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第四章 犯罪者共は学をつける
70.黒曜等級
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「私の名前はヘイサーレン・アルバストラ。長いからヘサとでも呼ぶといい。黒曜等級冒険者として、君達昼コースの特別講師を任された人間だ。以降よろしく頼む。」
ヘサがペラペラと話し、頭を下げる。ルウシェはともかく、黒曜等級ともあろう人間が銀等級のガジュ達にまで頭を下げるとはなんとも礼儀の正しい話だが、容姿からして彼はそういう性格なのであろう。
ユンと変わらない程度の小さな背丈と厳しい目つき。誰がどう見ても堅物の学者タイプ。脳みそ空っぽのガジュと話すには、少し賢すぎるぐらいだ。
「君達が例の『クリミナル』一行か。案内役の子供から話は聞いている。」
「子供って言うな!吾輩は悪の覇王だ!」
「悪の覇王……?何だ君はその見た目で何か悪行を働いているのか?そうであれば直ちに然るべき機関へ連絡しなければ。ルウシェ、この街の警察組織はまだベリオット騎士団のままか。」
「そうだけど、覇王君のことは気にしなくて大丈夫さ。彼女はただ私に美味しいパンを届けてくれる至高のパン屋さんなだけだから。」
素早くクルトから距離を取り、彼女の対処を真面目に考え始めるヘサ。どうやらガジュの見立ては間違っていなかったらしい。ヘサはクルトが安全だとわかるとすぐに視線を彼女から外し、ガジュ達『クリミナル』の面々の顔を眺めていく。
「年端もいかない少女二人に、獣人、それと君は元金剛等級だったか。実に無茶苦茶なメンバーだな。」
「悪いかよ。こっちはこの面子でここまで来たんだ。お前に文句を言われる筋合いはない。」
「いや、馬鹿にしているわけではないんだ。アルカトラの一件以降獣人への扱いが変わったことも知っているし、そもそも私は人を能力でしか判断しない主義だ。不快にさせたのであれば謝ろう。すまなかった。クルト氏も、子供扱いして申し訳ない。」
謝り方までも真面目。綺麗に折り曲げられたヘサの背中を見て、ガジュの背筋も姿勢も自然に正されていく。何とも居心地が悪いが、彼は仮にもこちらの味方になる存在。ハクアを倒すためであれば誰の力でも借りるべきだろう。
「と、とにかく。クルトからどこまで聞いたか知らないが、俺は何としても今度の創立祭に勝たなくてはならないんだ。どうすれば勝てると思う。お前の力を貸してくれ。」
「クルト氏が知っている情報はほぼ聞いている。結論から話すが、君の目標を果たすのであれば創立祭に勝つ必要はない。創立祭はそもそも生徒の実践的訓練を目的に行われるイベントだ。それ故に生徒は生徒、そして手本を示す側の教員達は教員同士で戦うことになる。ハクア氏を倒したいのであれば、君が一人で頑張ればいいだけだ。」
ルウシェとは違って実に簡潔な説明が為され、ヘサはゆっくりと手近な椅子に腰掛ける。
「本来であれば特別講師同士が戦い、黒曜等級の戦闘を生徒に見せつけるのだがな、今回に関しては君にその役目を譲ろう。教員達は私とルウシェ他教師陣で引き受ける。君達『クリミナル』は私の代わりに『カイオス』のメンバーと戦いたまえ。」
「随分物分かりがいいんだな。俺としてはありがたいが、特別講師として呼ばれた立場でそんな勝手なことをしていいのか?」
「事情が事情だからな。そもそも私が『カイオス』の相手をするということが不可能なんだ。生徒達のことを考えても、君達が戦った方がいい手本となれるだろう。私一人では、ただ蹂躙されるだけでなんの手本にもなれない。」
黒曜等級冒険者による特別講師枠は、パーティ単位での参加である。森で出会ったのはハクアだけだったが、街にはレザやラナーナ、新顔のジュノの姿もあった。夜コース側は間違いなく『カイオス』総出で祭りに参加するはずだが、こちらは何故かヘサ一人。ガジュは疑問をぶつけていく。
「お前の仲間はどこに行ったんだ。黒曜等級になったってことはしっかりと四人メンバーがいるはずだろ。」
「私以外は皆死んだ。それもつい最近。まだ手続きが済んでいないから黒曜等級のままだが、直に協会から通達が来て私は金剛に格下げされるだろう。」
「死んだ!?黒曜等級冒険者ともあろうものが四分の三死んだのかよ!?」
「あぁ、君達は魔族という存在を知っているか?」
黒曜等級は、生ける伝説とも言える存在だ。そんな奴等が圧倒される事態など殆ど存在せず、ガジュの記憶が正しければ冒険者協会設立以降黒曜等級冒険者が依頼中に戦死した例はなかったはずである。
ガジュが驚愕していると、眠りこけていたユンがいつの間にか目を覚まし、ヘサに詰め寄っていた。彼の放った言葉は、それだけの意味を持ち合わせている。
「魔族、魔族に会ったの!?僕らも最近魔族の存在を知ったんだけど、いくら本を読んでも情報が出てこないんだ!教えて!魔族って一体何なのさ!」
イリシテアでの一件では色々と謎が残ってしまったが、おそらく最大の謎はこの魔族という単語だ。これまで戦ってきた魔物とは別格の未知なる存在。そこまでは何となく見当がついているが、その先は不明瞭であり、ユンなどは躍起になってその正体を探っている。
凄まじい勢いで問い詰めてきたユンに怯むこともなく、ヘサは淡々と言葉を紡いでいった。
「ふむ、君達も会ったのか。私も詳しい事は知らないが、私が出会った個体はチャリオットと名乗っていた。仲間を手早く殺害した後、私に対して『我が憎いか。ならば復讐のために力を求めろ。さすれば我は契約に現れる。』とだけ言い残して去っていった。それ以上の事は私も把握していない。」
「契約……。なるほど、やはり魔族ってのは人と契約して力を与える存在なのかな。僕らが出会った男は魔族と契約した人間だった。本人の名前はバーゼだけど、契約してた魔族の名前もどこかで言っていたのかな……。」
ユンは常に知識欲に満ちている。それ故に魔族という正体不明の存在がずっと気になっていたのだろう。ヘサの話を頭の中で噛み砕き、ゆっくりと歩きながら思索に耽り始める。一同がそのスピード感に圧倒される中、シャルルが口を開く。
「で、どうしてヘサはそんな状況で特別講師をしに来たんですか。冒険者協会と連帯したり、新たな仲間を探したりする事の方が先決では?」
「そんな事は私も分かっている。だが、ここに来る必要があったんだ。私の情報が正しければ、ここベリオットには現在三名の魔族が潜入している。」
その言葉と共にヘサの目の色が変わり、ガジュはその瞳に共感を覚えていた。間違いない、この男は自分と同じ、復讐に駆られる男だ。
ヘサがペラペラと話し、頭を下げる。ルウシェはともかく、黒曜等級ともあろう人間が銀等級のガジュ達にまで頭を下げるとはなんとも礼儀の正しい話だが、容姿からして彼はそういう性格なのであろう。
ユンと変わらない程度の小さな背丈と厳しい目つき。誰がどう見ても堅物の学者タイプ。脳みそ空っぽのガジュと話すには、少し賢すぎるぐらいだ。
「君達が例の『クリミナル』一行か。案内役の子供から話は聞いている。」
「子供って言うな!吾輩は悪の覇王だ!」
「悪の覇王……?何だ君はその見た目で何か悪行を働いているのか?そうであれば直ちに然るべき機関へ連絡しなければ。ルウシェ、この街の警察組織はまだベリオット騎士団のままか。」
「そうだけど、覇王君のことは気にしなくて大丈夫さ。彼女はただ私に美味しいパンを届けてくれる至高のパン屋さんなだけだから。」
素早くクルトから距離を取り、彼女の対処を真面目に考え始めるヘサ。どうやらガジュの見立ては間違っていなかったらしい。ヘサはクルトが安全だとわかるとすぐに視線を彼女から外し、ガジュ達『クリミナル』の面々の顔を眺めていく。
「年端もいかない少女二人に、獣人、それと君は元金剛等級だったか。実に無茶苦茶なメンバーだな。」
「悪いかよ。こっちはこの面子でここまで来たんだ。お前に文句を言われる筋合いはない。」
「いや、馬鹿にしているわけではないんだ。アルカトラの一件以降獣人への扱いが変わったことも知っているし、そもそも私は人を能力でしか判断しない主義だ。不快にさせたのであれば謝ろう。すまなかった。クルト氏も、子供扱いして申し訳ない。」
謝り方までも真面目。綺麗に折り曲げられたヘサの背中を見て、ガジュの背筋も姿勢も自然に正されていく。何とも居心地が悪いが、彼は仮にもこちらの味方になる存在。ハクアを倒すためであれば誰の力でも借りるべきだろう。
「と、とにかく。クルトからどこまで聞いたか知らないが、俺は何としても今度の創立祭に勝たなくてはならないんだ。どうすれば勝てると思う。お前の力を貸してくれ。」
「クルト氏が知っている情報はほぼ聞いている。結論から話すが、君の目標を果たすのであれば創立祭に勝つ必要はない。創立祭はそもそも生徒の実践的訓練を目的に行われるイベントだ。それ故に生徒は生徒、そして手本を示す側の教員達は教員同士で戦うことになる。ハクア氏を倒したいのであれば、君が一人で頑張ればいいだけだ。」
ルウシェとは違って実に簡潔な説明が為され、ヘサはゆっくりと手近な椅子に腰掛ける。
「本来であれば特別講師同士が戦い、黒曜等級の戦闘を生徒に見せつけるのだがな、今回に関しては君にその役目を譲ろう。教員達は私とルウシェ他教師陣で引き受ける。君達『クリミナル』は私の代わりに『カイオス』のメンバーと戦いたまえ。」
「随分物分かりがいいんだな。俺としてはありがたいが、特別講師として呼ばれた立場でそんな勝手なことをしていいのか?」
「事情が事情だからな。そもそも私が『カイオス』の相手をするということが不可能なんだ。生徒達のことを考えても、君達が戦った方がいい手本となれるだろう。私一人では、ただ蹂躙されるだけでなんの手本にもなれない。」
黒曜等級冒険者による特別講師枠は、パーティ単位での参加である。森で出会ったのはハクアだけだったが、街にはレザやラナーナ、新顔のジュノの姿もあった。夜コース側は間違いなく『カイオス』総出で祭りに参加するはずだが、こちらは何故かヘサ一人。ガジュは疑問をぶつけていく。
「お前の仲間はどこに行ったんだ。黒曜等級になったってことはしっかりと四人メンバーがいるはずだろ。」
「私以外は皆死んだ。それもつい最近。まだ手続きが済んでいないから黒曜等級のままだが、直に協会から通達が来て私は金剛に格下げされるだろう。」
「死んだ!?黒曜等級冒険者ともあろうものが四分の三死んだのかよ!?」
「あぁ、君達は魔族という存在を知っているか?」
黒曜等級は、生ける伝説とも言える存在だ。そんな奴等が圧倒される事態など殆ど存在せず、ガジュの記憶が正しければ冒険者協会設立以降黒曜等級冒険者が依頼中に戦死した例はなかったはずである。
ガジュが驚愕していると、眠りこけていたユンがいつの間にか目を覚まし、ヘサに詰め寄っていた。彼の放った言葉は、それだけの意味を持ち合わせている。
「魔族、魔族に会ったの!?僕らも最近魔族の存在を知ったんだけど、いくら本を読んでも情報が出てこないんだ!教えて!魔族って一体何なのさ!」
イリシテアでの一件では色々と謎が残ってしまったが、おそらく最大の謎はこの魔族という単語だ。これまで戦ってきた魔物とは別格の未知なる存在。そこまでは何となく見当がついているが、その先は不明瞭であり、ユンなどは躍起になってその正体を探っている。
凄まじい勢いで問い詰めてきたユンに怯むこともなく、ヘサは淡々と言葉を紡いでいった。
「ふむ、君達も会ったのか。私も詳しい事は知らないが、私が出会った個体はチャリオットと名乗っていた。仲間を手早く殺害した後、私に対して『我が憎いか。ならば復讐のために力を求めろ。さすれば我は契約に現れる。』とだけ言い残して去っていった。それ以上の事は私も把握していない。」
「契約……。なるほど、やはり魔族ってのは人と契約して力を与える存在なのかな。僕らが出会った男は魔族と契約した人間だった。本人の名前はバーゼだけど、契約してた魔族の名前もどこかで言っていたのかな……。」
ユンは常に知識欲に満ちている。それ故に魔族という正体不明の存在がずっと気になっていたのだろう。ヘサの話を頭の中で噛み砕き、ゆっくりと歩きながら思索に耽り始める。一同がそのスピード感に圧倒される中、シャルルが口を開く。
「で、どうしてヘサはそんな状況で特別講師をしに来たんですか。冒険者協会と連帯したり、新たな仲間を探したりする事の方が先決では?」
「そんな事は私も分かっている。だが、ここに来る必要があったんだ。私の情報が正しければ、ここベリオットには現在三名の魔族が潜入している。」
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