7 / 106
救世猫、ミリア
しおりを挟む
侍女ヒルラのど正論に何も返せず、シーンとした部屋の中、
コトッと音がして、本棚を見上げると、黒く動く物体がー
ー猫がいた。
全身真っ黒なやや小柄な猫が本棚から降りてきて、俺の膝に乗って丸くなった。
「み、ミリア!殿下、申し訳ありません」
「ミリア?…そなたの猫か?」
俺に名前を呼ばれて顔を上げた猫と目が合う。右目が紫、左目が翡翠色のオッドアイだ。
ヒルラとリリアナが、アワアワと立ち上がるが、それを手で制する。
「よい。」
ミリアはリリアナやヒルラを見回して、また俺の膝の上で丸くなった。目を瞑って眠るつもりのようだ。
一旦休戦となることに皆異存はない・・とみた。
「・・・ヒルラ、茶をいれてくれぬか」
「こ、これは大変失礼いたしました。すぐに準備いたします」
まだアワアワとしているリリアナに座るように伝え、このまま流れで茶会をすることにした。
この猫が現れなかったら危なかった!
特別猫好きというわけではないが、今日ばかりは猫の功績を心中で讃えまくる。
ヒルラが茶の支度のため離れたこともあり、俺は話題を変えることにした。
手始めに猫の話を聞くと、リリアナもホッとした様子で話し始める。
リリアナは昔から猫好きだったが、妃教育で家を空けることも多く、また、結婚しても王宮へ連れて行けるかわからない、と飼うのを我慢してきた。婚姻後はこの旧宮へ引っ越したのを機に、かねてよりの夢、「猫を飼う」を叶えた。ちなみにミリアはまだ子猫で、輿入れの際に親戚が贈ってくれたのだという。
「可愛い猫だな」と褒めると、リリアナが嬉しそうに、はにかんだ。
えーちょっと待って、可愛くて死にそう。顔がカッと熱くなった。口元が緩々になってしまっている自覚はあるので、紅茶を飲むふりをしながら、ティーカップで口を覆い、その瞬間に盛大に口を緩ませた。
「殿下、顔が赤いですわ。大丈夫ですか?お茶が熱かったのでは?」
リリアナに指摘されて盛大に咳き込んだら、驚いたミリアが床に降り立った。茶が気管に入ったらしく、咳で息が吸えず苦しい。涙目になりながら咽せていると、誰かが背中をさすってくれる。
「ヒルラ、だれか人を」とリリアナが指示する声が傍から聞こえる。背中をさすってくれているのはリリアナ…?
リリアナとの時間を何人たりにも邪魔されたくない。俺は強い意志を持って、咳反射を抑え込んだ。
「んっ、ぐっ、だ、大丈夫だリリアナ。気遣わせてすまない。」
しかし背中はさすってくれ。
「殿下、本当に大丈夫ですか?」
「多分大丈夫だ…が、背中を撫でてもらっていた方が息が楽だ。続けてほしい。」
「は、はい」
俺の隣に座り、背中をさすってくれるリリアナ。落ち着いたと見たのか、またミリアが俺の膝に乗ってきた。
「ミリアは人懐こいな」
「いつもは逃げ回っていて、このように人の膝に乗るようなことはないのですが…」
「そうか、俺の事を気に入ってくれたのか?」
ミリアがゴロゴロと喉を鳴らすと、リリアナが「まあ、答えているわ!」と目を丸くして喜んでいる。
・・・本当は、ヒルラの問いに答えねばならない。
俺がすべきは謝罪なのだ。
しかし・・・なぜ俺があんな態度を取り続けていたのか、うまく説明できる気がしなかった。
謝るのは簡単、だがリリアナが欲しいのはその理由だろう。
ここで謝罪しないのは逃げだ卑怯者、と非難する自分もいる。
だが、今度こそ、リリアナと、自分とちゃんと向き合いたい。
気づけば俺が訪れてから1時間強経っていた。
…名残惜しいが、そろそろ潮時だ。去る前に、これだけは聞かねば。
「またミリアに会いにきても良いだろうか?」
断られたら、嫌そうな表情をされたら、と思うと、リリアナの顔を直視出来ない。
ミリアに目線を注ぎながら、全神経が耳に集まっている。
「殿下が会いにきてくれましたら、ミリアも喜びましょう。あの、ですが、先触れは…」
「先触れは出す。必ず」
リリアナを振り返り、背をさすってくれていた手を握る。
「リリアナ、ありがとう」
いい加減に自覚していた。
間近に見たリリアナのライラックの瞳に、ずっと自分を映していてほしい、と思うこの気持ちに。
リリアナにも俺と同じ気持ちを抱いてほしい、と願っているこの気持ちに。
コトッと音がして、本棚を見上げると、黒く動く物体がー
ー猫がいた。
全身真っ黒なやや小柄な猫が本棚から降りてきて、俺の膝に乗って丸くなった。
「み、ミリア!殿下、申し訳ありません」
「ミリア?…そなたの猫か?」
俺に名前を呼ばれて顔を上げた猫と目が合う。右目が紫、左目が翡翠色のオッドアイだ。
ヒルラとリリアナが、アワアワと立ち上がるが、それを手で制する。
「よい。」
ミリアはリリアナやヒルラを見回して、また俺の膝の上で丸くなった。目を瞑って眠るつもりのようだ。
一旦休戦となることに皆異存はない・・とみた。
「・・・ヒルラ、茶をいれてくれぬか」
「こ、これは大変失礼いたしました。すぐに準備いたします」
まだアワアワとしているリリアナに座るように伝え、このまま流れで茶会をすることにした。
この猫が現れなかったら危なかった!
特別猫好きというわけではないが、今日ばかりは猫の功績を心中で讃えまくる。
ヒルラが茶の支度のため離れたこともあり、俺は話題を変えることにした。
手始めに猫の話を聞くと、リリアナもホッとした様子で話し始める。
リリアナは昔から猫好きだったが、妃教育で家を空けることも多く、また、結婚しても王宮へ連れて行けるかわからない、と飼うのを我慢してきた。婚姻後はこの旧宮へ引っ越したのを機に、かねてよりの夢、「猫を飼う」を叶えた。ちなみにミリアはまだ子猫で、輿入れの際に親戚が贈ってくれたのだという。
「可愛い猫だな」と褒めると、リリアナが嬉しそうに、はにかんだ。
えーちょっと待って、可愛くて死にそう。顔がカッと熱くなった。口元が緩々になってしまっている自覚はあるので、紅茶を飲むふりをしながら、ティーカップで口を覆い、その瞬間に盛大に口を緩ませた。
「殿下、顔が赤いですわ。大丈夫ですか?お茶が熱かったのでは?」
リリアナに指摘されて盛大に咳き込んだら、驚いたミリアが床に降り立った。茶が気管に入ったらしく、咳で息が吸えず苦しい。涙目になりながら咽せていると、誰かが背中をさすってくれる。
「ヒルラ、だれか人を」とリリアナが指示する声が傍から聞こえる。背中をさすってくれているのはリリアナ…?
リリアナとの時間を何人たりにも邪魔されたくない。俺は強い意志を持って、咳反射を抑え込んだ。
「んっ、ぐっ、だ、大丈夫だリリアナ。気遣わせてすまない。」
しかし背中はさすってくれ。
「殿下、本当に大丈夫ですか?」
「多分大丈夫だ…が、背中を撫でてもらっていた方が息が楽だ。続けてほしい。」
「は、はい」
俺の隣に座り、背中をさすってくれるリリアナ。落ち着いたと見たのか、またミリアが俺の膝に乗ってきた。
「ミリアは人懐こいな」
「いつもは逃げ回っていて、このように人の膝に乗るようなことはないのですが…」
「そうか、俺の事を気に入ってくれたのか?」
ミリアがゴロゴロと喉を鳴らすと、リリアナが「まあ、答えているわ!」と目を丸くして喜んでいる。
・・・本当は、ヒルラの問いに答えねばならない。
俺がすべきは謝罪なのだ。
しかし・・・なぜ俺があんな態度を取り続けていたのか、うまく説明できる気がしなかった。
謝るのは簡単、だがリリアナが欲しいのはその理由だろう。
ここで謝罪しないのは逃げだ卑怯者、と非難する自分もいる。
だが、今度こそ、リリアナと、自分とちゃんと向き合いたい。
気づけば俺が訪れてから1時間強経っていた。
…名残惜しいが、そろそろ潮時だ。去る前に、これだけは聞かねば。
「またミリアに会いにきても良いだろうか?」
断られたら、嫌そうな表情をされたら、と思うと、リリアナの顔を直視出来ない。
ミリアに目線を注ぎながら、全神経が耳に集まっている。
「殿下が会いにきてくれましたら、ミリアも喜びましょう。あの、ですが、先触れは…」
「先触れは出す。必ず」
リリアナを振り返り、背をさすってくれていた手を握る。
「リリアナ、ありがとう」
いい加減に自覚していた。
間近に見たリリアナのライラックの瞳に、ずっと自分を映していてほしい、と思うこの気持ちに。
リリアナにも俺と同じ気持ちを抱いてほしい、と願っているこの気持ちに。
214
あなたにおすすめの小説
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる