追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

文字の大きさ
99 / 124
第五章 囚人と奴隷は紙一重

98.正義はいつだってアンバランス

しおりを挟む
「アスパ……。順当に行けばこれは一旦逃げた方がいい場面かもしれません。」
「そうさせて貰えるならいいけどねぇ……。あたしは無理な気がするよ。」
「同感です。第一、見過ごせません。」

 アザスト中心街のマーケットから一本入った裏路地。この辺りで奴隷を買い集めているという宝石商を探しに来たシャルル、アスパのペアは、恐るべき光景に遭遇していた。
 地面に血だらけで倒れるハゲ親父。クルトの集めた情報と見た目の特徴が一致しているし、恐らくこの男が例の宝石商だろう。やはりこのマーケットに来たのは間違っていなかった。が、どうやら少し遅かったらしい。

 ハゲ親父の上にぬらりと立つ鎌を持った化け物。カラスのような黒い羽を生やしたその男は、誰がどう見ても魔族と呼ぶべき存在だった。

「もしかしてこれがクルトの言っていた『霧』とかいう殺人鬼でしょうか。」
「そうだろうねぇ。お嬢ちゃん、さっさと逃げな。あたしは覇王様からあんたの護衛を仰せ使ってるんだ。こいつの相手はあたしが引き受ける。」
「魔族を相手に一人逃亡するなど、シャルの正義が許しません。逃げるなら貴方も一緒です。もっとも、殺人鬼を放置する気はありませんから、こいつを倒してからになりますが。」
「大した正義感だねぇ。じゃあとにかく、死なないでおくれよ。」

 まだこちらに気づいていないのだろう。『霧』は鎌についた血を拭い取り、殺した宝石商の顔を凝視している。その後ゆっくりと体を起こし、ようやくシャルル達を睨みつけ始めた。

「あぁ……。また、また出会えなかった。どこへ行ってしまったのだ愛する娘よ……。どこを探しても、娘に会えない。我が娘、我が娘よ!」
「お嬢ちゃん、一応聞いておくがこいつは魔族って事でいいんだよな?」
「ほぼ確実にそうです。『霧』という通称の通り、魔族は実態を持たず黒いモヤになって移動します。逃げられないよう注意してください。それと、決して奴らと契約しないように。」
「契約?」
「えぇ。詳しいことは分かりませんが、人間が魔族と契約するとスキルが大幅に強化される代わりに奴らに体を乗っ取られるんです。どの程度自我を奪われるかどうかは魔族の性質にもよるみたいですが……とにかく彼らの言葉に耳を貸さない方がいいのは確かです。」

 シャルルはテンパランスやチャリオットなど魔族と出会ったことで、彼らに関する知識を豊富に有しているが、アスパはただの自警団団長。素早く情報を共有し、アスパが覚悟を決めたようにして腰に下げていた肉切り包丁を引き抜く。
 そしてその対面で、魔族が目を輝かせていた。

「貴様、我々について知っているのか?ならば問おう。我が娘、我が娘を知らないか!」
「娘?知りません。魔族にも親子関係があるんですか?」
「はぁ……貴様も知らぬか。よい、ならば消すのみだ。我が名は『デス』。愚者以外に興味はない。無知に死を、死はいつでもすぐそばに。」
「来るよ!」

 鎌を振り上げ、一直線にこちらへ向かってくるデス。その動きを確認し、素早くアスパが前に出る。肉切り包丁と鎌が激しくぶつかり合い、耳を裂くような金属音が鳴り響いていく。

「お嬢ちゃん!基本的にはあたしが戦闘するから、危なくなった時だけ【投獄】で逃がしてくれ!勿論自分の身を最優先にね!」
「分かりました。気をつけてくださいね。」
「任せな。伊達に悪人やってないんでね。あたしは、タイマン最強だ。【悪党の誇りバッド・ラッド】!」

 アスパが肉切り包丁でデスを切り付けた瞬間、彼女のたくましい背筋から赤色の糸のようなものが射出される。それはそのままデスの体に絡みつき、アスパは連撃を加えていった。

「あたしのスキル、【悪党の誇りバッド・ラッド】は命中を補助する力でねぇ!一度斬撃を当ててこの糸を巻き付けちまえば……十分間、絶対に攻撃が命中する。」
「はぁ、くだらん力だ。我が娘には数段劣る、哀れな力よ。」

 鎌で跳ね返そうと、体を翻して回避しようと。どれだけアスパの肉切り包丁を無効化しても、デスの体から黒色の煙が噴き上がる。相手が魔族だから決定打になっていないが、確かにこのスキルはタイマン最強とも言えるものだろう。
 初激を当てなければならない点や十分間の制限時間など諸制限はあるものの、ただ転移するだけのシャルルからすれば羨ましいほど強力な戦闘スキル。

 最早助けに入るまでもなく、ただシャルルが彼女達の戦いを眺めていると、アスパの体が突如として崩れ落ちる。

「な、なんだ!?急に……呼吸がっ!」
「貴様、煙草を吸っているな。呼吸器をおろそかにするからそうなるのだ。それが、貴様の死因になる。」
「あぁ!?テメェ、一体何しやがった!」
「我は死を司どるもの。我に触れた馬鹿者は、その寿命を奪われ己の死に様を直視する。」

 膝を突き、咳き込み始めるアスパ。筋骨隆々としたその体には次第に皺が刻まれていき、あっという間にその場へ倒れ込む。
 白くなった髪、しぼんだ体に曲がった腰。ダメージこそ全く負っていないが、かなり危険な状態である。

「アスパ!?大丈夫ですか、アスパ!」
「うぅ……早く逃げな、お嬢ちゃん。攻撃したら寿命を奪われるだなんて馬鹿げた性能の相手だ、勝てるはずがない。ごっほぉ……!」
「逃げられるわけないでしょう!シャルルは正義を貫く者です!相手が誰だろうと、仲間を傷つけ、人を殺した相手を絶対に許しません!」
「逃げ時も分からないのかい。流石は覇王様のお友達だ、見上げた正義感だよ……。」

『クリミナル』の中でシャルルは常識人のような扱いをされているが、実際のところあれは間違いだ。冷静さで言えばいつだってユンに軍配が上がるだろうし、特定の条件さえ満たさなければキュキュにすら負けている。

 常に正義を追い求め、悪きものへと立ち向かい続ける。

 いつだって一番馬鹿で、一番頭がおかしいのがシャルルだ。自分がテレポートしか出来ないことも、相手が圧倒的強さを誇っていることも分かっている。分かった上で逃げられないのだ。
 ここでアスパを連れて逃げても、どうせ彼女は死んでしまう。ならば自分が全身全霊を持ってこの悪しき魔族を葬り、アスパの寿命を奪い返す。 
 出来るかどうかは問題ではない。ただそれが一番正義だと思うからそうするのだ。怯えは何も生まない、ガジュはそう教えてくれた。
 
 ただ明確な信念に基づき、狂信的なまでに歪な正義を振りかざす。それが、シャルルという少女である。

「次は貴様だ。貴様も我が娘ではない。ただ、死あるのみ。」
「ふぅ……。上等でーーーす!!!!例えこの身が朽ち果てようと!!!!貴方を裁きまーーーす!!!」

 相手は魔族。それも死を司どるとかいう化け物。内に秘めた恐怖心を払拭すべく、シャルルは久々にメガホンを取り出す。
 王道のスタイルとなった正義の化身が棍棒を構え、死の象徴と向き合った時。シャルルの体は黒いモヤに包まれていた。

「素晴らしい。素晴らしいじゃないか!!!!!我が名はジャスティス!無謀な戦いに挑む小さなヒーローに、力を授けよう!!!」

 唐突に現れ、金色の髪をたなびかせた女は、シャルルに輝く白い歯を向けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...