追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

文字の大きさ
71 / 124
第四章 犯罪者共は学をつける

70.黒曜等級

しおりを挟む
「私の名前はヘイサーレン・アルバストラ。長いからヘサとでも呼ぶといい。黒曜等級冒険者として、君達昼コースの特別講師を任された人間だ。以降よろしく頼む。」

 ヘサがペラペラと話し、頭を下げる。ルウシェはともかく、黒曜等級ともあろう人間が銀等級のガジュ達にまで頭を下げるとはなんとも礼儀の正しい話だが、容姿からして彼はそういう性格なのであろう。

 ユンと変わらない程度の小さな背丈と厳しい目つき。誰がどう見ても堅物の学者タイプ。脳みそ空っぽのガジュと話すには、少し賢すぎるぐらいだ。

「君達が例の『クリミナル』一行か。案内役の子供から話は聞いている。」
「子供って言うな!吾輩は悪の覇王だ!」
「悪の覇王……?何だ君はその見た目で何か悪行を働いているのか?そうであれば直ちに然るべき機関へ連絡しなければ。ルウシェ、この街の警察組織はまだベリオット騎士団のままか。」
「そうだけど、覇王君のことは気にしなくて大丈夫さ。彼女はただ私に美味しいパンを届けてくれる至高のパン屋さんなだけだから。」

 素早くクルトから距離を取り、彼女の対処を真面目に考え始めるヘサ。どうやらガジュの見立ては間違っていなかったらしい。ヘサはクルトが安全だとわかるとすぐに視線を彼女から外し、ガジュ達『クリミナル』の面々の顔を眺めていく。

「年端もいかない少女二人に、獣人、それと君は元金剛等級だったか。実に無茶苦茶なメンバーだな。」
「悪いかよ。こっちはこの面子でここまで来たんだ。お前に文句を言われる筋合いはない。」
「いや、馬鹿にしているわけではないんだ。アルカトラの一件以降獣人への扱いが変わったことも知っているし、そもそも私は人を能力でしか判断しない主義だ。不快にさせたのであれば謝ろう。すまなかった。クルト氏も、子供扱いして申し訳ない。」

 謝り方までも真面目。綺麗に折り曲げられたヘサの背中を見て、ガジュの背筋も姿勢も自然に正されていく。何とも居心地が悪いが、彼は仮にもこちらの味方になる存在。ハクアを倒すためであれば誰の力でも借りるべきだろう。

「と、とにかく。クルトからどこまで聞いたか知らないが、俺は何としても今度の創立祭に勝たなくてはならないんだ。どうすれば勝てると思う。お前の力を貸してくれ。」
「クルト氏が知っている情報はほぼ聞いている。結論から話すが、君の目標を果たすのであれば創立祭に勝つ必要はない。創立祭はそもそも生徒の実践的訓練を目的に行われるイベントだ。それ故に生徒は生徒、そして手本を示す側の教員達は教員同士で戦うことになる。ハクア氏を倒したいのであれば、君が一人で頑張ればいいだけだ。」

 ルウシェとは違って実に簡潔な説明が為され、ヘサはゆっくりと手近な椅子に腰掛ける。

「本来であれば特別講師同士が戦い、黒曜等級の戦闘を生徒に見せつけるのだがな、今回に関しては君にその役目を譲ろう。教員達は私とルウシェ他教師陣で引き受ける。君達『クリミナル』は私の代わりに『カイオス』のメンバーと戦いたまえ。」
「随分物分かりがいいんだな。俺としてはありがたいが、特別講師として呼ばれた立場でそんな勝手なことをしていいのか?」
「事情が事情だからな。そもそも私が『カイオス』の相手をするということが不可能なんだ。生徒達のことを考えても、君達が戦った方がいい手本となれるだろう。私一人では、ただ蹂躙されるだけでなんの手本にもなれない。」

 黒曜等級冒険者による特別講師枠は、パーティ単位での参加である。森で出会ったのはハクアだけだったが、街にはレザやラナーナ、新顔のジュノの姿もあった。夜コース側は間違いなく『カイオス』総出で祭りに参加するはずだが、こちらは何故かヘサ一人。ガジュは疑問をぶつけていく。

「お前の仲間はどこに行ったんだ。黒曜等級になったってことはしっかりと四人メンバーがいるはずだろ。」
「私以外は皆死んだ。それもつい最近。まだ手続きが済んでいないから黒曜等級のままだが、直に協会から通達が来て私は金剛に格下げされるだろう。」
「死んだ!?黒曜等級冒険者ともあろうものが四分の三死んだのかよ!?」
「あぁ、君達は魔族という存在を知っているか?」

 黒曜等級は、生ける伝説とも言える存在だ。そんな奴等が圧倒される事態など殆ど存在せず、ガジュの記憶が正しければ冒険者協会設立以降黒曜等級冒険者が依頼中に戦死した例はなかったはずである。
 ガジュが驚愕していると、眠りこけていたユンがいつの間にか目を覚まし、ヘサに詰め寄っていた。彼の放った言葉は、それだけの意味を持ち合わせている。

「魔族、魔族に会ったの!?僕らも最近魔族の存在を知ったんだけど、いくら本を読んでも情報が出てこないんだ!教えて!魔族って一体何なのさ!」

 イリシテアでの一件では色々と謎が残ってしまったが、おそらく最大の謎はこの魔族という単語だ。これまで戦ってきた魔物とは別格の未知なる存在。そこまでは何となく見当がついているが、その先は不明瞭であり、ユンなどは躍起になってその正体を探っている。
 凄まじい勢いで問い詰めてきたユンに怯むこともなく、ヘサは淡々と言葉を紡いでいった。

「ふむ、君達も会ったのか。私も詳しい事は知らないが、私が出会った個体はチャリオットと名乗っていた。仲間を手早く殺害した後、私に対して『我が憎いか。ならば復讐のために力を求めろ。さすれば我は契約に現れる。』とだけ言い残して去っていった。それ以上の事は私も把握していない。」
「契約……。なるほど、やはり魔族ってのは人と契約して力を与える存在なのかな。僕らが出会った男は魔族と契約した人間だった。本人の名前はバーゼだけど、契約してた魔族の名前もどこかで言っていたのかな……。」

 ユンは常に知識欲に満ちている。それ故に魔族という正体不明の存在がずっと気になっていたのだろう。ヘサの話を頭の中で噛み砕き、ゆっくりと歩きながら思索に耽り始める。一同がそのスピード感に圧倒される中、シャルルが口を開く。

「で、どうしてヘサはそんな状況で特別講師をしに来たんですか。冒険者協会と連帯したり、新たな仲間を探したりする事の方が先決では?」
「そんな事は私も分かっている。だが、ここに来る必要があったんだ。私の情報が正しければ、ここベリオットには現在三名の魔族が潜入している。」

 その言葉と共にヘサの目の色が変わり、ガジュはその瞳に共感を覚えていた。間違いない、この男は自分と同じ、復讐に駆られる男だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...