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第三章 冒険者になろう
51.引きこもりの支配者
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「まぁ正直こういう未来は見えてたよな。シャルルが洗脳されてるわけだし、引きこもりのバーゼが持ち駒を使わないわけがない。」
「分かってたなら対策を取っておけ!頼みの綱のユンを失って吾輩本当焦ったんだからな!せっかくシャルルに会えたのに吾輩に気づきもしないし、こっちのメンタルはズタボロだ!」
大層慌てふためいた様子でクルトがそう話し、ガジュの服の裾をこれでもかと引っ張ってくる。
ここはシャルルの故郷であり、印さえ残っていればシャルルはどこへだって【投獄】出来る。現にガジュ達は一度イリシテア内の地下牢に叩き込まれているし、あの場所以外にもこの街の中には無数の印が書かれているのだろう。
そんなシャルルが現れたとあらば、さしものユンといえどなす術はないだろう。
だがしかし、まだ負けたわけではない。
「けどバーゼも一緒に現れたんだろ?ならさっさと戻ってそっちを捕まえよう。それさえ出来ればシャルルの件もユンの件も解決だ。クルトはどうせ無力なんだし、避難させた市民と仲良くパンでも作ってろ。」
「うぅ……。まぁ流石に今回はそうさせてもらおう。悪の覇王たる吾輩が操られでもしたら大変だからな!」
「それは別に困らないと思うが……。とにかく行くぞ、キュキュ。」
「え、あ、あぁはい!」
クルトも言っていたが、バーゼと相対するにおいて一番気を付けなれければならないのは奴のスキルだ。シャルルがどういう過程で操られたのかは知らないが、五歳の時に洗脳をかけられてから今までずっとその効果が持続しているとなればかなり強力な効果。もしシャルルに続いて誰かが洗脳されてしまえば敗北が決定的なものになってしまう。
緊張感を高めながらガジュとキュキュはイリシテアを目指し、例の綺麗な街並みが視界に入ってくる。計画通り街は荒れ果て、破損した建物の方が多いぐらいだ。しかしクルトの僕による避難活動は上手くいったようで、荒らされているのはあくまで建物だけ。人が襲われた形跡はなく、あるのはゴブリン達の死体だけだった。
「殴られたような傷……これ全部シャルルが殺したのか。全く、妹使いの悪い奴だなバーゼってのは。キュキュ、匂いか何かでシャルル達の場所が分かったりしないか。」
「た、多分、分かると思います。」
そういってキュキュが真っ当な理由で頭を地面に擦り付け、匂いをたどり始める。嗅覚も含め、キュキュはあらゆる感覚器官が常人の何倍も鋭敏だ。彼女を信頼して壊れた街を眺めていると、キュキュが驚いたように顔をあげ、常人でしかないガジュの鼻にも突き抜けるような激臭が流れ込んでくる。
「何だ……?ドブや生ゴミとは違う、人間固有の臭さというか。そうだ、アルカトラの囚人達がこんな匂いだったな。」
「ふひっ……。それはこの僕が、年単位で風呂に入っていない囚人達と同じレベルで不潔だと言いたいのかい?ふひひ、随分な言い様だね。」
目どころか鼻まで垂れ下がった重苦しい前髪と、酷く薄汚れた衣服。長く伸びた金髪は信じられないほどくすみ、白いフケがまるで何かの装飾のように散らばっている。アルカトラ六十層に叩き込まれていた頃のユンよりも間違いなく不潔。ゴミ箱に収容されていた亜人達と比べてもさほど変わらないだろうか。
まるで檻に囚われているかのように部屋の中に引きこもり、一切の社会的交流を持たなかった存在。
イリシテアでそんな人間など、一人しかいない。
「お前がバーゼか。よくもまぁ、うちの仲間に色々とやってくれたな。」
「ふひっ、こっちのセリフだよ全く。僕の大事な大事な愛すべき妹を勝手に連れ回した変態男が……。」
「あぁ?自分の妹に実親殺させておいて何言ってやがんだ。大事な妹なら洗脳なんてしねぇだろうが。」
まさに一触即発。ガジュは今にも殴りかかりそうな勢いでバーゼに罵声を浴びせていく。アンラを出た当初は、別にバーゼに対して何の感情も抱いていなかった。そもそもの目的がバーゼの情報を得ることであったから、戦うこともなく顔や住まいを突き止めれば充分、そう思っていた。
が、今はもう違う。仲間であるシャルルを洗脳していること、彼女に両親を殺させたこと、イリシテアへの道中ガジュとユンを檻に入れたこと、再びユンを攫ったこと。挙げたらキリがないが、ガジュはもうバーゼを叩き潰すと心に決めている。
「僕は僕の両親が秩序を乱したから殺したんだ。愛すべき妹を使ったのは、僕にその力がなかったからだ。そして今、君はこの街の秩序を乱している。だからまた、粛清する。簡単な話だよ。」
「秩序を乱すことと、妹に人殺しをさせること、果たしてどっちが正義なんだろうなぁ!」
遂にガジュが走り出し、バーゼに向かって一直線に殴りかかる。もう夜も明け、空には朝日が登り始めている。【闇の王】の効力はほぼゼロだ。
それでも相手は引きこもり。ガジュの手が届かない相手ではない。拳がバーゼの頬を掠めようかとした時、標的の姿はその場から消え、少し先の建物の中へ転移していた。
「ちっ、やっぱりお前が出てくるよな……。」
「ふひひ、後は任せたよ愛すべき妹……。僕はこの街の秩序を取り戻す、異分子を取り除くのは君の役目だ。」
「はイ、オニいさマ。」
正気と言語能力を失った仲間が立ちはだかり、バーゼはその場から去っていく。結局、仲間を乗り越えなければ誰も救えない。
「分かってたなら対策を取っておけ!頼みの綱のユンを失って吾輩本当焦ったんだからな!せっかくシャルルに会えたのに吾輩に気づきもしないし、こっちのメンタルはズタボロだ!」
大層慌てふためいた様子でクルトがそう話し、ガジュの服の裾をこれでもかと引っ張ってくる。
ここはシャルルの故郷であり、印さえ残っていればシャルルはどこへだって【投獄】出来る。現にガジュ達は一度イリシテア内の地下牢に叩き込まれているし、あの場所以外にもこの街の中には無数の印が書かれているのだろう。
そんなシャルルが現れたとあらば、さしものユンといえどなす術はないだろう。
だがしかし、まだ負けたわけではない。
「けどバーゼも一緒に現れたんだろ?ならさっさと戻ってそっちを捕まえよう。それさえ出来ればシャルルの件もユンの件も解決だ。クルトはどうせ無力なんだし、避難させた市民と仲良くパンでも作ってろ。」
「うぅ……。まぁ流石に今回はそうさせてもらおう。悪の覇王たる吾輩が操られでもしたら大変だからな!」
「それは別に困らないと思うが……。とにかく行くぞ、キュキュ。」
「え、あ、あぁはい!」
クルトも言っていたが、バーゼと相対するにおいて一番気を付けなれければならないのは奴のスキルだ。シャルルがどういう過程で操られたのかは知らないが、五歳の時に洗脳をかけられてから今までずっとその効果が持続しているとなればかなり強力な効果。もしシャルルに続いて誰かが洗脳されてしまえば敗北が決定的なものになってしまう。
緊張感を高めながらガジュとキュキュはイリシテアを目指し、例の綺麗な街並みが視界に入ってくる。計画通り街は荒れ果て、破損した建物の方が多いぐらいだ。しかしクルトの僕による避難活動は上手くいったようで、荒らされているのはあくまで建物だけ。人が襲われた形跡はなく、あるのはゴブリン達の死体だけだった。
「殴られたような傷……これ全部シャルルが殺したのか。全く、妹使いの悪い奴だなバーゼってのは。キュキュ、匂いか何かでシャルル達の場所が分かったりしないか。」
「た、多分、分かると思います。」
そういってキュキュが真っ当な理由で頭を地面に擦り付け、匂いをたどり始める。嗅覚も含め、キュキュはあらゆる感覚器官が常人の何倍も鋭敏だ。彼女を信頼して壊れた街を眺めていると、キュキュが驚いたように顔をあげ、常人でしかないガジュの鼻にも突き抜けるような激臭が流れ込んでくる。
「何だ……?ドブや生ゴミとは違う、人間固有の臭さというか。そうだ、アルカトラの囚人達がこんな匂いだったな。」
「ふひっ……。それはこの僕が、年単位で風呂に入っていない囚人達と同じレベルで不潔だと言いたいのかい?ふひひ、随分な言い様だね。」
目どころか鼻まで垂れ下がった重苦しい前髪と、酷く薄汚れた衣服。長く伸びた金髪は信じられないほどくすみ、白いフケがまるで何かの装飾のように散らばっている。アルカトラ六十層に叩き込まれていた頃のユンよりも間違いなく不潔。ゴミ箱に収容されていた亜人達と比べてもさほど変わらないだろうか。
まるで檻に囚われているかのように部屋の中に引きこもり、一切の社会的交流を持たなかった存在。
イリシテアでそんな人間など、一人しかいない。
「お前がバーゼか。よくもまぁ、うちの仲間に色々とやってくれたな。」
「ふひっ、こっちのセリフだよ全く。僕の大事な大事な愛すべき妹を勝手に連れ回した変態男が……。」
「あぁ?自分の妹に実親殺させておいて何言ってやがんだ。大事な妹なら洗脳なんてしねぇだろうが。」
まさに一触即発。ガジュは今にも殴りかかりそうな勢いでバーゼに罵声を浴びせていく。アンラを出た当初は、別にバーゼに対して何の感情も抱いていなかった。そもそもの目的がバーゼの情報を得ることであったから、戦うこともなく顔や住まいを突き止めれば充分、そう思っていた。
が、今はもう違う。仲間であるシャルルを洗脳していること、彼女に両親を殺させたこと、イリシテアへの道中ガジュとユンを檻に入れたこと、再びユンを攫ったこと。挙げたらキリがないが、ガジュはもうバーゼを叩き潰すと心に決めている。
「僕は僕の両親が秩序を乱したから殺したんだ。愛すべき妹を使ったのは、僕にその力がなかったからだ。そして今、君はこの街の秩序を乱している。だからまた、粛清する。簡単な話だよ。」
「秩序を乱すことと、妹に人殺しをさせること、果たしてどっちが正義なんだろうなぁ!」
遂にガジュが走り出し、バーゼに向かって一直線に殴りかかる。もう夜も明け、空には朝日が登り始めている。【闇の王】の効力はほぼゼロだ。
それでも相手は引きこもり。ガジュの手が届かない相手ではない。拳がバーゼの頬を掠めようかとした時、標的の姿はその場から消え、少し先の建物の中へ転移していた。
「ちっ、やっぱりお前が出てくるよな……。」
「ふひひ、後は任せたよ愛すべき妹……。僕はこの街の秩序を取り戻す、異分子を取り除くのは君の役目だ。」
「はイ、オニいさマ。」
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