追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

文字の大きさ
51 / 124
第三章 冒険者になろう

50.第三人格

しおりを挟む
「チョココロネ、チョココロネ……。俺はこんなものに負けたのか?こんな何の変哲もないパンの方が俺より役に立つっていうのか?」

 ガジュはチョココロネを眺め、落胆する。ここ数日で何個もこれを食したが、別に何てことない普通のチョココロネだ。味だけは間違いなく世界一美味いと言えるが、逆に言えばそれ以外何もないはずである。

 そんなガジュを他所に、背後ではキュキュが正気を取り戻していた。案の定記憶はないのだろうが、彼女の茶色い髪はサンドワームの血液で緑に染まり、走ってきた道には無数のサンドワームの死体が転がっている。誰がどう見ても暴れたのは自分。その事を痛感し、キュキュは地に頭を擦り付けていく。

「すみませんすみません……。私、また何かやらかしたんでしょうか。」
「まぁ端的にいうとそうだな。前にアルカトラで発現してた奴とは別の人格が出てた。ただ安心しろ。ユン含め誰にも危害は加えてないし、魔物を虐殺しただけだ。あ、俺の右拳だけはお前のせいだな。」
「ひぃ!すみません、すみませんすみません!」

 キュキュが一番気にするのは「他人に迷惑をかけたか否か」。それを知っているからこそ、ガジュはユンの安否などを話題に挙げたが、よく考えればそれを言っている自分が血だらけだ。ガジュの右拳を見てキュキュは更に更に頭を地面に擦りつけ、砂塵が舞う。

「で、今回は一体何が原因で暴れたんだ。ユンと一緒なら前回みたいに甘やかされてーーみたいなこともないだろ。あいつは無意味に人を褒めるような優しい人間じゃない。」
「そ、そんなことはないと思います……。ユンさんは、ユンさんは良い人です!」
「ん?なんだどうした。二人ってそんなに仲良かったか?なんならユンは亜人に厳しいイメージがあったが。」
「それはそうなんですけど……あの、そのとにかく良い人なんです!」
「お、おう。なんか随分とペラペラ喋るな。大丈夫だろうな、お前本当にノーマルキュキュか?」

 そんな不安を抱いてしまうほどに目の前のキュキュは普段と違う。暴れ回っている時のように瞳の色などの外見的変化はないが、常に斜め下を向いている顔面が珍しく上を向いているし、驚くべきことに彼女は今の会話の中で一度も謝罪の言葉を発していない。

「その……ユンさんに言われたんです。我儘に生きろって。そ、その言葉を聞いて、もう少し皆さんのお役に立とうと思いまして。も、勿論!私がどうしようもないゴミカスなのは事実です!そこは揺るぎません!ただ……ゴミカスでもユンさんを守るぐらいは出来るかと思ったんです……。」
「そう思っていたが、ユンが喰われたことでパニックになり、第三人格が出現した。ってとこか?」
「お、覚えていないのでわかりませんが……。前後の記憶からして、そ、そうだと思います。」

 キュキュの心にようやく芽生えた自己肯定感と、それに矛盾するかのように発生したユンの捕食。戦い慣れた冒険者であればその程度で動揺はせず、ユンを救い出す方法を考えるだろうが、檻から出たばかりのキュキュではそこまで至らなかったのであろう。
 だが、ガジュにとってキュキュの話は吉報ともいえるものだった。

「そういう話なら割と気楽だな。無力感がトリガーで現れる人格なら、これから先戦闘に慣れていけば出現機会も減るだろ。褒められたら発動の第二人格よりはだいぶマシだ。あのスキルなら最悪どうにかなりそうだしな。」

 キュキュ単体の破壊力で言えば第三人格の【凶化】の方に軍配が上がるだろうが、危険性で言えば第二人格がダントツだ。
 まず発動条件が恐ろしい。褒められると現れる、つまりそこら辺の好色男にナンパされた程度でも簡単に発動しかねないということだ。加えてスキルの【狂化】も危険極まりない。【強化】の恩恵を受けて戦っている最中に人格が変われば、アルカトラでのガジュのように容易く体の自由を奪われる。

 警戒すべきは間違いなく第二人格であろう。

「まぁとにかく正気を取り戻したなら俺達も早くイリシテアに向かおう。今頃ユンとクルトが二人で頑張ってるだろうからな。」
「は、はい!」

 『秩序と混沌の鬼ごっこ作戦』はまだ終わっていない。イリシテアに魔物をけしかけ、バーゼを何とか引き摺り出す。シャルル奪還の為にはまずこれを達成しなければならないのである。ガジュ達がそれを確かめながら歩き出すと、二人の前に見慣れた着ぐるみが現れる。

「ガジュガジュキュキュキュキュ!!!早く、早く来てくれ!今度は、今度はユンがぁ!」
「はぁ?何だ、あいつまで暴れ始めたのか?もしそうなら俺はいい加減にキレるぞ。」
「違う!吾輩達がゴブリンと共にイリシテアに着いたら、バーゼと一緒にシャルルが現れたんだ!そしてユンが【投獄】でどこかに飛ばされた!」

 考えうる限り最悪の事態。浅はかな作戦にはこういう事態が付き物だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...