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殿下は新しいモードを使いこなす
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殿下が体調を崩されたと聞き、朝、執務の前にお見舞いに向かうと、案内されたのは王太子王太子妃の寝室だった。
殿下は少し前からこの寝室で寝起きしていたらしい。
ジェスからは「ご夫妻の寝室なのですから、入るのに遠慮する必要はありません!ささっ!」と促され、”初夜の惨劇”の事件現場に久しぶりに入った。
キィパタン
音を立てないように気をつけながら入る。
朝の柔らかな光の差し込む部屋は、若夫婦の寝室を意識してか、重厚感を重視した正殿には珍しく、ミントグリーンを基調に淡い色合いをしている。
いい思い出はないけれど、部屋の雰囲気や内装は好みなのよね・・。
殿下は、広いベッドの片側で寝ているようだ。
そういえば、殿下の寝ているところを見るのも、寝間着姿を見るのも初めてだわ。
いつもは部屋着の私の下へ、仕事着の殿下が来るけれど、今日は私がドレスだから、立場が逆ね。
なんとなく、優位に立った気がして、声をかけずに静かに近づく。
殿下は銀にも見える絹の寝間着を着て寝ていた。
いつもは髪も着衣も乱れがない殿下だけれど、少し乱れた髪、熱のせいか上気した顔、寝間着の上のボタンを外し少し見える鎖骨。
もんのすごく色っぽいのですが・・・!!
先ほどまでは、いたずら心のようなものも感じて、少しワクワクしてしまっていたが、迂闊だった。
はぁ、とため息をつく。
しまったなぁ、殿下は並のかっこよさではないんだったわ。目に毒!
殿下の額に手を当てて熱を見ようかとも思ったが、それで起こして療養の邪魔になってもいけない。
朝の執務まで、居れる間はここで過ごして、起きないんだったら諦めよう。
ベッドサイドに「月刊 猫と生活」という雑誌があったので、手を伸ばしてページをめくり出したその時、殿下から確かに呼ばれた。
殿下がいく筋も涙を流している。
熱のせいかすっかり涙脆くなっていて痛々しかった。
まだ額が熱い。
やはり気が弱っているのだろう。
ぎゅっと手を握ってきた。その手も熱い。
このままここにいてほしいみたいなことを言われたけれども、私にも執務がある。
殿下がお休みされている分も、しっかり補佐せねば。
なかなか手を離してくれない殿下だったが、呼びに来てくれたジェスが何事かを囁くと、殿下はようやく私を解放してくれた。
ジェスは今日、殿下の執務の補佐のために私についてくれることになり、仕事は随分捗った。
それでも、やはり合間合間に殿下が気になった。
昼餉の時間などを利用してお見舞いに行くようになり、「喉が痛くて食欲がない」と訴える殿下に食べさせてあげたり、ちゃんと食べられているか見るために、その後は朝昼夕とできるだけ寝室で一緒に食事をとるようになった。
そしてまたお見舞いに来た私は、なぜか殿下に呼び方を矯正されている。
「でん・・」
「セイラムだ、リリアナ。」
ふるふると首を振り、眉尻を下げた殿下がじっと見つめてくる。
「せ、セイラム様」
「違う・・・セイラム、だ。リリアナ」
殿下、なんなんですか、その悲しみをたたえた目は。
殿下曰く、ジュリアンを名前呼びしていたように、自分も名前で呼ばれたい、とのこと。
「殿下、無理です。そんな急には変えられません。ましてや王太子である殿下を名で呼ぶなど、恐れ多いです」
「母上も、父上のことを名前で呼んでいた・・」
「え・・?そうなのですか?」
殿下が故王妃様の話をするのは初めて聞いた。
いやでもだからって・・
「リリアナ・・頼む・・」
殿下、だから本当に、なんなんですか、その悲しみをたたえた目は。
えーい、ままよ。
「それでは、セ、セイ様・・」
セイ様と呼んだ瞬間、殿下の下がり眉がパッと元に戻った。
「セイ様・・セイ様・・それもいい。」
セイ様呼びは、2人だけの時や私室にいる時だけにすることを、渋る殿下に約束させ、私はセイ様呼びを受け入れた。
殿下は少し前からこの寝室で寝起きしていたらしい。
ジェスからは「ご夫妻の寝室なのですから、入るのに遠慮する必要はありません!ささっ!」と促され、”初夜の惨劇”の事件現場に久しぶりに入った。
キィパタン
音を立てないように気をつけながら入る。
朝の柔らかな光の差し込む部屋は、若夫婦の寝室を意識してか、重厚感を重視した正殿には珍しく、ミントグリーンを基調に淡い色合いをしている。
いい思い出はないけれど、部屋の雰囲気や内装は好みなのよね・・。
殿下は、広いベッドの片側で寝ているようだ。
そういえば、殿下の寝ているところを見るのも、寝間着姿を見るのも初めてだわ。
いつもは部屋着の私の下へ、仕事着の殿下が来るけれど、今日は私がドレスだから、立場が逆ね。
なんとなく、優位に立った気がして、声をかけずに静かに近づく。
殿下は銀にも見える絹の寝間着を着て寝ていた。
いつもは髪も着衣も乱れがない殿下だけれど、少し乱れた髪、熱のせいか上気した顔、寝間着の上のボタンを外し少し見える鎖骨。
もんのすごく色っぽいのですが・・・!!
先ほどまでは、いたずら心のようなものも感じて、少しワクワクしてしまっていたが、迂闊だった。
はぁ、とため息をつく。
しまったなぁ、殿下は並のかっこよさではないんだったわ。目に毒!
殿下の額に手を当てて熱を見ようかとも思ったが、それで起こして療養の邪魔になってもいけない。
朝の執務まで、居れる間はここで過ごして、起きないんだったら諦めよう。
ベッドサイドに「月刊 猫と生活」という雑誌があったので、手を伸ばしてページをめくり出したその時、殿下から確かに呼ばれた。
殿下がいく筋も涙を流している。
熱のせいかすっかり涙脆くなっていて痛々しかった。
まだ額が熱い。
やはり気が弱っているのだろう。
ぎゅっと手を握ってきた。その手も熱い。
このままここにいてほしいみたいなことを言われたけれども、私にも執務がある。
殿下がお休みされている分も、しっかり補佐せねば。
なかなか手を離してくれない殿下だったが、呼びに来てくれたジェスが何事かを囁くと、殿下はようやく私を解放してくれた。
ジェスは今日、殿下の執務の補佐のために私についてくれることになり、仕事は随分捗った。
それでも、やはり合間合間に殿下が気になった。
昼餉の時間などを利用してお見舞いに行くようになり、「喉が痛くて食欲がない」と訴える殿下に食べさせてあげたり、ちゃんと食べられているか見るために、その後は朝昼夕とできるだけ寝室で一緒に食事をとるようになった。
そしてまたお見舞いに来た私は、なぜか殿下に呼び方を矯正されている。
「でん・・」
「セイラムだ、リリアナ。」
ふるふると首を振り、眉尻を下げた殿下がじっと見つめてくる。
「せ、セイラム様」
「違う・・・セイラム、だ。リリアナ」
殿下、なんなんですか、その悲しみをたたえた目は。
殿下曰く、ジュリアンを名前呼びしていたように、自分も名前で呼ばれたい、とのこと。
「殿下、無理です。そんな急には変えられません。ましてや王太子である殿下を名で呼ぶなど、恐れ多いです」
「母上も、父上のことを名前で呼んでいた・・」
「え・・?そうなのですか?」
殿下が故王妃様の話をするのは初めて聞いた。
いやでもだからって・・
「リリアナ・・頼む・・」
殿下、だから本当に、なんなんですか、その悲しみをたたえた目は。
えーい、ままよ。
「それでは、セ、セイ様・・」
セイ様と呼んだ瞬間、殿下の下がり眉がパッと元に戻った。
「セイ様・・セイ様・・それもいい。」
セイ様呼びは、2人だけの時や私室にいる時だけにすることを、渋る殿下に約束させ、私はセイ様呼びを受け入れた。
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