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第五章 囚人と奴隷は紙一重
94.難解な過去
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「キュキュ自身が別人格と会話出来るなら、俺らとも出来るよな。おいユン、しっかり抑えとけよ。」
キュキュの別人格の中で、第二人格は最も凶悪だ。ただ暴れるだけの第三人格と違い、第二人格は人を操るという形で人に明確に被害を与える。あの強力な力をキュキュ自身の意思で使えたらどれほど便利なことか。
ガジュはずっとそう考えていたが、その実験を行うタイミングとして今は最高のタイミングだろう。【狂化】で操られても全く問題ないクルト、初めて発現した際のキーマンであるタリ、この二人が揃うタイミングなど早々ないはずだ。
「圧迫、抑圧、反抗!私のような愚か者を拘束するなど何たることか!尊たる人間とは思えない!」
「うわぁー!助けてくれガジュ!体が、吾輩の体が勝手に動く!!!」
「確かこっちの人格は自分の存在を全力で否定して、亜人と魔物を殺そうとするんだったか。おいシャルル、近くにいる亜人達を一応離れさせておいてくれ。」
「分かりました。所詮は獄中ですから限界はありますが、出来る限りやってきます。」
足元でジタバタしているクルトには目もくれず、ガジュはシャルルに指示を出す。
はっきりとは分かっていないが、クルトのスキルは美味しいパンを作れるだけの力。元々の身体能力も子供並みであるし、普段がああいうテンションだから犠牲にする罪悪感もない。こいつが【狂化】で暴れたところで何の影響もないはずだ。
ガジュはクルトを押さえ付けたまま、第二人格との対話に挑戦していく。
「おいキュキュ!一旦落ち着いてこいつの顔を見ろ。記憶にあるか?お前に初めて優しくしてくれたお姉さんだ。」
「認知、把握、追想!我に癒しを与えし忌まわしき存在!薄暗き監獄に光をもたらした、恨みべき女!」
「薄暗き監獄ってことはお前アルカトラの記憶があるのか。監獄にいる間ずっと第二人格だった、あるいはシンプルに主人格が面に出てる間の事を言ってるのか?タリ、アルカトラで話したキュキュはどういうテンションだった。」
「えぇ……?んー確か結構明るかったよ?最初は暗かったけど、ある日突然心を開いたみたいにハキハキしだした気がする。」
「となると第二人格の状態でそこそこの時間を過ごしてるのか。」
アルカトラに送られた時は主人格、そしてタリに出会って優しくされた事で第二人格へと切り替わり、しばらくの間第二人格が獄中で生活を送った。
ガジュが想像したこのストーリーが正しければ、第二人格は思ったより常識のある存在だ。どこかのタイミングで狂っただけで、監獄の中での生活を送れるぐらいには社会性を有している。
「おいキュキュ。お前はタリに一体何をしたんだ。殴ったのか?傷つけたのか?」
「義務、命令、従順。我はただ周囲の指示を聞いたのみ。我のような愚か者に反抗する権利はない!」
「何だか謎解きゲームでも遊んでるような気分だね。けどそういう話ならやっぱりタリは【狂化】で操られたんじゃない?血まみれだったのは……何でだろ。」
「血の件なら、多分私の血でも他の囚人の人の血でもないと思うよ。私達誰も怪我してなかったし、医務室に運ばれたのも疲労による鈍痛が理由って聞いた覚えがあるし。」
「じゃあ、キュキュちゃんの血?暴れたのもキュキュちゃんで血を流したのもキュキュちゃんって……どゆこと?誰かと戦いでもしないと、血なんて出なくない?」
「キュキュが凶暴化したタリと戦ったんじゃないでしょうか。自身の尻拭いをするために。」
どうにもこの手の思考が苦手なガジュが黙りこくっていると、シャルルが後ろから声をかけてくる。やはりこの手の事を考えるのはシャルルが一番向いている。真偽は定かでないにしろ、確かな理論を有している様子のシャルルに全てを託し、ガジュは改めて口をつぐんだ。
「当時比較的穏便だった第二人格は、周囲からの期待に応えるためスキルを発動。よく触れ合っていたタリを対象に【狂化】が発動され、タリは暴れ始めた。狂ってしまった最愛の人と、同じく狂ってしまった自分を止めるため、キュキュはキュキュ自身と戦った。これが順当なシナリオだと思います。」
「最近のキュキュちゃんの手によって二つの人格が同時に行動できることは証明されたしね。アルカトラにいた頃にもそれが出来ていたってことか。」
「じゃあ私はキュキュちゃんに守られたってこと?」
「まぁありていに言えばそうですね。だからそもそも、キュキュが土下座する必要なんて無いんですよ。主人格は極めて正当な行いをしていますし、第二人格も多少気が動転しただけで何の罪も犯していません。」
シャルルの語る話が本当かどうかは誰にも分からない。キュキュは自身の行いを変な方向に解釈するし、タリは【狂化】で操られた影響か何も覚えていない。だが覚えていないからこそいいのだろう。シャルルの論法は真実を突き止めるためのものではない。ただシンプルに第二人格を落ち着かせるための論法だ。
果たして第二人格のコントロールは可能なのか。その結果をガジュが固唾を飲んで見守っていると、真下の覇王が再び喚き出す。
「おいガジュ!動く!動くぞ!吾輩のプリティーな体が、元に戻った!」
「謝罪、感謝、自責……。うっ……我は我はぁぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁぁん!!!!」
子供のように泣きじゃくるキュキュと、場違いに小躍りするクルト。これで第二人格をコントロールした、そう言っていいのか悩ましいが、無力化したことは間違いないだろう。
タリやシャルルがキュキュの涙を拭いている間に、ガジュ達の檻には本題が迫っていた。
キュキュの別人格の中で、第二人格は最も凶悪だ。ただ暴れるだけの第三人格と違い、第二人格は人を操るという形で人に明確に被害を与える。あの強力な力をキュキュ自身の意思で使えたらどれほど便利なことか。
ガジュはずっとそう考えていたが、その実験を行うタイミングとして今は最高のタイミングだろう。【狂化】で操られても全く問題ないクルト、初めて発現した際のキーマンであるタリ、この二人が揃うタイミングなど早々ないはずだ。
「圧迫、抑圧、反抗!私のような愚か者を拘束するなど何たることか!尊たる人間とは思えない!」
「うわぁー!助けてくれガジュ!体が、吾輩の体が勝手に動く!!!」
「確かこっちの人格は自分の存在を全力で否定して、亜人と魔物を殺そうとするんだったか。おいシャルル、近くにいる亜人達を一応離れさせておいてくれ。」
「分かりました。所詮は獄中ですから限界はありますが、出来る限りやってきます。」
足元でジタバタしているクルトには目もくれず、ガジュはシャルルに指示を出す。
はっきりとは分かっていないが、クルトのスキルは美味しいパンを作れるだけの力。元々の身体能力も子供並みであるし、普段がああいうテンションだから犠牲にする罪悪感もない。こいつが【狂化】で暴れたところで何の影響もないはずだ。
ガジュはクルトを押さえ付けたまま、第二人格との対話に挑戦していく。
「おいキュキュ!一旦落ち着いてこいつの顔を見ろ。記憶にあるか?お前に初めて優しくしてくれたお姉さんだ。」
「認知、把握、追想!我に癒しを与えし忌まわしき存在!薄暗き監獄に光をもたらした、恨みべき女!」
「薄暗き監獄ってことはお前アルカトラの記憶があるのか。監獄にいる間ずっと第二人格だった、あるいはシンプルに主人格が面に出てる間の事を言ってるのか?タリ、アルカトラで話したキュキュはどういうテンションだった。」
「えぇ……?んー確か結構明るかったよ?最初は暗かったけど、ある日突然心を開いたみたいにハキハキしだした気がする。」
「となると第二人格の状態でそこそこの時間を過ごしてるのか。」
アルカトラに送られた時は主人格、そしてタリに出会って優しくされた事で第二人格へと切り替わり、しばらくの間第二人格が獄中で生活を送った。
ガジュが想像したこのストーリーが正しければ、第二人格は思ったより常識のある存在だ。どこかのタイミングで狂っただけで、監獄の中での生活を送れるぐらいには社会性を有している。
「おいキュキュ。お前はタリに一体何をしたんだ。殴ったのか?傷つけたのか?」
「義務、命令、従順。我はただ周囲の指示を聞いたのみ。我のような愚か者に反抗する権利はない!」
「何だか謎解きゲームでも遊んでるような気分だね。けどそういう話ならやっぱりタリは【狂化】で操られたんじゃない?血まみれだったのは……何でだろ。」
「血の件なら、多分私の血でも他の囚人の人の血でもないと思うよ。私達誰も怪我してなかったし、医務室に運ばれたのも疲労による鈍痛が理由って聞いた覚えがあるし。」
「じゃあ、キュキュちゃんの血?暴れたのもキュキュちゃんで血を流したのもキュキュちゃんって……どゆこと?誰かと戦いでもしないと、血なんて出なくない?」
「キュキュが凶暴化したタリと戦ったんじゃないでしょうか。自身の尻拭いをするために。」
どうにもこの手の思考が苦手なガジュが黙りこくっていると、シャルルが後ろから声をかけてくる。やはりこの手の事を考えるのはシャルルが一番向いている。真偽は定かでないにしろ、確かな理論を有している様子のシャルルに全てを託し、ガジュは改めて口をつぐんだ。
「当時比較的穏便だった第二人格は、周囲からの期待に応えるためスキルを発動。よく触れ合っていたタリを対象に【狂化】が発動され、タリは暴れ始めた。狂ってしまった最愛の人と、同じく狂ってしまった自分を止めるため、キュキュはキュキュ自身と戦った。これが順当なシナリオだと思います。」
「最近のキュキュちゃんの手によって二つの人格が同時に行動できることは証明されたしね。アルカトラにいた頃にもそれが出来ていたってことか。」
「じゃあ私はキュキュちゃんに守られたってこと?」
「まぁありていに言えばそうですね。だからそもそも、キュキュが土下座する必要なんて無いんですよ。主人格は極めて正当な行いをしていますし、第二人格も多少気が動転しただけで何の罪も犯していません。」
シャルルの語る話が本当かどうかは誰にも分からない。キュキュは自身の行いを変な方向に解釈するし、タリは【狂化】で操られた影響か何も覚えていない。だが覚えていないからこそいいのだろう。シャルルの論法は真実を突き止めるためのものではない。ただシンプルに第二人格を落ち着かせるための論法だ。
果たして第二人格のコントロールは可能なのか。その結果をガジュが固唾を飲んで見守っていると、真下の覇王が再び喚き出す。
「おいガジュ!動く!動くぞ!吾輩のプリティーな体が、元に戻った!」
「謝罪、感謝、自責……。うっ……我は我はぁぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁぁん!!!!」
子供のように泣きじゃくるキュキュと、場違いに小躍りするクルト。これで第二人格をコントロールした、そう言っていいのか悩ましいが、無力化したことは間違いないだろう。
タリやシャルルがキュキュの涙を拭いている間に、ガジュ達の檻には本題が迫っていた。
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