追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第四章 犯罪者共は学をつける

71.【測量】

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「脇が開きすぎだ。拳での殴り合いならともかく、敵はほぼ必ず君よりも間合いが広い。その事を認識した上で立ち回れ。」

 数日後の休日。ガジュ達『クリミナル』一行は、ヘサからの戦闘指導を受けていた。ガジュは当初生徒達を交えた乱戦を想定していたが、実際の創立祭では『カイオス』の面々との一騎打ちが行われる。その事実を聞き、ガジュは集団戦闘の作戦よりも、個人の戦闘力向上を念頭に置いて訓練を重ねる方針へと切り替えたのである。

 そしてその教官役をかって出たヘサの実力は、ガジュの想像を絶するものだった。

「おいヘサ……。お前は何でそんなに強いんだ。お前のスキル、碌なもんじゃないんだろ?」
「あぁ。私のスキルは【測量】。ただ相手の何となくの戦闘力がわかるというだけの力だ。ついでに言うと魔力も持っていない。」
「じゃあ何で……。」
「経験と知識だ。戦闘も心理も、全ては理論によって解説可能だ。常に考え続けること、それさえあれば強力なスキルも魔法も必要はない。」

 ここ数時間。ガジュはヘサと模擬戦のような事をしているが、ガジュはほんの一発も攻撃を当てられていない。スキルも魔法もなく、ただ身のこなしだけでガジュの拳は回避され、こちらが隙を見せれば素早く棒で叩かれる。派手さは全くないが、あまりにも確かな技術と戦闘力。これこそが、黒曜等級冒険者の実力ということだろう。

「よし。ではここらで一度休憩しよう。十分ほど経ったら新たな特訓に入る。ユン氏達にも課題を提示するから、私がガジュを見ている間はそれに取り組んでくれ。」
「げっ、僕らもやるの……。ガジュはハクアが相手だから頑張らなきゃいけないんだろうけど、僕らが頑張る必要ってある?そもそもが巻き込まれてるようなものなんだけど。」
「勿論だ。三名の魔族がこの街に潜入しているという話は以前したが、私の見立てでは奴らは必ず創立祭で何かしらの行動を起こしてくる。そうなった時、戦える人間は多い方がいい。」

 ハクアを叩きのめすことしか考えていないガジュと違い、ヘサはことある事に魔族の話をしている。近頃は魔族という名を聞く機会も多いが、結局の所どういう存在なのかはほとんど理解していない。それ故に、ガジュは体を休めつつヘサへと問いを投げかけていった。

「魔族ってのは……魔物とはまた違うのか?」
「以前話した通り、私も魔族の事は詳しく知らない。故に今から話すことはあくまでも私が遭遇した『チャリオット』からの推察に過ぎないが、奴らは魔物のように生物の形を取る存在ではない。もっと根源的な……魔力が人の形を成しているとでもいえばいいだろうか。」
「魔力が人の形を成す……?いまいち意味が分からないな。」
「私の仲間に【血の監視員ブラッド・レーダー】というスキルを持つ人間がいたんだ。血液などの生物特有の液体の気配を読み取れたんだが、『チャリオット』はそれに反応しなかった。加えて奴が私の仲間を殺して去って行く際、まるで霞のように消えていったんだ。恐らく奴らは固定の肉体というものを持っていない。奴らの言う契約、というのは即ち、契約者の体に入り込む事を意味しているのではないだろうか。」

 ヘサの推察を聞き、ガジュの頭にバーゼの顔が思い浮かぶ。バーゼは杯のようなものを口に入れ、その直後に容姿が大きく変わっていた。ヘサの話でいえば、あの杯に魔族が入っており、それをバーゼが体に取り込んだことで奴のスキルが強化されたという事だろうか。

「魔族がそんな曖昧な存在なら、何故ヘサはこの街に魔族がいるって確信しているの?それも三体も。」
「先ほど話した私のスキル、【測量】によるものだ。この力は戦闘に役に立たない代わりに、索敵範囲が広くてな。明確な位置までは分からないが『周囲にこれぐらい強い存在がこれだけいる』という程度の情報を得ることができるんだ。それによれば、この街の中には『チャリオット』と同等あるいはそれ以上に強い存在が三人いる。」
「ハクアとかじゃないのか?クソムカつくがあいつも黒曜等級だ。強いのは強いだろ。」
「『チャリオット』はその黒曜等級を三人殺しているんだ。私も冒険者として色々な人物や魔物に会ってきたが、奴ら魔族は桁違いに強い。この反応は、間違いなく魔族のものだ。」

 語気の強さからして、ヘサの【測量】は相当確かなものなのだろう。細かい仕様はガジュの知るところではないが、その正確性だけは信頼してもよさそうだ。ハクアよりも、自分よりも、ヘサよりも、ずっと強い存在が三匹。復讐者としてではなく冒険者としての魂が揺れ動き、ガジュは立ち上がる。

「まぁ、それなら尚更、ハクアなんざに負けてはいられないな。特訓を再開してくれ。」
「あぁ。その前に他の三人に指示を出そう。キュキュ氏。」
「は、はい!な、何でしょうか……。」
「君の事情は聞いている。君に今一番必要な事は自身のコントロールだ。ユン氏に相手をして貰い、第二人格と第三人格を自分のものにしてくれ。完全に操れなくてもいい、とにかく人格が変わっても自我を保つことに注力するんだ。」
「えっ!ってことは僕、あの狂ったキュキュちゃんを相手しなきゃいけないの!?めんどくさっ!」
「君なら可能だと、私の【測量】が告げている。任せたぞ。」

 人格のコントロール。確かにそれが出来るようになればキュキュは爆発的な戦闘力を得ることが出来るだろうが、あまりにも荒療治ではないだろうか。ガジュがそんな口を挟む暇もなく、ヘサは指示を出し続けていく。

「次にシャルル氏。君はスキルの優秀さに反して、基礎的な身体能力が低すぎる。言うことは特にない。ただ、筋力トレーニングをしてくれ。」
「分かりました。シャルとしてもそこは改善すべきと思っていましたので、努力します。」

 シャルルは極めて従順にヘサに頭を下げ、素早く腹筋を開始する。ヘサの言う通り、シャルルは十三歳という年齢を考慮しても貧弱である。【投獄】は相手に触れるだけで発動できるから、シャルル自身の機動力が増加するだけで大幅な戦力増になるだろう。そしていよいよ、ヘサはガジュの訓練内容を言い渡していく。

「ガジュ氏は引き続き、私との戦闘だ。ただし今度はこんな晴天の広場ではない。光一つ刺さない暗闇の中で、私に一矢報いてみるといいい。」

 堅苦しい口角を少し上げ、ヘサはまるで侮るような表情でガジュを見つめていた。
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