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第五章 囚人と奴隷は紙一重
97.流石に慣れた
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「じゃあ今日からは各々頑張ってくれ!裏商人はこの街のどこかで奴隷にされているはずだ!」
翌朝。一行はエシア自警団本部にてクルトの指示を聞いていた。随分と偉そうに胸を張っているが、真面目に話を聞いているのはアスパただ一人。他五名は、何とも微妙な表情で肘をついている。とりわけガジュは、一人眉間に皺を寄せていた。
クルトから言い渡された裏商人捜索のための作戦概要。二人一組になってアザスト内を巡る。そこまではまぁ良いのだが、ガジュはその組み合わせが極めて不満だった。
アスパとシャルル、ユンとキュキュ、そしてガジュとノア。実に、意味不明だ。
「その前に一回説明しろ。何故この組み合わせなんだ。」
「何故も何も凄く分かりやすいじゃないか。吾輩は指揮官だからここに居座るだろ?実働部隊であるお前達を効率のために二人組に分けると……この組み合わせが妥当になる。」
「まぁ僕とキュキュちゃんは確かに的確だね。キュキュちゃん僕と仲良いし、僕ならキョキョちゃん出てきてもどうにかなるし。」
「あたしは覇王様の最愛の人を守らなきゃならないからな。この組み合わせ以外認めない。」
「じゃあせめて俺を一人にしろ。何故この女とマッチョが付属してるんだ。」
「この女じゃないですよ~。気にせずハニー、って呼んでください!」
文句を言うガジュの後ろで黒光りする男達。ただ立っているだけだというのにどうしてここまで圧を放てるのだろうか。ガジュ自身もある程度体を鍛えている自覚はあるが、後ろの奴らは桁違いだ。
そして何よりも、何故かずっと腕を組んできているこの女。延々と猫撫で声でまとわりつき、人のことを勝手に恋人扱いしてくるノアである。ハクアの妹だからーーという怒りはもうないが、ガジュはシンプルにこの女が嫌いだ。
「丁度よく残ったからってのもあるが、ノアもマッチョもガジュを補完するための存在だぞ。スラム街は暗いとはいえ、昼のガジュは安定しないからな。」
「マッチョはともかく、こいつはただの学生だろ。ベリオット冒険者学校にいるんだからただの銀等級なはずだ。足手まといにしかならない。」
「いや、ノアは結構優秀だぞ?魔道士だから全体的なサポートが激ウマだ。」
「そうですよ~!愛する人を支える為、支援の技術だけは磨いてきました!」
ここまで言われてはもう抗弁のしようがない。右腕をノア、左腕をマッチョ集団に固められ、ガジュ達はアジトを出発した。
◇◆◇
「お前とハクアって……どういう関係なんだ。」
数時間後。アザスト内をぶらつきながら、ガジュは横のノアに問いを投げかける。奴隷が居そうな悪人のアジトへはマッチョが片っ端から突撃してくれているから、ガジュ達がすることは一切ない。流石に戦闘の一つでも起これば戦うつもりだが、今ここで雑談と洒落込んでも怒る人はいないだろう。
「どういうって言われてもぉ……普通に仲のいい兄妹ですよ?」
「最近兄妹だって発覚したんだろ?その過程を聞いてるんだ。」
ハクア・ドム。ハクアのフルネームに名字が存在することはガジュも知っている。同じ孤児であって、明らかに身分の違う存在。それがハクアだ。
それに生き別れの妹がいた、というのはまぁ理解出来るが、二十五年生きてきてどうしてそんな事実が急に発覚したのだろうか。ガジュはずっと疑問に思っていた。
「私が先に気づいたんですよぉ。ほら、顔が似てるでしょう?」
「いや全く似てないだろ。髪色もピンクと白、目の形もあっちは切長でお前は綺麗な丸目。何が似てるんだ。」
「雰囲気ですよ雰囲気。」
何だろうか、この圧倒的な怪しさは。兄妹だ、そう言われたから信じてきたが、よく考えてみれば何の根拠も示されていない。
というかそもそものノアとハクアは真逆に近い人間性だ。ハクアが寛容でノアが差別的、という部分はまぁ育ちで結論づけられるが、彼らは体質から異なっている。
魔力というのは、基本的に遺伝に依存している。魔道士の家系はずっと魔道士であって、ガジュがよく知るラナーナも父親は著名な魔道研究家だ。だがドム家はどうだろうか。
魔法を使うということは共通しているが、ハクアは自信が魔力を持たないが故に魔物から魔力を吸収して魔法を放っているのに対し、ノアは根っからの魔道士。
明らかに異様な関係の中、ガジュの頭に浮かんだのは嫌な想像だった。
「お前……本当にハクアの妹なのか?」
「勿論ですよぉ。私はハクアの妹で……ガジュさんのお嫁さんです。」
ノアの顔がどんどんとガジュに近づいていき、いつの間にか頬を掴まれる。このままキスでもされるのだろうか。何故か抵抗することもできず、このまま流されようか。
頭が一瞬色欲に支配されそうになった瞬間、ガジュは己の舌にフルパワーで噛みついていた。
「うぐっ!危ねぇ……。もう流石に騙されねぇぞ、お前ただの女じゃねぇな。こちとら身内が散々操られてんだ。お前らの手口はもう理解してる。」
「ちぇっ、ざんね~ん。ま、私の仕事は終わったから逃げま~す!じゃあね、ガジュ様!」
「はぁ!?待て、お前一体何のつもりだ!」
右半分は女、左半分は男のような体型へと変化し、完全に本性を表したノア。
間違いなくこいつの正体は魔族であり、あそこでガジュが自我を保たねば何かしらの洗脳を受けていたのだろう。話していた内容的に「相手と自分の関係性を誤認させる」といったような力だろうか。ハクア達を操った本人ではないだろうが、こいつを野放しにしていいはずがない。
ガジュは逃げていくノアを必死で追いかけ、腕を掴んで地面に叩きつける。
「あらら捕まっちゃったぁ。じゃあ一個だけ教えてあげます。私がガジュ様についてきたのは、『クリミナル』を壊滅させる為。このままお兄ちゃん達と結託されるとまずいから、今のうちに消しておくことになったんです!」
「てことは……お前以外にも刺客が来てるってことか。」
「そういうことで~す!丁度二人一組になってくれたし、殺すなら今しかないでしょ!」
それだけを言い残し、ノアが黒煙となって消えていく。この戦闘意思の低さからして、ノアは非戦闘要員。どうやらユンの言っていた「魔族はある程度社会性を持った集団」という話は事実だったようだ。
自分を殺すために、別の魔族が現れる。
ガジュがそう認識して拳を握ると、案の定別の黒いモヤが地面から噴き出ていた。
「我は憎悪を示す者……ガジュ・アザットよ、我に憎悪を示すが良い。」
「はっ、しょうもねぇ。」
コウモリのような翼を生やした黒い魔族が現れ、ガジュと向き合う。その足元にはつい先ほど分かれたばかりのマッチョ達が転がり、大量の血を流していた。
ガジュ・アザッド。
三度目の魔族討伐開始である。
翌朝。一行はエシア自警団本部にてクルトの指示を聞いていた。随分と偉そうに胸を張っているが、真面目に話を聞いているのはアスパただ一人。他五名は、何とも微妙な表情で肘をついている。とりわけガジュは、一人眉間に皺を寄せていた。
クルトから言い渡された裏商人捜索のための作戦概要。二人一組になってアザスト内を巡る。そこまではまぁ良いのだが、ガジュはその組み合わせが極めて不満だった。
アスパとシャルル、ユンとキュキュ、そしてガジュとノア。実に、意味不明だ。
「その前に一回説明しろ。何故この組み合わせなんだ。」
「何故も何も凄く分かりやすいじゃないか。吾輩は指揮官だからここに居座るだろ?実働部隊であるお前達を効率のために二人組に分けると……この組み合わせが妥当になる。」
「まぁ僕とキュキュちゃんは確かに的確だね。キュキュちゃん僕と仲良いし、僕ならキョキョちゃん出てきてもどうにかなるし。」
「あたしは覇王様の最愛の人を守らなきゃならないからな。この組み合わせ以外認めない。」
「じゃあせめて俺を一人にしろ。何故この女とマッチョが付属してるんだ。」
「この女じゃないですよ~。気にせずハニー、って呼んでください!」
文句を言うガジュの後ろで黒光りする男達。ただ立っているだけだというのにどうしてここまで圧を放てるのだろうか。ガジュ自身もある程度体を鍛えている自覚はあるが、後ろの奴らは桁違いだ。
そして何よりも、何故かずっと腕を組んできているこの女。延々と猫撫で声でまとわりつき、人のことを勝手に恋人扱いしてくるノアである。ハクアの妹だからーーという怒りはもうないが、ガジュはシンプルにこの女が嫌いだ。
「丁度よく残ったからってのもあるが、ノアもマッチョもガジュを補完するための存在だぞ。スラム街は暗いとはいえ、昼のガジュは安定しないからな。」
「マッチョはともかく、こいつはただの学生だろ。ベリオット冒険者学校にいるんだからただの銀等級なはずだ。足手まといにしかならない。」
「いや、ノアは結構優秀だぞ?魔道士だから全体的なサポートが激ウマだ。」
「そうですよ~!愛する人を支える為、支援の技術だけは磨いてきました!」
ここまで言われてはもう抗弁のしようがない。右腕をノア、左腕をマッチョ集団に固められ、ガジュ達はアジトを出発した。
◇◆◇
「お前とハクアって……どういう関係なんだ。」
数時間後。アザスト内をぶらつきながら、ガジュは横のノアに問いを投げかける。奴隷が居そうな悪人のアジトへはマッチョが片っ端から突撃してくれているから、ガジュ達がすることは一切ない。流石に戦闘の一つでも起これば戦うつもりだが、今ここで雑談と洒落込んでも怒る人はいないだろう。
「どういうって言われてもぉ……普通に仲のいい兄妹ですよ?」
「最近兄妹だって発覚したんだろ?その過程を聞いてるんだ。」
ハクア・ドム。ハクアのフルネームに名字が存在することはガジュも知っている。同じ孤児であって、明らかに身分の違う存在。それがハクアだ。
それに生き別れの妹がいた、というのはまぁ理解出来るが、二十五年生きてきてどうしてそんな事実が急に発覚したのだろうか。ガジュはずっと疑問に思っていた。
「私が先に気づいたんですよぉ。ほら、顔が似てるでしょう?」
「いや全く似てないだろ。髪色もピンクと白、目の形もあっちは切長でお前は綺麗な丸目。何が似てるんだ。」
「雰囲気ですよ雰囲気。」
何だろうか、この圧倒的な怪しさは。兄妹だ、そう言われたから信じてきたが、よく考えてみれば何の根拠も示されていない。
というかそもそものノアとハクアは真逆に近い人間性だ。ハクアが寛容でノアが差別的、という部分はまぁ育ちで結論づけられるが、彼らは体質から異なっている。
魔力というのは、基本的に遺伝に依存している。魔道士の家系はずっと魔道士であって、ガジュがよく知るラナーナも父親は著名な魔道研究家だ。だがドム家はどうだろうか。
魔法を使うということは共通しているが、ハクアは自信が魔力を持たないが故に魔物から魔力を吸収して魔法を放っているのに対し、ノアは根っからの魔道士。
明らかに異様な関係の中、ガジュの頭に浮かんだのは嫌な想像だった。
「お前……本当にハクアの妹なのか?」
「勿論ですよぉ。私はハクアの妹で……ガジュさんのお嫁さんです。」
ノアの顔がどんどんとガジュに近づいていき、いつの間にか頬を掴まれる。このままキスでもされるのだろうか。何故か抵抗することもできず、このまま流されようか。
頭が一瞬色欲に支配されそうになった瞬間、ガジュは己の舌にフルパワーで噛みついていた。
「うぐっ!危ねぇ……。もう流石に騙されねぇぞ、お前ただの女じゃねぇな。こちとら身内が散々操られてんだ。お前らの手口はもう理解してる。」
「ちぇっ、ざんね~ん。ま、私の仕事は終わったから逃げま~す!じゃあね、ガジュ様!」
「はぁ!?待て、お前一体何のつもりだ!」
右半分は女、左半分は男のような体型へと変化し、完全に本性を表したノア。
間違いなくこいつの正体は魔族であり、あそこでガジュが自我を保たねば何かしらの洗脳を受けていたのだろう。話していた内容的に「相手と自分の関係性を誤認させる」といったような力だろうか。ハクア達を操った本人ではないだろうが、こいつを野放しにしていいはずがない。
ガジュは逃げていくノアを必死で追いかけ、腕を掴んで地面に叩きつける。
「あらら捕まっちゃったぁ。じゃあ一個だけ教えてあげます。私がガジュ様についてきたのは、『クリミナル』を壊滅させる為。このままお兄ちゃん達と結託されるとまずいから、今のうちに消しておくことになったんです!」
「てことは……お前以外にも刺客が来てるってことか。」
「そういうことで~す!丁度二人一組になってくれたし、殺すなら今しかないでしょ!」
それだけを言い残し、ノアが黒煙となって消えていく。この戦闘意思の低さからして、ノアは非戦闘要員。どうやらユンの言っていた「魔族はある程度社会性を持った集団」という話は事実だったようだ。
自分を殺すために、別の魔族が現れる。
ガジュがそう認識して拳を握ると、案の定別の黒いモヤが地面から噴き出ていた。
「我は憎悪を示す者……ガジュ・アザットよ、我に憎悪を示すが良い。」
「はっ、しょうもねぇ。」
コウモリのような翼を生やした黒い魔族が現れ、ガジュと向き合う。その足元にはつい先ほど分かれたばかりのマッチョ達が転がり、大量の血を流していた。
ガジュ・アザッド。
三度目の魔族討伐開始である。
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