジュの味方は結局キュキュだけ。それを実感しつつ、ガジュは指定された場所に向かってトボトボと歩き始める。この流れは本当に最悪だ。ガジュも七年冒険者をやっていた身だからそこそこ顔は広いが、アンラの支部長など一度も会った事がない。そんな上役に呼び出されたとなれば、絶対にガジュは冒険者に復帰できないだろうし、怒られている間にシャルルとキュキュは試験に合格するだろう。
「それと、ユン・アザッド。貴様が筆記試験で書いた個人情報は全て本当か?」
「え?そうだよ。僕はユン・アザッド。ユギ村出身の十三歳のいたいけな少女。スキルは【魔法剣】で鼠の獣人です!」
「ふざけたことを……貴様も呼び出しがかかっている。ガジュ・アザッドと共に指定の場所へ向かえ。」
「ふぇ!?な、なぜ!?」
何故も何もそれだけ嘘をついていたら当然だろう。アザッド姓を名乗るのはともかく、明らかに十三歳の顔ではない。ついでに【魔法剣】はアンラでも有名なハクアのスキルであるし、鼠の獣人に関しては本当だったとしても不利になる記述だ。
「ユン……一体何がしたかったんだよお前。そんな嘘ついても絶対バレるだろ。」
「いや嘘ついたっていうか適当に書いただけなんだけどさ。まさか冒険者協会がそんな細かいことを気にする質だったとは……。」
確かに冒険者協会は割と適当な組織ではある。脱獄囚である一同をガジュに適性検査を受けさせるという時点でかなり寛容であるし、アンラに来てから終始フードを被りっぱなしでろくに言葉を発しもしないキュキュを咎めもしない。
だから自分が適当なことを書いても許されると思ったのだろうが、それは流石に大間違いだ。冒険者協会は常に人手不足であるが故に、多少怪しかったり黒い経歴があっても冒険者としての素養があれば容認してくれるだけ。明らかに不真面目でやる気のない奴に対しては厳しく接するのがこの組織である。
「まぁとにかく……お前も道連れだなユン。仲良く怒られようぜ。」
「嫌だ!僕は何も悪いことしてない!嫌だー!!!」
泣き喚くユンを引きずり、ガジュは少し足取りを軽くして面会に臨んでいく。
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