56 / 124
第三章 冒険者になろう
55.引きこもり狩り
しおりを挟む
「何故……吾輩がこんな目に……。」
「半分持ちますよクルト。ほら、そのを貸してください。」
「シャ、シャルルゥ!シャルルだけが、シャルルだけが吾輩の癒しだ!結婚してくれ!」
「それは嫌です。貴方は悪の覇王なんでしょう?正義と悪は相入れません。」
後方でグダグダとようやく再開した幼馴染二人が馴れ合うのを無視し、ガジュ達はユンを先頭にバーゼの隠れ家を目指していた。
『クリミナル』四名は完全なる臨戦態勢、そして最後尾の悪の覇王は荷物持ち。今日は着ぐるみではなく中の人が汗を流し、背負った袋は彼女の身の丈とほぼ変わらないサイズに膨れ上がっていた。
「おいガジュ!何故吾輩はこんな目に遭ってるんだ!シャルルを助けてくれたことには感謝するが、あまりにも説明不足だろ!もっと悪の覇王を労れ!」
「バーゼを倒すにはお前のパンが必要なんだよ。細かいことはわからんが、それが事実なことは間違いない。」
バーニュ家邸宅を出た後、ガジュ達が一番に向かったのはクルトから聞いていたイリシテア住民の避難場所であった。
ゴブリン達が暴れ回った中心街から少し離れた場所にある古びた教会。そこに集まっていた大量の住民達の中からクルトを見つけ出し、ありったけのチョココロネと共にバーゼ討伐へ同行させるためだ。
バーゼを倒すにあたって最も厄介なのは間違いなく奴の操り人形達だ。イリシテア住民達の一割ほどが避難場所から姿を消していたところからして、消えた住民達は皆バーゼの操り人形として奴の隠れ家に控えているのだろう。相手が一般人とあれば無闇に攻撃するわけにもいかない。出来ることはただ、パンを食べさせることだ。
「お前のパンはどうやら人の精神をリセットさせる力があるみたいだからな。キュキュとユン、それにクルトは三人で分担して、洗脳されている人々にチョココロネを食べさせろ。バーゼは、俺とシャルルで倒す。」
「はい。身内の悪は、今度こそ私が裁きます。」
そういってシャルルが腕に力を込める。アルカトラで持っていた棍棒も、バーゼに授けられた警棒もない。今彼女の右手にあるのは、クルトがパン作りで愛用しているめん棒だけだ。
そんな中、一同は気付けばイリシテア郊外へとたどり着き、先頭を歩いていたユンが急に足を止める。目の前にあるのは、一本の巨大な塔であった。
「お、ここだよここ。ほら見てよガジュ。ガジュが好きそうな暗い塔でしょ?」
「本当だな。近頃はずっと明るい場所で戦わされてムカついてたからな……。やっと全力で暴れられる!」
シャルルは言うまでもないが、バーゼと戦う係にガジュが割り当てられているのは、ユンから告げられたバーゼの隠れ家がガジュにとって最高のロケーションだからだ。
元は時計台らしい古びた巨塔。建築年数こそ長いがバーゼが住み着いているから定期的に補修が為され、建物自体に傷はない。加えて陰鬱な家主の性格が反映されているのだろう、窓は全て木板で塞がれ入口は一階の狭い扉のみ。近隣住民からは『幽霊塔』などと呼ばれているその場所は、【闇の王】の力を最大限発揮させてくれるはずだ。
ガジュ達が入り口の前に立ち、遥か上空に見える塔の先端を眺めているとどこからともなく声が響き始める。
「ふひひ……ちょこまかと面倒臭いドブネズミがここまで……。一体どれだけ秩序を乱せば気が済むんだ。愛すべき妹もいつの間にか正気に戻っているし……。お前らが引き連れてきたゴブリンの後始末をするのがどれだけ大変だったかも知らないで。」
「うるせぇ野郎だな。ゴブリンを倒したのはシャルルだし、現在進行形で街を直してるのはクルトの僕達だ。」
「そうだそうだ!どちらかというと文句を言う権利があるのは吾輩だからな!ふざけるなガジュめ!」
どこからしゃべっているのか知らないが、このネチョネチョした喋り方は間違いなくバーゼだ。ガジュは横で喚く悪の覇王の頭を押さえつけながら取り敢えず扉を睨み、シャルルが声を上げる。
「バーゼ!言っておきますがシャルは貴方のことを兄だとも家族だとも思っていません!貴方は秩序、シャルは正義!ただ己の信じるものを貫くだけ!そこに関係性などありません!」
「ふひっ。何を言ってるんだい?兄は妹を愛し、妹は兄を愛す。それが家族の中での秩序だろう?僕達は一度それに反したんだ、残った二人ぐらいは仲良くしようじゃないか。」
「黙れ黙れ!シャルルを一番愛してるのは吾輩だぁ!」
「……お前は一度黙れ。真面目な話をしているんだ。」
ガジュは掴んでいた頭を更に更に押し込み、喚き散らす悪の覇王を黙らせる。バーゼとシャルルは最早兄妹ではない。ただ信念を押し通すものとして二人は声を掛け合っていた。
「まぁ好きにしたらいいさ。ここは僕の根城で、その扉も特別製。中に入ることすら敵わないだろうからね。それじゃ、頑張るといいよ。ふひひっ!」
その言葉だけを残し、バーゼの声が途絶える。彼からすれば煽りであったのだろうが、ガジュに煽りは逆効果だ。ガジュは扉の前で拳を打ち鳴らし、全身の筋肉を震わせていく。
「みくびんじゃねぇぞクソカスがぁ!ユン!」
「またぶち上がってるよこの人は……。まぁいいや、頑張ってねガジュ!モヤモヤ!」
「っしゃおらぁ!」
ガジュの体をユンの魔法が包み込み、窮屈な暗闇の中から拳だけが露出する。それが扉に触れた途端、扉はおろか塔の一階部分が音を立てて崩壊していった。
「半分持ちますよクルト。ほら、そのを貸してください。」
「シャ、シャルルゥ!シャルルだけが、シャルルだけが吾輩の癒しだ!結婚してくれ!」
「それは嫌です。貴方は悪の覇王なんでしょう?正義と悪は相入れません。」
後方でグダグダとようやく再開した幼馴染二人が馴れ合うのを無視し、ガジュ達はユンを先頭にバーゼの隠れ家を目指していた。
『クリミナル』四名は完全なる臨戦態勢、そして最後尾の悪の覇王は荷物持ち。今日は着ぐるみではなく中の人が汗を流し、背負った袋は彼女の身の丈とほぼ変わらないサイズに膨れ上がっていた。
「おいガジュ!何故吾輩はこんな目に遭ってるんだ!シャルルを助けてくれたことには感謝するが、あまりにも説明不足だろ!もっと悪の覇王を労れ!」
「バーゼを倒すにはお前のパンが必要なんだよ。細かいことはわからんが、それが事実なことは間違いない。」
バーニュ家邸宅を出た後、ガジュ達が一番に向かったのはクルトから聞いていたイリシテア住民の避難場所であった。
ゴブリン達が暴れ回った中心街から少し離れた場所にある古びた教会。そこに集まっていた大量の住民達の中からクルトを見つけ出し、ありったけのチョココロネと共にバーゼ討伐へ同行させるためだ。
バーゼを倒すにあたって最も厄介なのは間違いなく奴の操り人形達だ。イリシテア住民達の一割ほどが避難場所から姿を消していたところからして、消えた住民達は皆バーゼの操り人形として奴の隠れ家に控えているのだろう。相手が一般人とあれば無闇に攻撃するわけにもいかない。出来ることはただ、パンを食べさせることだ。
「お前のパンはどうやら人の精神をリセットさせる力があるみたいだからな。キュキュとユン、それにクルトは三人で分担して、洗脳されている人々にチョココロネを食べさせろ。バーゼは、俺とシャルルで倒す。」
「はい。身内の悪は、今度こそ私が裁きます。」
そういってシャルルが腕に力を込める。アルカトラで持っていた棍棒も、バーゼに授けられた警棒もない。今彼女の右手にあるのは、クルトがパン作りで愛用しているめん棒だけだ。
そんな中、一同は気付けばイリシテア郊外へとたどり着き、先頭を歩いていたユンが急に足を止める。目の前にあるのは、一本の巨大な塔であった。
「お、ここだよここ。ほら見てよガジュ。ガジュが好きそうな暗い塔でしょ?」
「本当だな。近頃はずっと明るい場所で戦わされてムカついてたからな……。やっと全力で暴れられる!」
シャルルは言うまでもないが、バーゼと戦う係にガジュが割り当てられているのは、ユンから告げられたバーゼの隠れ家がガジュにとって最高のロケーションだからだ。
元は時計台らしい古びた巨塔。建築年数こそ長いがバーゼが住み着いているから定期的に補修が為され、建物自体に傷はない。加えて陰鬱な家主の性格が反映されているのだろう、窓は全て木板で塞がれ入口は一階の狭い扉のみ。近隣住民からは『幽霊塔』などと呼ばれているその場所は、【闇の王】の力を最大限発揮させてくれるはずだ。
ガジュ達が入り口の前に立ち、遥か上空に見える塔の先端を眺めているとどこからともなく声が響き始める。
「ふひひ……ちょこまかと面倒臭いドブネズミがここまで……。一体どれだけ秩序を乱せば気が済むんだ。愛すべき妹もいつの間にか正気に戻っているし……。お前らが引き連れてきたゴブリンの後始末をするのがどれだけ大変だったかも知らないで。」
「うるせぇ野郎だな。ゴブリンを倒したのはシャルルだし、現在進行形で街を直してるのはクルトの僕達だ。」
「そうだそうだ!どちらかというと文句を言う権利があるのは吾輩だからな!ふざけるなガジュめ!」
どこからしゃべっているのか知らないが、このネチョネチョした喋り方は間違いなくバーゼだ。ガジュは横で喚く悪の覇王の頭を押さえつけながら取り敢えず扉を睨み、シャルルが声を上げる。
「バーゼ!言っておきますがシャルは貴方のことを兄だとも家族だとも思っていません!貴方は秩序、シャルは正義!ただ己の信じるものを貫くだけ!そこに関係性などありません!」
「ふひっ。何を言ってるんだい?兄は妹を愛し、妹は兄を愛す。それが家族の中での秩序だろう?僕達は一度それに反したんだ、残った二人ぐらいは仲良くしようじゃないか。」
「黙れ黙れ!シャルルを一番愛してるのは吾輩だぁ!」
「……お前は一度黙れ。真面目な話をしているんだ。」
ガジュは掴んでいた頭を更に更に押し込み、喚き散らす悪の覇王を黙らせる。バーゼとシャルルは最早兄妹ではない。ただ信念を押し通すものとして二人は声を掛け合っていた。
「まぁ好きにしたらいいさ。ここは僕の根城で、その扉も特別製。中に入ることすら敵わないだろうからね。それじゃ、頑張るといいよ。ふひひっ!」
その言葉だけを残し、バーゼの声が途絶える。彼からすれば煽りであったのだろうが、ガジュに煽りは逆効果だ。ガジュは扉の前で拳を打ち鳴らし、全身の筋肉を震わせていく。
「みくびんじゃねぇぞクソカスがぁ!ユン!」
「またぶち上がってるよこの人は……。まぁいいや、頑張ってねガジュ!モヤモヤ!」
「っしゃおらぁ!」
ガジュの体をユンの魔法が包み込み、窮屈な暗闇の中から拳だけが露出する。それが扉に触れた途端、扉はおろか塔の一階部分が音を立てて崩壊していった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる