追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

文字の大きさ
96 / 124
第五章 囚人と奴隷は紙一重

95.悪の覇王の威光

しおりを挟む
「お前ら……何やってんだ?」

 延々と泣きじゃくるキュキュとなだめるシャルル、タリ。【狂化】されていた時のことを嬉々として語るクルトに、それを適当に聞き流すユン。そしてその後ろに一切の興味を無くして安らかに眠るノア。
 ガジュを取り巻く変人達が思い思いの行動を取り、そこに丁度人一人分の影が落ちる。

 檻に体重を欠け、こちらを睨みつける長身の女。胸が大きいから女と判断したが、その体にはガジュと同レベルの筋肉が隆起している。
 騒ぎを聞きつけて様子を見に来た奴隷商人の仲間だろうか。そう判断してガジュが拳を握ると、悪の覇王が背後から駆け抜けていった。

「アスパー!!!久々だな!遅すぎて待ちくたびれたぞ!」
「おう、覇王様。今日も元気で喜ばしいこった。そこの奴らが例のお仲間かい?」
「うむ!ガジュ、紹介しよう!この女が吾輩の一番弟子!アスパ・エシアだ!」
「どうぞ、よろしく。」

 潜入を手伝ってくれる協力者であり奴隷商人との付き合いがある女、クルトからそう聞いていたからある程度見た目は想像していたが、やってきた女はガジュの想像からだいぶズレていた。
 ガジュは永遠にパンを食べているような金持ちの夫人を思い描いていたが、アスパは真逆と言っても良いだろう。筋肉を露出した荒々しい格好と、耳に腹、後は舌に付けられたピアス達。見えている肌のほとんどにはタトゥーが刻まれ、彼女の見た目はどうみても悪人のそれである。

「えーと覇王様。あたしが買わなきゃいけない奴隷ってのは何人だい?」
「そこの筋肉馬鹿と変人とネガティブと超絶可愛いシャルルと恋愛脳と……せっかくだしそこの優しそうなお姉さんも来るか?」
「え、いや私はいいよ。おばちゃん達を放置するわけにもいかないしね。」
「はっ、じゃあそのおばちゃん達も含めて全員私が買ってやるよ。覇王様の知り合いなら大歓迎だ。六人も六十人も変わんねぇ、全員あたしのとこに来な。どうせうちは大量に人手を欲してるんだ。」
「流石アスパ!気前がいいな!」

 ほぼ幼女というべき見た目のクルトとアウトサイダーなアスパ。歪な見た目の二人が互いを讃えあい、勝手に話が進んでいく。その横で、シャルルが一人腹を立てていた。

「そもそもの話なんですが、この人は一体何者なんですか。奴隷を買う人なんてろくでもないですよね。シャル達だけならともかく、その口ぶりだと普段から奴隷を購入しているようです。果たしてその人は……正義なんですか。」
「残念ながらまごうことなき悪人だよ。馬車馬のように奴隷を働かせ、この街に薬物を蔓延らせた。なんならこの街を無法地帯にしたのも、奴隷制度を設けたのも、全部あたしの仕業さ。」
「なるほど、話は分かりました。正義と誇りにかけて、貴方を裁きます。」

 正義の化身が久々に牙を剥き、檻の中に棍棒が空を切る音が響き始める。
 ここでシャルルが【投獄】でアスパを何処かへやってしまえば、自分達はこのまま奴隷にされてしまう。一同がそう考えて動き出そうとした時、シャルルより早くクルトがアスパの腹を殴っていた。

「こらアスパ!シャルルをからかうんじゃない!アスパが悪人だったのはもう何年も前の事だろ!」
「はは、悪い悪い。覇王様が前から溺愛していたシャルルちゃんに出会ったからさぁ。ちょっと嫉妬しちゃったんだよ。許してくれ。」
「ごめんなぁシャルル。アスパは確かに悪人だが、もうとっくに改心してるんだ。今はもう悪いことは一切せず、自警団をやってる。」
「あぁ、そうだよ。この覇王様に感化されたんだ。ある日突然ガキがパンを売りに来たと思ったら、しばらく街に居座って孤児の面倒を見始めてね。あたしに貧しいものの正しい生き方ってのを教えてくれた。」
「ふふん。止めないかアスパ。吾輩は当然のことをしたまでよ。それを見習って善行を積み始めたアスパの方がずっと良い奴だぞ!」
「あー本当覇王様はいい子だねぇ!」

 アスパが大きな腕でクルトを抱きしめ、肩の力が一気に緩む。
 ガジュ含めいつもの面々ははクルトのことを完全に舐めきっているが、たまにその認識を改めるべきかと一向するべきかと思う時がある。元々イリシテアでも慈善活動をしていたからある程度影響力があることは知っていたが、まさかこの街にまでその威光が及んでいようとは。

「とにかく、今のあたしはまともに生きてるよ。人を集めてるのも、自分が悪化させたこの街の治安を取り戻すため。買った奴隷にもしっかり給料を与えて、希望する奴は自宅に帰らせてる。」
「奴隷の解放と自警団の雇用を兼ねてるわけか。中々いい活動だね。」
「まぁこのやり方だと奴隷商人に金が入るから、根本的な解決にはならないんだけどな。ご理解いただけたかい?シャルルちゃん?」
「理解しました。過去の行いを悔い改めることは良い事です。最後まで話を聞かずに激昂してすみません。」
「はは、流石覇王様のお友達だ。いい子だね。」

 檻の鍵を開けて中に入ってきたアスパがシャルルの頭を撫で、力一杯抱きしめる。その横でクルトが閉じ込められていた奴隷達を引き連れて外に出て行き、檻の中にはガジュ達数人だけが残されていた。

「あんたさっきからほとんど話してないが、大丈夫かい?」
「あぁ気にしなくて大丈夫だよ。うちのガジュは知らない女の人が現れるといつも黙るから。筋肉馬鹿すぎて女性に耐性がないんだよ。」
「嬉しいねぇ。あたしみたいなのをちゃんと女と認識してくれてるのかい。こんな可愛い女の子達が周りにいるっていうのに、ありがたいことだ。」

 この女は抱きつき癖でもあるのだろうか。ゆっくりとガジュに近づき、そのまま腕の中へ体を引き寄せてくる。触れる胸板は筋肉で守らながらも柔らかさを残しており、首に触れる息と合わせて、ガジュの思考を簡単に停止させていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...